COLUMN

コラム

実名報道の基準について

罪を犯してしまった際、加害者の方が抱く心配事は、逮捕や実刑判決といった刑事手続上の不安だけではありません。日常生活における「実名報道」のリスクも、その一つでしょう。

逮捕された事実が実名で報じられ、会社や学校、地域社会に知られてしまうのではないか、という不安は切実です。しかし、日々のニュースを見ていると、実名で報じられるケースと、「無職の男性」のように匿名で報じられるケース、あるいは全く報道されない事件も存在し、その違いはどこにあるのだろうと思われると存じます。

この違いはどこから来るのか。そして、実名報道のリスクを少しでも下げるために、何ができるのか。本コラムで解説します。

 

 

実名報道の基準

先に結論から申し上げますと、実名報道に関する統一された法的基準は存在しません。どの事件を、実名で報じるか否かの最終的な判断は、新聞社やテレビ局など各報道機関に委ねられています。

ただし、基本的には逮捕された事件が報道されることが多いのですが、「事件の公共性・公益性」という観点から、①事件の性質と②被疑者(容疑者)の属性という2つの要素を考慮していると考えられます。

 

①事件の性質

刑事事件にはさまざまな事件があります。

殺人、放火、詐欺、名誉毀損、侮辱、性犯罪、組織犯罪、贈収賄、危険運転致死傷、サイバー犯罪、少年事件などなどの事件について、令和6年版の犯罪白書によると、警察に検挙された総数は86万3741件、警察の認知件数が131万3374件で、一日に換算すれば一日当たりの検挙数は2366件にも及びます。

2366件もの検挙犯罪を、紙(誌)面に限りのある新聞または雑誌、タイムスケジュール的に限りのあるニュースですべて報道するのはまず無理でしょう。

そのため、報道機関は「社会が知るべき情報か」という公共性・公益性の観点から、報じる事件を選別します。具体的には、以下のような事件が実名報道されやすい傾向にあります。

  • 重大犯罪:殺人、強盗、放火、強制性交等罪など、社会に大きな不安を与える凶悪事件。
  • 社会的影響の大きい事件:大規模な詐欺事件、政治家の汚職、有名企業による不祥事、悪質なあおり運転など、多くの人々の生活や関心に影響を及ぼす事件。
  • 組織的な犯罪:暴力団や特殊詐欺グループが関与する事件。
  • 法改正後の犯罪:法改正されたことを周知徹底するため。

報道機関の立場から考えてみてください。例えば、政治家の汚職事件と道端ですれ違い肩がぶつかったことをきっかけとする殴り合いの喧嘩とでは、どちらの方がニュースに公益性や公共性があるか考えると、当然前者となります。

そのため、実名報道されやすい事件の性質としては、世間が注目しやすい事件である、殺人や放火などの重大犯罪、組織的犯罪、有名企業に関する犯罪、有名人や職業的に特に職業倫理が問われうるケースになります。

あおり運転などは日々日本中のどこかで起きている危険行為かと思いますが、特に悪質なものやニュース性の高い態様のものなども報道されることになる可能性はあります。

 

被疑者の属性

事件そのものだけでなく、被疑者がどのような人物かも報道判断に影響します。ここでも「公共性・公益性」が判断軸となります。

例えば、「公人」やそれに準ずる社会的地位にある人物は、その立場に高い倫理観や廉潔性が求められるため、罪を犯した際の社会的影響が大きいと判断され、実名で報じられやすくなります。

  • 公人・みなし公人:政治家、公務員など。
  • 社会的に影響力のある職業:医師、弁護士、教員、警察官、自衛官、大企業の役員など、公共性の高い職業に就いている人物。
  • 著名人:芸能人、スポーツ選手など、広く名を知られた人物。

実名報道されない、されにくいケース

上記の基準に該当するようでも、実名報道がされない、またはされにくいケースもあります。

  • 少年事件:少年法第61条により、家庭裁判所の審判に付された少年(20歳未満)については、本人を推知できるような記事や写真の掲載が禁止されています。ただし、2022年4月の法改正で「特定少年」(18歳・19歳)が起訴された場合に限り、実名報道が解禁されました。
  • 心神喪失状態での犯行:責任能力がないと判断された場合、氏名が公表されにくくなる傾向があります。
  • 被害が軽微で、示談が成立している事件:当事者間で解決に至っている場合、公共性が低いと判断されやすくなります。
  • 在宅事件:逮捕・勾留されず、在宅のまま捜査が進む事件は、身体拘束を伴う事件に比べて報道の対象になりにくい傾向があります。しかし、「されにくい」だけであり、事件の性質等によっては在宅事件でも実名報道される可能性はあります。
  • 被害者のプライバシー保護の観点:性犯罪などにおいて、加害者の情報を報じることで被害者が特定されるおそれがある場合、匿名報道となることがあります(教師による犯罪で、学校名や被疑者名を特定することで逆に被害者の範囲が定まってしまう場合等)。

実名で報道されないためには何をすべきか

実名報道のタイミングは、主に2つタイミングです。

  • 逮捕時
  • 送致時
  • 判決時

 

 

その上で、実名報道のリスクを極力避けるための方針として、自首をする、事件化する前に示談交渉をする、不起訴処分を獲得するなど、刑事事件としての解決をなるべく迅速に図っていくというのが基本方針になります。

 

事案によりますが、被害者等が警察に被害を申告しておらず、捜査機関が事件を認識する前に被害者との間で示談を行い、被害者が被害届等を提出しないとの合意がとれれば、後々仮に捜査機関が事件を何らかの理由で知ることに至ったとしても、捜査機関としてはそれ以上事件に関して捜査する可能性が下がります。

そのため、一般的には逮捕されない可能性が高くなり、実名報道の可能性も低下します。

 

次に、自首ですが、もし被害届などが提出されていても、捜査機関が犯人を特定する前に弁護士に相談の上で自首すれば、逮捕を回避し在宅事件として扱ってもらえる可能性が高まります。

自首するとなった場合、警察から呼び出しを受けた際には必ず出頭することなどを誓約したり、身元引受人をつけるなどはすべきですが、在宅事件として取り扱ってもらえる可能性は相対的に高くなりますので、逮捕されるリスクを減らすことができるでしょう。

 

最後に、起訴(公判請求)され刑事裁判となれば、最終的に公開の法廷において判決を言い渡されます。判決言い渡し(執行猶予を含む)があれば傍聴人等から事件が公になり、実名報道される可能性もあります。

起訴されない判断、つまり不起訴処分となれば公開の法廷における裁判が行われませんので、傍聴人等経由での実名報道のリスクは低くなります。

検察官が起訴・不起訴を判断する上で、被害者との示談の成立は極めて重要な要素です。示談が成立していれば、たとえ罪を犯したことが事実であっても、検察官が「起訴猶予」処分とし、前科が付くことなく事件が終了する可能性が高まります。

示談は不起訴処分の絶対条件ではありませんが、獲得の可能性を大きく左右します。

 

 

刑事事件に関する相談は当事務所まで

本コラムで解説した通り、実名報道されるか否かは、事件の性質や被疑者の立場など、様々な要素を報道機関が総合的に判断するため、明確な予測は困難です。弁護士を付ければ絶対に回避出来るものでは決してありません。

しかし、確かなことは、実名報道のリスクは、刑事事件の早期対応によって大きく左右されるということです。被害者との示談交渉、捜査機関への働きかけ、不起訴処分の獲得に向けた弁護活動は、報道を回避するだけでなく、ご自身の社会復帰にとっても極めて重要です。

著名人の方など、特に報道リスクが高い場合には、弁護士を通じて報道機関に対し、報道の自由とのバランスを考慮しつつも、実名報道を控えるよう申し入れを行うといった対応も考えられます。

刑事事件の加害者となってしまい、今後の見通しに不安を抱えていらっしゃる方は、一人で悩まず、できる限り早く、刑事事件に精通した弁護士事務所へご相談ください。

コラム一覧