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少額訴訟債権執行(少額訴訟で勝訴したあとの、強制執行手続)

少額訴訟債権執行とは

平成16年の民事執行法改正により、簡易裁判所において、債権執行を行うことができる少額訴訟債権執行制度が創設されました。

この制度は、少額訴訟手続(訴額が60万円以下金銭支払の請求を目的とする訴えで、簡易裁判所が原則として1回の裁判期日で審理を終え、即日判決を言い渡す訴訟手続)で債務名義を取得した債権者が、これに基づいて強制執行の申立てをする際に、金銭債権に対する執行に限り、債権執行の手続を行うことができます(民事執行法167条の2以下)。

なお、この制度による手続を利用できる場合であっても、地方裁判所での通常の債権執行手続も利用することができます。

 

メリットとデメリット

少額訴訟債権執行のメリット、デメリットは以下のとおりです。

メリット

・少額訴訟の利便性の向上

・簡易迅速な権利の実現

・弁護士に頼まなくても一人で手続することも比較的簡単。

 

デメリット

・債務名義や差押対象債権が限定されている。

・地方裁判所に手続が移行され、通常の執行手続となる可能性がある(裁量移行

→執行裁判所が、差し押さえるべき金銭債権の内容その他の事情を考慮して、相当と認めるときは、地方裁判所における債権執行の手続に事件を移行させることができ、この決定に対しては不服を申し立てることはできません(民事執行法167条の12第1項及び第2項)。

・控訴することができない。

 

申立手続

申立て

少額訴訟に係る債務名義による金銭債権に対する強制執行は、申立てにより、裁判所書記官が行います(民事執行法167条の2第1項)。

実務上の扱いは、申立書に当事者目録や請求債権目録、差押債権目録を別紙として申立書に添付し、陳述催告の申立ても行います。陳述催告の申立てを行うことで、後述する第三債務者に取立てできるかどうかを判断できます。

 

少額訴訟債権執行における債務名義

先ほどのデメリットにも挙げましたが、少額訴訟債権執行の手続が開始されるための債務名義は、以下の債務名義に限定されています(民事執行法167条の2第1項各号)。

① 少額訴訟における確定判決

② 仮執行宣言付少額訴訟判決

③ 少額訴訟における訴訟費用又は和解費用の額確定処分

④ 少額訴訟における和解又は認諾の調書

⑤ 少額訴訟における和解に代わる決定

 

その他申立てに必要な書類

ア 債務名義正本

上に挙げました債務名義のうち、①確定判決と②仮執行宣言付少額訴訟判決に関しては執行文は原則不要ですが、承継がある場合や支払いが一定の条件にあるような場合には、執行文が必要となり、その場合は別途執行文付与の手続が必要になります。

また、③訴訟費用又は和解費用の額確定処分、④和解又は認諾の調書、⑤和解に代わる決定に関しては、執行文が必要です。

 

イ 債務名義正本又は謄本の送達証明書

ウ 資格証明書

当事者が法人の場合は、申立日から1か月以内の商業登記事項証明書が必要です。

エ 申立手数料(印紙代1件につき4000円)と郵便切手

件数は、債権者と債務者がそれぞれ1名、債務名義が1通の場合に1件としますので、これらの数が増えれば、申立手数料は変わります。

郵便切手は、裁判所によって異なるところがありますので、事前に裁判所に問い合わせることをお勧めします。

 

管轄裁判所

先に挙げた債務名義の種類に応じて、裁判所に申立てを行います(民事執行法167条の2第3項各号)。

①少額訴訟における確定判決であれば、その判決をした簡易裁判所

②仮執行宣言付少額訴訟判決であれば、その判決をした簡易裁判所

③少額訴訟における訴訟費用又は和解費用の額確定処分であれば、その処分をした裁判所書記官の所属する簡易裁判所

④少額訴訟における和解又は認諾の調書であれば、和解成立し又は認諾された簡易裁判所

⑤少額訴訟における和解に代わる決定であれば、それをした簡易裁判所

 

差押えの対象

冒頭でも述べましたが、この制度は裁判所書記官が簡易迅速に差押処分をすることが予定されているものなので、少額訴訟債権執行における差押えの対象となるものは、金銭の支払いを目的とする、金銭債権(例えば、預貯金、給料、賃料、敷金など)に限定されます。

従いまして、不動産、船舶等の債権以外の財産権、電子記録債権、暗号資産移転請求権などその他財産権は対象となりません

これら金銭債権以外の債権である場合には、複雑な検討を要することもありますので、先に記しました裁量移行となる可能性があります。

 

差押処分の一般的な流れ

差押処分以降の大まかな流れとしては、差押処分→送達完了→陳述書の到達→取立てになります。

差押処分から送達完了まで

差押処分

差押処分は、申立の要件が備わっているとき、裁判所書記官が行います(民事執行法167条の2第1項)。

差押処分がなされると、裁判所書記官は、債務者に対し金銭債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ、第三債務者に対し債務者への弁済を禁止するとともに(民事執行法167条の5第1項)、速やかに差押処分正本を債権者と第三債務者に送達し、その後債務者にも発送します。

送達完了

通常であれば、申立てから債務者と第三債務者への送達が完了するまで約2週間です。各送達が完了すると、裁判所から、債務者と第三債務者への送達日を記載した(不送達となったときはその旨の)送達通知書が債権者に届きます。

不送達となった場合、裁判所書記官は債権者に送達すべき場所の申出又は公示送達の申立てをするよう命じることができます。債権者がこれに応じないようなときは、差押処分が裁判所書記官によって取り消されることになります(民事執行法167条の5第2項)。

そのため、ここまできて取り消されるのは、あまりにももったいないので、送達すべき場所の申出や公示送達を検討して、手続を進めましょう。

 

陳述書の到達から取立てまで

陳述書の到達

申立時に第三債務者に対する陳述催告の申立てをすると、第三債務者から裁判所と債権者に陳述書が送付されます。

一般的に、陳述書には、差し押さえた債権の存否、差し押さえた債権がある場合にはその金額、差し押さえた金額を債権者に第三債務者が支払う意思の有無について記載があります。差し押さえた債権と金額があって、債権者に支払う意思があった場合は、取立ての手続に進みます。しかし、支払う意思がない場合は、手続を進めることができませんので、その場合は申立てを取り下げることになります。

取立て

送達が完了し、送達通知書が債権者に届き、かつ第三債務者に支払う意思がある場合は、送達通知書に記載された債務者への送達日から原則1週間を経過すると、債権者は第三債務者から差し押さえた債権を取り立てることができます。

取立方法は、債権者と第三債務者が協議したうえで、債権者が第三債務者に、送達通知書と差押処分正本を提示したうえで、振込による方法が一般的ですが、第三債務者が供託をした場合は、債権者は取り立てることはできず、裁判所書記官による配当等の手続になります。

 

最後に

少額訴訟債権執行は、少額訴訟の利便性の向上や簡易迅速な権利実現というメリットがある一方、差押対象債権が限定的であったり、通常の債権執行とは異なる箇所もあります。

そのため、少額訴訟で確定判決等を受け取った後の手続や、その他通常の債権執行でお悩みの方は当事務所までご相談ください。

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