警察から取調べに呼び出されたときの心構え(流れ、対応方法)

はじめに
刑事事件の捜査において、取調べは、警察において犯罪事実を明らかにするプロセスであるのみならず、被疑者または被告人にとってもその権利を守るための重要なプロセスでもあります。
本記事では、取調べがどのように進むのか、その過程で被疑者にどのような権利が認められ、取調べを受ける際の注意点についても解説します。
事前に、知っておくことで、自身の権利を適切に行使することができます。
取調べの一般的な流れ
取調べでは、まず最初に、黙秘権について告知されます。黙秘権は後ほど説明しますが、言いたくないことは言わなくてもよいという権利です。
その後は、取調べのメインと言える犯罪事実に関するものです。具体的には、犯罪と疑われる行為をした日時、場所、動機、原因、その時の状況、犯行後の状況などです。
担当警察官からの質問とそれに対するあなたの答えは、「供述調書」という書面にまとめられます。
取調べの最後には、作成された調書を読み聞かせ、または閲覧する機会が与えられます。その内容を確認し、もし自分の話したことと違う点や、ニュアンスが異なる点があれば、訂正や追加、削除を求めることができます(増減変更申立権)。
内容に完全に納得できなければ、署名と指印(拇印)を拒否することも可能です。 署名・指印をして初めて、その供述調書は完成します。
被疑者が主張できる権利
被疑者や被告人には、自己の主張をし、十分な防御活動が保障されていることから、次の重要な権利が認められています。
- 黙秘権
- 弁護人選任権
- 接見交通権
黙秘権
黙秘権は、憲法または刑事訴訟法で定められた権利であり、自己に不利益な供述を拒否する権利をいいます。
刑事訴訟法198条2項では、「取調べに際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならない。」と規定されています。
黙秘権を始め、供述強要の禁止などは一般的に自己負罪拒否特権の一つですが、ここでは、黙秘権と、供述を強要されることはないことを理解しておけば十分です。
ただ一方で、(完全)黙秘権を行使すると、警察からの印象が悪くなるのではないかを気にしたり、何かの不利益を被るのではないかと思われる被疑者の方は非常に多いです。
結論として、黙秘権を行使したという事実そのこと自体により直接的に不利な証拠として扱われることは絶対にありませんが、例えば、現実問題としては黙秘により逮捕・勾留が長期化したり、本当は罪を犯していたときには刑事裁判になった際に「反省がない」として量刑上重くなる危険性はあります。
更に、取調べにおける警察からの圧力も強くなる傾向にあります。ただし、警察からの印象など一切気にする必要はありません。
不当な形で罪に問われることを防ぎ、自分の人生、今後の生活を守るための正当な防御権として憲法で保障されている権利なのです。気持ちで負けないことが非常に大事です。
弁護人選任権
被疑者または被告人が法律に精通した者であれば別ですが、法律に馴染みのない方がほとんどです。そのような方々が、適切かつ十分に防御活動ができるとは限りません。
そこで、法は、被疑者または被告人が自分の弁護人として弁護士を選任し、その弁護人を通じて十分な防御活動ができる権利を保障しています。
弁護人には、自分で費用を負担して依頼する「私選弁護人」と、資力がない場合などに国が費用を負担する「国選弁護人」の2種類があります。
重要なのは、依頼できるタイミングです。 逮捕された直後の段階では、原則として私選弁護人しか選任できません。
国選弁護人は、多くの場合、逮捕に続く「勾留(こうりゅう)」という段階に進まなければ選任することができません。勾留段階に進むのは、逮捕されてから最長3日間です。
逮捕直後の最も重要な時期にアドバイスを受けるためには、迅速にご家族などが私選弁護人を探して依頼しない限りは弁護士からアドバイスをうける機会がありません。
接見交通権
逮捕され身柄が拘束されると、一定期間は家族であっても接見することができません。さらに厳格な接見禁止が付くこともあります。しかし、弁護人選任権を行使した結果、弁護人がいるのであれば、こうした接見の制限を受けることなく、接見をすることができます。弁護人選任権の実行力を高めるための権利といえるのが接見交通権です。
警察への呼び出しには誠実に対応する
基本的に呼出しには応じるようにしましょう。在宅事件の場合は、まずは警察から急に電話があり、この日、この時間に来てください、と言われることもあれば、いつ頃来られますかと聞いてくることもあります。
都合が悪ければ、自分の予定を変更するか、それが無理であれば事情を話して別日にしてもらうなどして調整し、誠実に対応するようにしてください。
電話等で事前にスケジュールの相談を受けながら取調べの呼出しを受けているということは、裏を返せば在宅事件(逮捕しないで捜査を進めること)として進めてくれる方向で捜査機関が進めてくれている可能性が高いということです。
呼出しを何度かドタキャンしたり、無視していると逮捕される可能性が格段に高くなります。
(証拠隠滅の可能性や逃亡のおそれが高かったり、警察が逮捕が必要不可欠と考えている案件であれば、事前の電話や予告など無く急に家や職場に警察がぞろぞろと数名で来て逮捕されます。)
弁護士をつける意向であれば、この段階ですぐに弁護士を探すべき段階です。
なお、被疑者の取調べには、身柄拘束を受けている場合(逮捕・勾留されている場合)と、在宅事件として身体拘束を受けていない場合の2つのパターンがあります。
身柄拘束を受けている場合(逮捕・勾留中)
逮捕・勾留されている場合、取調べを受けること自体を拒否することはできません(※)。
捜査官はあなたをいつでも留置場から取調べ室に連れて行くことができます(留置場内では氏名ではなく番号で呼ばれますので、例えば『20番、今から取調べだから出ろ』という形で留置場の警察官から命令され、取調室に連行されます)。
※これはあくまで「取調室に行って刑事の取調べ(質問等)をされること」を拒めないだけであり、「質問に答える義務(供述義務)」は一切ありません。 「黙秘します。」と言ったり無言を貫いて黙秘権を行使し、終始黙っていることも可能です。
在宅事件の場合
在宅事件の場合、取調べに応じるかは法律上は完全に任意です。出頭要請に法的な強制力はありませんので、理屈上は完全に無視して呼出しに応じないことも可能です。
ただし、正当な理由なく出頭拒否を行うと、「逃亡または証拠隠滅のおそれ」があると判断され、逮捕状が請求されるリスクが飛躍的に高まります。
きちんと警察からの電話には出た上で、仮に仕事などで都合が悪い場合は日程調整を申し出るなど、誠実に対応することが通常はまず間違いなく賢明な判断です。
連絡を無視したり不合理な理由や病欠などでドタキャンしたりは完全に悪手です。
取調べにおける注意点
ここからは、実際に取調べを受けるにあたっての注意点をご紹介します。
警察から取調べに呼ばれたら、少なくとも以下の事項だけは頭に入れて取調べに臨んでください。
権利は適宜行使すること
黙秘権、弁護人選任権といった権利は被疑者または被告人に認められた権利です。特に、黙秘権は適宜行使することが求められます。
黙秘権を侵害するような取調べはできませんので、警察官からなぜ話したくないのか理由を聞かれたとしても、答える必要もありません。
「黙秘します。」というと、警察は良く「やってないならやってないで自分の口で説明してもらわないと分からないよ。何かまずいことがあるから黙秘するわけでしょ?」等と、あの手この手で供述させようとしてきますが、一切応じる必要はありません。
ただし、先ほども説明した通り、黙秘することで不利益に扱われることもありますから、逮捕直後は弁護士が来て弁護士との間で方針を決めるまでは黙秘したり、あるいは弁護士と相談の上で一部黙秘あるいは完全黙秘するなど、方針は弁護士と共に立てることをおすすめします。
冷静さを保ち、捜査官の誘導に乗らない
取調べを行う捜査官は、時に優しく同情的に、時に厳しく高圧的に、様々なアプローチで供述を得ようとします(いわゆる「良い警官・悪い警官」戦術)。
悪い警官役が高圧的な取調べをする一方、良い警官役が「男だから俺も気持ちは分かるよ」「君のためを思って言っている」「認めればすぐに出られる」といった甘い言葉で自白を促すこともありますが、安易に乗ってはいけません。
供述調書は一度作成されると覆すのが非常に困難です。どのような働きかけを受けても冷静さを保ち、話したくないことは話さない、事実と違うことは明確に否定する姿勢が重要です。
警察と喧嘩をしても全く意味がありませんので、冷静さを保ち、余計なことは話さないことが最も合理的で効果的な対応方法です。
はっきり言うこと
取調べの流れでも見たように、最後には供述調書の内容に誤りがないか確認し、なければ署名と指印(拇印)をします。
時には、自分が話した内容と警察が受け止めた内容についてニュアンスが異なっており、それが供述調書に反映されていることもあります。この場合でも、明確に確認と異なるのであればその旨を伝えることが大事です。
特に、読み手によって解釈に幅のあるような表現を用いた調書には特に気をつけてください。「そのようなニュアンスで言ってないんだけどなぁ。」と思うことがあれば、きちんとその場で調書を訂正してもらい、訂正してくれなければ署名押印自体を拒否して弁護士から警察に抗議を行ってもらいましょう。
最後に
警察の取調べは、最初に身上調書(いわゆる被疑者のこれまでの経歴や職業、家族構成など)を聞いたあとは、犯罪被疑事実に関する内容がメインとなります。
どのようなことを聞かれるのか、それに対してどのように答えればよいのか、わからないことが多いと思います。弁護士に同席をお願いしたとしても、現在の日本制度では取調べ時に弁護士を同席させる権利までは認められていません。
(たまに軽微な事件では弁護人の立会いを許可してくれる例もありますが、この判断は警察の裁量であり、基本的には断られます。)
そのため、事前に問答について準備しておく必要があります。もちろん、嘘の供述をすることはお勧めしません。事実としてあったことを供述することが求められますので、警察から呼び出しを受けていて、その対応にお困りであれば当事務所までご相談ください。