COLUMN

コラム

相続した不動産に仮差押の登記がある場合に、抹消してもらう方法

被相続人から不動産を相続したところ、その不動産に仮差押えの登記がされていることが判明した場合、直ちに不動産が競売にかけられるわけではありません。しかし、いずれ債権者が本案訴訟(貸金返還請求訴訟など)を提起して勝訴判決を得ると、その判決に基づいて不動産が差し押さえられ、強制執行(競売)に進む可能性があります。

また、仮差押えの登記が残っている状態では、買主はそのリスクを嫌うため、事実上、不動産を売却することは極めて困難です。

そのため、相続人としては、この仮差押登記を抹消する必要があります。以下では、そのための主要な4つの方法を、実務的な視点から解説します。

 

仮差押登記を抹消する3つの方法

相続人が仮差押登記を抹消するための主な方法は、次の4つです。状況に応じて最適なものを選択する必要があります。

  1. 債権者との交渉による取下げ
  2. 解放金の供託による執行取消し
  3. 起訴命令の申立て
  4. 保全取消しの申立て(事情変更など)

債権者による取下げ

最も穏便かつ、場合によっては迅速な解決が期待できるのが、債権者と話し合って、債権者が申し立てた仮差押命令の申立てを取り下げてもらうことです。

債権者としては、債権回収のために申し立てた仮差押登記の取下げを、タダで応じることはまずないので、債権額の支払いを請求される可能性は高いです。債権額にもよりますが、話し合いは難航するでしょう。弁済額について、一括での支払いが困難な場合は、分割払いや、元金の一部免除(減額)などの交渉も考えられます。

さらに、仮差押えの登記をした債権者が死亡していた場合には、その相続人と話し合う必要があります。場合によってはその調査から行い、相続人が複数いれば各自と話し合わなければならないこともあります。

話し合いがまとまったら、必ず「仮差押申立取下書」を裁判所に提出してもらうことや、債務の残額などを明確にした合意書を作成しましょう。

解放金の供託による執行取消し

不動産を早期に売却したい場合など、迅速に仮差押登記を抹消したい場合に極めて有効な方法です。

仮差押命令では、通常、「仮差押解放金」の額が定められています。債務者(相続人)がこの解放金を法務局に供託することで、仮差押えの「執行」を取り消すよう裁判所に申し立てることができ、認められれば登記を抹消できます(民事保全法第51条、第22条)。

【メリット】

  • 債権者の同意が不要で、手続きを進められます。
  • 供託すれば速やかに登記を抹孤できるため、不動産売却の障害をなくすことができます。

【デメリット】

  • 解放金としてまとまった現金を用意する必要があります(ただし、不動産を売却してその売却代金から供託金を回収することも可能です)。
  • これはあくまで仮差押えの「執行」を取り消す手続きであり、債務そのものが消えるわけではありません。最終的に本案訴訟で敗訴すれば、供託金は債権者に配当されます。

起訴命令の申立て

仮差押えが登記されたまま、債権者が本案訴訟を提起せずに長期間放置している場合があります。このような場合、債務者(相続人)は、裁判所に対して「債権者は〇週間以内に本案の訴えを提起せよ」という命令(起訴命令)を出すよう申し立てることができます(民事保全法第37条第1項)。

債権者がその定められた期間内に訴えを提起したことを証明しない場合、債務者(相続人)はさらに保全取消しの申立てをすることで、裁判所は仮差押命令を取り消します(同条第3項)。これにより登記の抹消が可能となります。

【メリット】

  • 債権者に弁済することなく、仮差押えを解消できる可能性があります。

【デメリット】

  • この申立ては、いわば「眠っている子を起こす」行為です。債権者に訴訟提起を促すことになり、本格的な紛争に発展するリスクがあります。債権の存在自体に争いがなく、敗訴の可能性が高い場合には慎重に検討すべきです。

 

保全取消しの申立て(事情変更など)

起訴命令以外にも、以下の理由で仮差押命令の取消しを求めることができます。

(1) 事情変更による保全取消し(民事保全法第38条) 仮差押えを維持すべき事情がなくなった(変化した)ことを理由に、取消しを求める方法です。 実務上、最も主張される「事情の変更」は被保全債権の消滅時効の完成です。被相続人に対する債権が既に時効で消滅している場合、相続人はその時効を援用(主張)することで、仮差押えの前提となる権利が消滅したとして、取消しを求めることができます。 この申立てでは、事情が変更したことを債務者側が証明(疎明)する必要があります。

(2) 特別事情による保全取消し(民事保全法第39条) 「仮差押命令により債務者に生ずべき償うことができない損害を避けるため、その他特別の事情があるとき」にも、取消しを申し立てることができます。

 

どの方法を選択すべきか

どの方法が最適かは、まさにケースバイケースです。

  • 債権の存在に争いがない場合: 「債権者との交渉」や「解放金の供託」が現実的な選択肢となります。
  • 債権の存在自体を争いたい、時効の可能性がある場合: 「起訴命令」や「事情変更による保全取消し」を検討します。ただし、訴訟リスクを伴います。
  • 不動産をすぐにでも売却したい場合: 「解放金の供託」が最もスピーディな解決につながります。

これらの手続きは、法律的な専門知識と状況に応じた戦略的な判断が不可欠です。相続した不動産に仮差押登記がありお困りの際は、ご自身の判断だけで進めず、まずは弁護士に相談し、債権額、相続財産、債権の有効性などを総合的に検討した上で、最適な方針を決定することをお勧めします。

コラム一覧