誹謗中傷投稿の削除:送信防止措置依頼の手続きと注意点

インターネット上で、自分に対する誹謗中傷に当たる可能性のある投稿を見つけた際、対応として考えられるのは、主に次の2つが基本となるでしょう。
- 削除したい(サイト管理者に削除してほしい)
- 投稿した発信者を突き止めて慰謝料等を請求したい
このうち、「削除したい(サイト管理者に削除してほしい)」という場合、まずは任意で削除を求め、これに応じない場合は、最終的に裁判手続によるほかないことは、これまでのコラムでもお伝えした通りです。
削除に関して、インターネット上の誹謗中傷に当たり得る投稿を削除するにあたり、「送信防止措置依頼」という手続があります。
そこで、今回は、投稿記事の削除を求める手続の一つである「送信防止措置依頼」について、いつ、誰に対して、するべきなのか、任意で削除依頼をするのと何が違うのか、送信防止措置依頼に応じてくれなかった場合について解説したいと思います。
なお、投稿した発信者を突き止めたい、いわゆる発信者情報開示請求に関しては、これまでのコラムでもご紹介した通りですので、そちらをご参照ください。
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投稿記事に対する3つの削除手続
まず基本的に、誹謗中傷に当たる可能性のある投稿を見つけた際、それを削除するための方法としては次の3つがあります。
- サイト内のお問い合わせフォーム又はメールから削除依頼
- 送信防止措置依頼による削除依頼
- 裁判手続(仮処分)による削除請求
最も手軽にご自身だけで行えるのは、「1サイト内のお問い合わせフォーム又はメールから削除依頼」ですが、これに基づいた削除依頼にサイト運営者等プロバイダが応じてくれるかは規約やガイドラインによるプロバイダ独自の判断です。
次に、「3裁判手続(仮処分)による削除請求」は、最終的に、裁判所から決定が出れば、ほとんどのプロバイダは削除に応じますが、決定を出すまでが、複雑な手続ですし、かつ法的な主張立証をしていく必要がありますので、裁判手続(仮処分)による削除請求は弁護士に依頼した方がよりスムーズに削除できる可能性は高いでしょう(別途間接強制を申し立てることもあります。)。
送信防止措置とは
送信防止措置とは、インターネット上の情報によって権利を侵害されたとする人(法人含む)からの申告に基づき、プロバイダがその情報の送信(公開)を停止する措置を講じることをいいます。
送信防止措置と似た手続に、サイト内のお問い合わせフォームなどから削除依頼する手続もあり、そちらの方が手軽に削除依頼をすることができます。
しかし、サイト運営者等プロバイダがお問い合わせフォーム等からの削除依頼に応じるかはプロバイダ次第です。
プロバイダは、削除依頼があったからといって、無条件に投稿を削除するわけではありません。投稿者の「表現の自由」も尊重する必要があるためです。
安易に削除すれば投稿者から「不当に表現の機会を奪った」として損害賠償を請求されるリスクがあり、逆に削除しなければ被害者から「権利侵害を放置した」として責任を問われるリスクがあります。
このようなプロバイダの「板挟み」状態を解消し、プロバイダが対応しやすくするためにルールを定めたのが「プロバイダ責任制限法」です。
送信防止措置に関するプロバイダに対する損害賠償責任の制限のルール(プロバイダ責任制限法)
プロバイダ責任制限法(正式名称:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)は、プロバイダがどのような場合に責任を負い、または負わないのかを定めています。
- 削除しなかった場合の責任(対 被害者) プロバイダは、原則として、流通させた情報によって生じた損害賠償責任を負いません。 ただし、例外的に、①権利侵害を知っていた場合、または②権利侵害を知り得たと認めるに足る相当の理由があったにもかかわらず放置した場合は、被害者に対して損害賠償責任を負う可能性があります(法第3条第1項)。
- 削除した場合の責任(対 投稿者) プロバイダが投稿を削除したことによって投稿者に損害が生じても、①権利侵害を信じるに足る相当の理由があった場合、または②所定の手続きを踏んで投稿者に意見照会をした結果、投稿者が反論しなかった場合は、投稿者に対する損害賠償責任を負いません(法第3条第2項)。
このルールがあるため、プロバイダは「送信防止措置依頼」という正式な手続きを踏むことで、リスクを低減しつつ削除対応を検討できるのです。
誰がどのような場合に送信防止措置を依頼できるのか?
送信防止措置を依頼できるのは、投稿によって権利(名誉権、プライバシー権など)を侵害された本人、または本人から正式に依頼を受けた弁護士に限られます。
送信防止措置依頼は法律行為にあたるため、弁護士資格のない代行業者が報酬を得てこれを行うことは弁護士法違反(非弁行為)となりますので、注意が必要です。
送信防止措置依頼の流れ
プロバイダ(依頼先)の調査・特定
まず、削除を依頼する相手(サイトの運営者やサーバーの管理者)を特定します。
ウェブサイトのドメイン情報であればWhois検索で確認できる場合もありますが、SNSや匿名掲示板では、サイトのフッター(最下部)にある「運営者情報」「会社概要」や、「利用規約」等のページで運営会社を特定するのが一般的です。
送信防止措置依頼書の作成と送付
削除依頼をする場合には、基本的に、多くのコンテンツプロバイダが加盟する一般社団法人テレコムサービス協会が公開する書式(通称テレサ書式)をを利用するのが一般的です。
送信防止措置依頼書に記載すべき事項のうち、特に重要な記載項目は以下の通りです。
- 「掲載されている情報」
誹謗中傷の内容を正確に記載します。投稿のスクリーンショットを添付するのが確実です。
- 「掲載されている場所」
投稿のURL、投稿番号、投稿日時など、プロバイダが該当箇所を正確に特定できる情報を記載します。
- 「侵害された権利」
具体的に、どのような権利が侵害されているのか、権利名を記載します。多くの場合は、人格権、名誉権、プライバシー権、著作権などが該当します。
なぜその権利が侵害されているのかという理由については、次の「権利が明らかに侵害されたとする理由」で記載します。
- 「権利が明らかに侵害されたとする理由」:ここが最も重要なポイントです。
多くの投稿は、当て字や源氏名といった、一見すると誰のことかわからないように投稿されている場合があります。
その場合、それが自分のことであるということを削除依頼者が主張しなければなりません(実務的には同定可能性と言います。)。
同定可能性の観点から、削除依頼者の本名が記載されている場合でも、同姓同名の可能性を排除する必要があります。伏字やニックネームであっても、前後の文脈や他の情報から、その投稿が「自分のことを指している」と客観的に分かることを説明します。
加えて、例えば、名誉毀損であれば、投稿内容によってどのように削除依頼者の社会的評価が低下したのかを法的に主張する必要もあります。そして、これら主張を裏付ける証拠(プロフィールページのURL、本人と分かる写真など)があれば添付します。
依頼書と証拠が準備できたら、プロバイダの担当部署宛に郵送します。その際、送ったことと受け取ったことの記録が残る「内容証明郵便」で送付するのが望ましいでしょう。
投稿者(発信者)に対する意見照会
依頼書を受け取ったプロバイダは、まず依頼内容を審査します。
権利侵害が明らかであると判断した場合、プロバイダは投稿者に対し、「投稿の削除について同意しますか?」という意見照会を行います。
この意見照会に対し、投稿者が回答すべき期間は、法律で「プロバイダが定める2日以上7日以下の期間」と定められており、この期間内に投稿者から削除に同意しない旨の返信(反論)がなければ、プロバイダは投稿を削除しても投稿者への責任を問われません。
発信者から反論があった場合
意見照会の結果、発信者から削除に同意しない旨の反論がなされることもあります。
この場合、プロバイダが双方の主張を比較検討し、それでもなお権利侵害が明らかで削除が相当と判断したときは削除されることがあります。
しかし、発信者から具体的な反論があると、プロバイダは中立的な立場から削除に慎重になり、結果として削除が見送られるケースも少なくありません。
送信防止措置依頼の注意点
- 削除の保証はない
あくまで「依頼」であり、削除するかどうかの最終判断はプロバイダに委ねられます。そのため、削除して欲しい投稿全てを必ず削除してもらえる保証はありません。
- 再度書き込まれるリスク
削除に成功したとしても、削除に係る投稿者のアカウントは基本的に残り続けます(アカウントの削除依頼をすることはできません。)。
プロバイダによっては投稿者に意見照会するプロバイダもあり、これに投稿者が素直に応じてくれればよいのですが、全ての人がそうであるとは限りません。ケースによっては、削除しても再度書き込まれる可能性もある他、さらに書き込みの内容がエスカレートする可能性もあります。
- 強制力はない
送信防止措置「依頼」です。平たく言いますと、お願いベースです。そのため、送信防止措置依頼は、裁判所の命令のような強制力がなく、プロバイダが応じない場合、それ以上の強制はできません。
依頼に応じてもらえなかったら
送信防止措置依頼をしても削除されなかった場合や、より迅速かつ確実に削除を求める場合は、最終手段として裁判所に「削除仮処分命令」を申し立てることになります。
これは専門的かつ複雑な手続きですので、誹謗中傷問題に詳しい弁護士に相談・依頼することを強くお勧めします。