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債権回収における消滅時効|時効を止める「完成猶予」と「更新」とは

一般的に、誰かにお金を貸した場合、貸したお金を返してくれと借主に返済を求める権利(債権)が発生します。

しかし、法律には「権利の上に眠る者は保護されない」という考え方があり、長期間権利を行使しないと、その権利は消滅時効によって失われてしまいます。

大切な債権を時効で失わないためには、適切な対応が必要です。

 

 

 

債権消滅時効とは

2020年4月に施行された改正民法により、債権の消滅時効は以下のルールに統一されました。

原則として、以下のいずれか早い期間が経過すると時効が完成する(民法166条1項)

  1. 債権者が権利を行使できることを知った時(主観的起算点)から5年間
  2. 権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間

例えば、貸したお金の返済期限を2025年8月7日と定めた場合、債権者はその翌日から返済を請求できるので、通常はその時点から5年で時効が進行します。

 

時効の完成猶予(一時停止)

時効の完成が迫っている時に一定の事由が発生すると、その手続きなどが終わるまでの間、時効の完成が一時的に「先延ばし」にされる制度です。

これを「時効の完成猶予」といいます。

あくまで一時停止(ストップ)であり、猶予される期間が過ぎれば、残りの時効期間が再び進行します。

実務上、重要となる完成猶予事由は以下の通りです。

 

時効の完成猶予事由

時効の完成猶予事由に関して、民法には次の規定があります。以下では、実務でよく問題となる1から5について解説したいと思います。

  1. 裁判上の請求等をしたとき(民法147条)
  2. 強制執行等をしたとき(民法148条)
  3. 仮差押え等をしたとき(民法149条)
  4. 催告をしたとき(民法150条)
  5. 協議を行う旨の合意があったとき(民法151条)
  6. 未成年者又は成年被後見人に法定代理人がいないとき(民法158条)
  7. 夫婦間の権利について(民法159条)
  8. 相続財産に関して管理人が選任されたときなど(民法160条)
  9. 天災等(民法161条)

 

裁判上の請求等をしたとき

民法147条では、完成猶予事由として、裁判上の請求、支払督促、和解(民事訴訟法275条1項)又は調停(民事調停法若しくは家事事件手続法)、破産(再生・更生含む)手続参加、が規定されています。

これらの場合には、その手続が終了するまで、つまり、裁判手続が終了するまでは、時効の完成が猶予され、完成することはありません

例えば、冒頭の例において、債権者が債務者を被告として、訴えを裁判所に提起した場合、訴えの提起は「裁判上の請求」に当てはまりますので、その裁判が係属している間は時効の完成が猶予されます。また、仮にその裁判が債権者によって取り下げられたり、却下された場合でも、裁判手続が終了した後6か月間は完成が猶予されます。

 

強制執行等をしたとき/仮差押え等をしたとき

裁判上の請求等のみならず、確定判決(債務名義)を得た後の手続きである強制執行または担保権の実行がなされた場合、あるいは債権者が民事保全である仮差押えまたは仮処分をした場合も、同様に、その手続が終了するまで時効の完成が猶予されます(取下げ又は却下の場合も同じ)。

 

催告をしたとき

催告とは、債権者が債務者に対し履行を求める債権者の意思の通知です。催告の方法は、書面でも口頭でも良いのですが、実務一般では配達証明付きの内容証明郵便で行われます。

この催告があったときから、6か月を経過するまでは時効の完成は猶予されます。猶予期間中に、再度催告をすることでさらに猶予期間を延ばすことは認められません

そのため、債権者としては、催告による時効完成猶予期間内に、訴訟提起などの法的措置を講ずる必要があります。

 

協議を行う旨の合意があったとき

権利についての協議を行う旨の合意が書面でなされたときは、①その合意があった時から1年を経過した時②その合意において当事者が協議を行う期間(1年未満に限る)を定めたときはその期間を経過した時、または③当事者の一方から相手に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でなされたときはその通知のときから6か月を経過した時、のいずれか早い時までの間は、時効の完成が猶予されます。

 

 

 

 

催告と協議合意の併用について

例えば、当事者間の合意により時効の完成猶予がされている間に、再度、当事者間で合意がされた場合、時効完成猶予の効力は延長されるのか、それとも認められないのでしょうか。

これについても法改正により規定され、当初の合意による時効の完成猶予の効力を有するとされています(民法151条2項本文)。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて5年を超えることはできません(同項ただし書)。

一方で、催告によって時効の完成が猶予されている間にされた協議を行う旨の合意に関しては、時効の完成猶予の効力を有しません。逆に、協議を行う旨の合意により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、時効の完成猶予の効力を有しません(民法151条3項)。

 

つまり、再度の合意又は催告について(民法151条2項及び3項)まとめますと、次のようになり、催告と協議を行う旨の合意を続けたとしても、時効完成猶予の効力は認められません。

  • 協議を行う旨の合意→(再度の)協議を行う旨の合意:民法151条1項による時効の完成猶予の効力あり

※ただし、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて5年を超えることは不可

  • 催告→協議を行う旨の合意:民法151条1項による時効の完成猶予の効力なし
  • 協議を行う旨の合意→催告:民法151条1項による時効の完成猶予の効力なし

 

時効の更新(リセット)

時効の更新とは、ある一定の事由が発生したとき、時効期間の経過がリセットしてゼロに戻した上で、新たに時効期間が進行する、というものです。

完成猶予との違いを言えば、例えば、3年の時効期間を有する権利を有していた場合、2年経った段階で、先ほど紹介した完成猶予事由が発生すれば、その時点で時効の進行は止まります。そしてその事由がなくなり、残りの1年が経過すれば、時効は完成するというものです。

一方で、時効の更新は、2年経った段階で、時効更新事由が発生すると、2年分の時効期間はカウントされません。すなわち、新たに時効期間がゼロから進行し始めます。そして、その事由がなくなった後、当初の3年が経過すればその権利は時効消滅する、というものです。

 

時効の更新事由

  1. 裁判上の請求等をしたとき(民法147条)
  2. 強制執行等をしたとき(民法148条)
  3. 承認したとき(民法152条)

 

裁判上の請求等をしたとき/強制執行等をしたとき

裁判上の請求等(民法147条)と強制執行等(民法148条)の概要については、時効の完成猶予のところで述べましたので割愛します。

時効の更新の観点から解説しますと、例えば、裁判上の請求をすると、それまで経過していた時効期間はリセットされます。そして、勝訴判決を得て権利を確定させれば、裁判手続が終了した段階から、新たな時効期間のカウントが始まります

 

承認したとき

債権回収における消滅時効において、債務者の言動が「承認」に当たるのかという点は、実務ではよく争点となるところです。

改めて、「承認」とは、時効の利益を受ける当事者が時効によって権利を喪失する者に対し、その権利が存することを知っている旨の観念の通知をすることをいいます。

簡単に思える「承認」がなぜ実務でよく争点となるのかですが、法律上、「承認」に関する形式上の制限がないからです。

つまり、債務者が債権者に対し、支払いを猶予してほしいと言えばそれは承認にあたりますし、債務者が一部の弁済であることを認識した上で、それをすれば全部についての承認となることは、過去の多くの判例でも認められているところです。

もっとも、個別のケースにおいて、債務者の言動が「承認」にあたるかは、ケースバイケースで検討する必要があります。

さて、債務者が債務の存在を承認すれば、債権者の権利が明確になる上、債権者においても、権利を保全するための措置を講じる必要がなくなることから、債権者が権利行使を怠ったとは判断されません。そのため、時効の更新事由とされ、承認された時から新たに時効が進行します。

したがいまして、時効の更新事由である承認に関して注意することは、次の点です。

  • 法律上、承認に形式的な制限はない
  • 承認は、債務者自身が積極的に行う必要がある
  • 承認は意思表示ではなく、観念の通知(一定の事実を知らせる行為で、意思表示の要素を含まないもの)であるため、時効の更新の効力を生じさせる意思表示は不要

 

時効完成後の債務承認について

ここで、例えば、消滅時効が完成した後、債務者がこれを知らずに、債権者に一部弁済をした場合、債務者の行動は承認にあたりますが、債務者は後日、時効を援用することができるかが問題となったことがありました。

最高裁判例(昭和41年4月20日判決)は、「債務者が、自己の負担する債務について時効が完成したのちに、債権者に対し債務の承認をした以上、時効完成の事実を知らなかったときでも、その後その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されないものと解するのが相当である。けだし、時効の完成後、債務者が債務の承認をすることは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから、その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが、信義則に照らし、相当であるからである。」としています。

 

 

まとめ

債権者においては、債権を回収するにつき、その債権が時効によって消滅しないよう手続をしなければなりません。

今回は、時効の完成猶予と更新の各事由についてご紹介しましたが、専門的な知識がなければ容易に理解しづらい部分もあったと思います。

そのような場合、または実際にご自身の債権に基づき相手から回収を図りたいときは、弁護士に相談することをお勧めします。

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