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動産執行の一般的な手続の流れ

動産執行とは

動産執行とは、金銭の支払いを目的とする債権の満足のために、執行官が、執行力を有する判決などの債務名義に基づき、債務者の動産を差し押さえ、これを換価し、債権の満足に充てる手続のことをいいます。

通常、債権回収を行う場合は、預貯金口座などを差し押さえる(債権執行)のが一般的ですが、預貯金口座などでも債権回収が奏功しない例もあります。動産執行は、そのような時に、いわば債権回収の最終手段ともいえる手続です。

 

動産執行の対象は大きく分けて3つ

動産執行の対象となる動産は、大きく分けて3つあります。ただし、対象となる動産であっても、例外的に対象とならない動産もありますので、ご注意下さい。

① 民法上の動産(民法86条2項)

ただし、登記や登録により権利変動を公示しなければいけない船舶・航空機・自動車・建設機械及び小型船舶は対象となりません。

 

② 民法上の不動産に属する土地の定着物

ただし、庭園の庭石や石灯籠、立木法の適用がない樹木といった登記できないもの、収穫前の農作物といった土地から分離する前の天然果実は対象となりません。

 

③ 裏書の禁止されていない手形小切手などの有価証券

 

差押禁止動産(民事執行法131条)

対象となる動産であっても、債務者等の生活に必要不可欠な財産や、プライバシーなどの観点から、差し押さえが禁止されている動産があります。

・債務者等の生活に欠くことのできない衣服、寝具、台所用具、畳及び建具

・債務者等の一か月間の生活に必要な食料及び燃料

・標準的な世帯の二か月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭(これは66万円以下の金銭(民事執行法施行令1条)とされており、66万円以下の金銭は原則として差し押えできません。)⇔債務者が法人の場合には、66万円以下の現金も差押禁止となっておりませんので、法人相手の場合には金庫やレジ、両替機等の66万円以下の現金も差し押さえることができます。

・主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物

・主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕及び養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物

・技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者のその業務に欠くことができないもの

・実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの

・仏像、位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物

・債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類

・債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物

・債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具

・発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの

・債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物

・建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品

 

→このように差押禁止動産が非常に広く設定されている結果として、生活関連の動産類についてはほとんど差押禁止動産に該当してしまうことになります。

⇒その結果、自宅への動産執行事件については、90%前後が執行不能で空振りとなっているという統計があります。

動産執行手続の一般的な流れ

1 まずは、動産執行申立書を裁判所に提出する。

事前準備としては、①債務名義(強制執行を行う根拠となる判決書等)に執行文を付与してもらうこと、②債務名義の送達証明の申請が必要です。

2 動産執行前の準備

申立てが認められると、執行官と執行日について調整をします。

それと同時に、債務者が執行当日に自宅などの鍵を開けない時に備えて、鍵の開錠業者も同行してもらったり(開錠業者は執行官が手配してくれることが多いですが、債権者側で業者を選択することも可能です。日当の支払は債権者負担。)、現金以外で差押えできそうな巨大な財産があった時に備え、搬出するためにトラックの手配を行うこともあります。

3 執行当日に債務者の自宅や店舗に乗り込む

事前準備が整いましたら、いよいよ債務者のところへ乗り込みます。

債権者と執行官との間で事前に執行日時の調整を行い、債権者も執行官と共に現地に赴きます。

債権者が不在であったり、鍵を閉めて立ち入りを拒否しているようなケースでは、事前手配した開錠業者により強制的に開錠を行った上で執行官のみが中に入ります(債務者本人の許可があれば債権者や代理人弁護士も中へ入れますが、許可を得られない場合や不在の場合には外で待機し、中にいる執行官と話をしながらどの財産を差し押さえるかを判断していきますが、差押えの可否についての最終判断は執行官の判断によります。)

もっとも、債権者に対しては事前に執行日時の通知は行われませんので、普通に生活していたり仕事をしていたら、突然執行官が来てびっくりという状況になります。

4 執行官が債務者の自宅等の中を調べ、現金や売却できそうな財産があれば、差し押さえて持ち帰ります。

原則として、差し押さえした動産については、債務者が勝手に処分しないよう、持ち帰って保管します。

小さなもので保管が容易なものであれば執行官が保管してくれますが、それ以外のものについては債権者にて一時的に保管する必要がありますので、事前に運搬方法や運搬先(大量の場合には倉庫を借りる等)も事前に準備が必要となるケースもあります。

更に、巨大な物(業務用冷蔵庫やピアノ、大型家具など)を差し押さえる場合には、搬送用のトラック等のレンタカーを事前に用意しておく必要があります。

5 持ち帰った財産は、後日、執行官が指定する売却日に売却を行い、債権回収を行います。

売却手続には、一般的に、①専門業者が来て、専門業者に購入してもらう方法と、②債権者自身が購入する方法の2つがあります。

売却する場合は、1か月以内に売却期日が決定され、競り売りがなされたのち、売却した金銭から債権回収を行うことになります(落札の場合、その場で代金支払いが行われますので、執行官を通じて即日交付されます)。

 

動産執行ができない可能性もある。

冒頭にて動産執行は債権回収の最終手段とお伝えしましたが、最終手段であっても、動産執行をしたが、財産的価値がないものばかりであったり、差押禁止動産しかなかったりするなど、空振りに終わるケースもあります。このことを執行不能と言います。

なので、事前に債務者が経済的価値のある動産を持っているという見込みが低い場合には、債権回収に対する費用倒れになってしまうリスクがあるため、動産執行が行われる場合は多くはありません。

しかし、動産執行においては実際に執行官が鍵を開け、自宅内や会社内に入って調査が行われるため、動産執行が行われることによる債務者の精神的なダメージは非常に大きいものがあります。

 

最後に

ここまで動産執行の一般的な流れをお伝えしました。

最終手段である動産執行を行うべきかどうかは、裁判所に納める費用などが発生するため、動産執行を行って回収できる見込み金額と、手続に要する費用(申立費用そのものに加え、開錠業者の日当やトラック、倉庫代、弁護士費用等々)とを比較して、費用倒れにならないかどうかが重要な判断となります。

最終的に執行不能になる可能性は勿論ありますが、隠し財産が発見される等の事例もありますし、不誠実な債務者に対しては強烈なインパクトを残すこともできますので、動産執行を行うべきかお悩みの方は当事務所にご相談ください。

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