示談が拒否されやすいケースと対応方法

刑事事件において、被害者がいる場合、被害者との示談成立は不起訴処分を得て前科がつくことを回避するためには非常に強力な要因です。示談が成立すれば、被害者にとって被害は(示談金額に応じてですが)ある程度は回復されたと捜査機関は判断しますので、不起訴処分となる可能性が高まります。
しかし、全ての刑事事件で示談交渉が上手くいくとは限りません。被害者の感情面や加害者の資力、または示談内容次第では、示談が不成立となる可能性もあります。
そこで今回は、示談交渉が上手くいかない主なケースと、示談不成立となった場合に加害者の処分はどうなるのか、示談交渉以外に何か方法はないのか、といった点をご紹介したいと思います。
示談交渉が拒否されやすいケース
刑事事件において被害者が示談を拒否するケースには、主に次の3つです。
- 被害(処罰)感情が強い
- 示談条件に不満がある
- 加害者に支払える資力がない
被害(処罰)感情が強い
特に性犯罪などでは、被害者の被害感情または処罰感情が強い場合があります。この場合、示談交渉は難航し、示談が不成立となるケースもあります。
当然のことながら、加害者本人に被害者の連絡先が知らされることはなく、一般的に、加害者側に弁護士が付くと、弁護人選任届を警察に提出することで、弁護人限りで警察から被害者の連絡先を教えてもらうことができます(ただし、その弁護人から加害者本人に被害者の連絡先が伝わることはありません。)
実際に、最初は警察を通して示談したい旨を被害者に伝えてもらったとしても、被害感情が強いために、被害者から示談を拒否されることがあります。その場合でも、事件送致後の検察から再度働き掛けてもらうことで示談に応じてもらえるケースはあります。
示談条件に不満がある
示談書には、これを書かなければならないと言った法律上の規定はありません。
一般的な示談書には、示談金の金額や支払時期、接近禁止、宥恕(「許す」という意味)、清算条項などといったものが内容として記載されます。
しかし、たまに、被害者からあれもこれもと示談内容に盛り込むよう求められることがあり、示談成立に向けて、その内容の乖離が激しい場合は、示談不成立となる場合もあります。
加害者に支払える資力がない
前提として、示談金にはそれなりの大きな金額を支払わなければなりません。
具体的な支払い金額は、事件内容によりケースバイケースですが、十数万円の示談金もあれば、数百万円の示談金を支払うケースがあります。
したがって、加害者において、資力がほとんどなく、そもそも示談金が用意できなければ、示談交渉を進めることができません。
もちろん被害者次第ではありますが、示談金を分割で支払うこともできます。ただ、長期になればなるほど事件が終わらない感覚に陥りますし、被害者としても早期に終わらせたいと考える人がほとんどで、分割払いを受け入れる人は僅かですから、分割払いは両者にとってメリットがあるとはあまり言えないでしょう。
示談不成立となった場合の刑事処分はどうなるのか
起訴される可能性が高い
示談が成立したとしても示談金額や犯罪事実の内容によっては起訴される可能性はありますが、被害者が示談に応じないということは、被害者において処罰感情が高い、と検察官は考えるのが一般的ですので、その他証拠などから起訴される可能性は十分あります。
示談を拒否された場合
被害者が示談を拒否する、示談が成立しない背景については上記の通りですが、示談を拒否された場合、加害者としては何をするべきなのでしょうか。
まずは被害者に対して、誠心誠意謝罪をすることです。被害者がこれを受け入れるかは被害者次第ですが、必要であれば謝罪文を作成して謝罪の意を示すことも重要です。それを受け取った被害者が、場合によっては、示談に応じる姿勢を見せてくれることもあります。
次に、示談内容(示談金額)に関して可能な限り譲歩することも必要な場合があります。この辺りは、実際に依頼している弁護士ともよく相談して、被害者からの提案を受け入れられるかどうか判断しましょう。
最後に、供託または贖罪寄付です。
供託は加害者が法務局に示談金を預け入れ、被害者が法務局から受け取るものです。本来であれば、被害者に直接振り込む方法で支払いますが、一方的に預け入れることができる供託は、一応形的には間接的に被害弁償をしたことにはなります。しかし、供託は、被害者の処罰感情が強く、示談に応じないことを前提にするものですので、被害者の処罰感情に変わりはありません。そのため、刑事事件において供託はお勧めしませんが、示談を拒否された場合のとり得る選択肢の一つとしてご紹介しておきます(ただし実務上行うことはあまりなく、その理由は、そもそも被害者が明確な意思表示として示談を拒否しているので、被害者感情の方が重視される傾向にあるためです)。
最終的に支払うという意味では、贖罪寄付という方法もあります。贖罪寄付は被害者支援団体等に寄付することをいいます。ただし、贖罪寄付をしても、実務上ほぼ意味がないとされていますので、贖罪寄付を行うケースは少ないです。
まとめ
示談に応じてくれない場合のとり得る行動についてご紹介しましたが、大事なのは被害者の処罰感情です。これが激しければ示談交渉を拒否されてしまうことは実際にあります。
だからといって、何もしないということはありません。交渉の中で、被害者がどのような被害弁済を望んでいるのかを聞き出し、できるかぎり被害者の心情に寄り添っていくことが重要です。当然ですが、交渉は加害者本人ではなく、第三者である弁護士が行いますので、弁護士の存在が必要不可欠です。
当事務所では、これまで多くの刑事事件において示談を成立させてきました。早期に示談が成立したことで刑事事件化を防げたケースもあれば、不起訴処分を得ることができたケースもあります。刑事事件加害者で、お悩みの方はお早めに当事務所までご相談ください。