ホストクラブの売掛金トラブルと性労働への強要に対する刑事告訴について

はじめに
悪質ホストクラブで飲食をした女性客が、売掛金等の名目で多額の債務を負わされ、ホストからその支払いのために売春することや性風俗店での稼働、海外出稼ぎをするよう強要される事案が多くあります。
また、最近の報道でも、これを生業とするアクセスやナチュラル等のスカウト集団やホストが、売掛金回収のため、性風俗店に女性を紹介したとして職業安定法違反(有害業務の紹介)の容疑で逮捕された、というニュースもあります。
万が一、女性客が、ホストから性風俗店で働くよう強要されたり、アダルトビデオへの出演を強要されて出演料から売掛金を返済するよう強要されるようなことがあれば、警察に相談するか、刑事責任を問うこともできます。
今回は、職業安定法における「有害な業務」と罰則を簡単に説明し、実際に刑事責任を問うとすれば、何ができるのか、証拠として何が必要なのか、などについて解説したいと思います。
職業安定法の概要と罰則
労働者の能力に合った職業に就く機会を提供することで職業の安定を図り、経済及び社会を発展させていくことを目的として、求人や職業紹介に関するルールを定めた法律が職業安定法です。
職業安定法の罰則
職業安定法の目的から、冒頭で例示したホストが売掛金を負った女性客に、性風俗店勤務やアダルトビデオへの出演を強要することは、一般的に、有害な業務への職業紹介または労働者の供給であると考えられています。
ここで、有害な業務とは、令和7年2月17日付けの厚生労働省職業安定局長通知(職発0217第2号)によると、社会共同生活上守られるべき道徳を害する業務をいい、「公衆道徳上有害な業務に就かせる目的」とは、当該業務に従事することが即犯罪を構成するか、犯罪を校正しないまでも犯罪に極めて近接するような業務であって、しかも公衆道徳にもとること著しい業務に就かせる目的を指すものと解すべき。」(東京高判平成3年10月14日)としています。
具体的には、デリヘル、ソープ、アダルトビデオの出演などが有害業務とされています。
このことから、女性客に売掛金を支払わせる目的で女性客を性風俗店に勤務させること(その紹介を含む)は、社会共同生活上守られるべき道徳を害する業務といえ、職業安定法上の「有害な業務」と言えるケースが多いでしょう。
近時の裁判例
近時の裁判例(仙台地判令和6年7月17日)でも、ホストクラブの店長とホストが、女性客らに消費者金融からの借入を促すなどして多額の金銭を店に支払わせた上で、返済できないと言う女性客に性風俗店で就労させた紹介行為関して、職業安定法違反等に問われた事案で、「その結果、女性らは、それぞれ男性客を相手に性交類似行為をする業務に実際に従事するに至っており、その公衆道徳上の有害性も大きい。被告人ら(店長とホスト)が売上を上げたいとう利欲的な動機から本件各犯行に及んだことについても、強い非難に値する。」と判示しています。なお、店長とホストが各自反省の言葉を述べていることや女性との間で示談が成立していることなどから、執行猶予付きの有罪判決を下しました。
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風営法違反で刑事責任に問うことはできる?
ホストクラブ又はホストを巡る問題について、売掛金や色恋営業を禁止する改正風営法が令和7年6月28日に施行されたことは、以前のコラムでも、一般報道でも、知っている方もいらっしゃると思います。
ホストから、アダルトビデオに出演して、そこで得た収入から支払うよう言われた場合、ホストの当該行為は、先にご紹介した職業安定法違反に問うことができますが、改正風営法違反で刑事責任を問うことができるのでしょうか。
この点、売掛金について規制する改正風営法22条の2では、ホストなどの接待飲食営業者の禁止行為として、不当な料金請求、売掛金等金銭を要求するために売春(外国での売春も含む)させること、性交をし又はさせること、性風俗店で勤務させること、アダルトビデオへ出演させること、が規定されています。
改正風営法では、これら禁止行為に違反した場合、6月以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金、またはこの両方と規定されており、風営法違反として刑事責任に問うこともできます。法改正後さっそく、愛知県で、ホストクラブ経営者が売掛金を支払わせる目的で、女性宅に押し掛け、声を荒げ困惑させたとして、全国で初めて改正風営法22条の2が適用された事例があります。
接客飲食営業者から、これら行為を強要されるようなことがあれば、まずは警察に相談し、警察の対応次第では刑事告訴を検討するべきでしょう。
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職業安定法違反で刑事責任を問うなら被害届または刑事告訴を検討しましょう
ホストから売掛金を設定され、その支払いのために、性風俗店での勤務やアダルトビデオへの出演を強要された場合には、警察に被害届を提出する、または刑事告訴を検討しましょう。
被害届は受理された後警察が動かないこともあるのに対し、刑事告訴は受理されれば、警察に捜査義務が生じますので、刑事告訴の方が刑事責任を問える確率は高いです。ただ、警察には刑事告訴を受理しなければならない義務があるにもかかわらず、受理に応じないこともあるのが実務です。そのため、受理までのハードルは高いです。
少しでも刑事告訴が受理されるためには、法的に整理された告訴状はもちろんですが、証拠も必要です。
今回のケースで言えば、ホストから強要されたとされる証拠です。SNSのやり取りの他にも、実際に店舗責任者と会わせられたり、性風俗業やアダルトビデオ制作を業とする者を紹介されるなどの事実があれば、それも証拠として有力となるでしょう。
刑事告訴は、受理させるまでに本当に大変な労力と時間がかかります。しかし、刑事告訴に関する手続を弁護士に一任することで、これら負担を軽減することができます。
風営法が改正・施行されたことで、ホストやホストクラブを巡る問題は警察も目を光られていることでしょう。だからといって、刑事告訴がスムーズに受理されるとは限りませんが、刑事告訴をするにあたっては弁護士のサポートが必要不可欠です。
風俗トラブルおよびこれに伴う刑事告訴について相談したい方は、お気軽に当事務所までご相談ください。