執行猶予中に再犯で逮捕されたら?実刑になるケースと再度の執行猶予(ダブル執行猶予)の条件

はじめに
ニュースで「容疑者は執行猶予中の身でした」と聞くと、「執行猶予中の人がまた犯罪を犯したら、どうなるのだろう?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
「前の刑も合わせて、長期間刑務所に入ることになるのか?」それとも「また執行猶予がつくこともあるのか?」
本記事では、執行猶予の基本的な意味から、猶予期間中に再犯を犯した場合の厳しい現実、そして極めて例外的に再度執行猶予が認められるための条件について、分かりやすく解説します。
執行猶予とは
刑事事件で有罪判決となった場合に、例えば、「懲役3年執行猶予5年」の判決を言い渡されたとします。
執行猶予とは、有罪判決(例の「懲役3年」)を言い渡されつつも、その刑の執行を一定期間(例の「執行猶予5年」)待ってもらえる制度です。この猶予期間中、新たに罪を犯すことなく無事に過ごせれば、刑罰権が消滅し、刑務所に行く必要がなくなります。
猶予期間中は、基本的に通常の日常生活を送ることができます。したがいまして、「懲役3年執行猶予5年」ですと、判決確定日から5年間は、懲役3年という刑の執行が猶予されます。
執行猶予期間が無事に過ぎれば
そして、執行猶予期間中に、罰金刑以上の刑罰を受けることなく、またはそれが確定しない状態で、執行猶予期間である5年間が経過すれば、刑の言渡しはその効力を失います(刑法27条)。ただし、捜査記録上の「前科」そのものが消えるわけではありません。
刑罰には、重い順に、死刑、拘禁刑(令和7年6月1日から施行。懲役・禁錮の一本化)、罰金、拘留、科料がありますので、罰金刑以上とは、死刑、拘禁刑、罰金、となります。
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執行猶予期間中に罪を犯すと?
原則は「必ず実刑」(刑務所行き)となる(執行猶予の必要的取消し)
執行猶予期間中に再び罪を犯してしまうと、その執行猶予が取り消され、猶予されていた刑と新たな刑の両方について服役しなければならなくなるのが原則です。(刑法26条)。
執行猶予期間中に再び罪を犯し、新たに「禁錮以上の刑(※)」に処せられ、その判決に執行猶予が付かなかった場合、前に猶予されていた刑の執行猶予は必ず取り消されます(刑法26条1号)。これが最も典型的なケースです。
※禁錮以上の刑とは、死刑、懲役、禁錮(法改正後は拘禁刑)を指します。
罰金刑でも実刑の可能性はある(執行猶予の裁量的取消し)
新たに犯した罪が比較的軽く、罰金刑で済んだ場合でも安心はできません。裁判官の判断(裁量)によって、前の執行猶予が取り消される可能性があります(刑法26条の2)。
裁量取消しの可能性があるケースは、
- 猶予期間中に罪を犯し、罰金に処せられたとき(刑法26条の2第1号)
- 保護観察に付された者が遵守事項を遵守せず、その情状が重いとき(刑法26条の2第2号)
- 猶予の言い渡し前に他の罪について拘禁刑以上の刑に処せられたことが発覚したとき(刑法26条の2第3号)
執行猶予が取り消された場合の刑期の長さは?
執行猶予期間中に、再犯をして、拘禁刑が言い渡され、それが確定するなどして、執行猶予が取り消された場合には、前に猶予されていた刑期+今回の再犯の罪について言い渡された刑期が合算されることになります。
例えば、覚せい剤自己使用により、懲役1年執行猶予3年の刑が言い渡されたものの、執行猶予期間中に、再度覚せい剤を自己使用して逮捕・起訴され、懲役2年の判決を受け確定した場合、最初の執行猶予3年は取り消され、懲役1年と懲役2年を合算した合計3年間、服役することになります。
再度の執行猶予(ダブル執行猶予)の可能性
新たに罪を犯し、拘禁刑以上の刑に処せられることになれば、必要的に執行猶予が取り消されると解説しましたが、必ず取り消されるわけではありません。
極めて例外的に、再び執行猶予が付される(通称:ダブル執行猶予)可能性があります。
ただし、再度の執行猶予が付されるためには、刑法25条2項で定められた、以下の3つの厳しい条件をすべて満たす必要があります。
1 今回言い渡される刑が「1年以下の拘禁刑」であること
再犯に対して下される判決が、1年以下という比較的軽いものであることが大前提です。
2 「情状に特に酌量すべきものがある」こと
これが最も高いハードルです。「被害が極めて軽微」「被害者と完全に示談が成立している」「再犯の動機に同情できる点がある」など、裁判官が「今回は特別に考慮すべき事情がある」と判断した場合に限られます。
3 前回の判決で「保護観察」が付いていなかったこと
前回の執行猶予に保護観察が付いていた場合、残念ながら再度の執行猶予の可能性はありません。
再度の執行猶予がつくのは極めて稀
これら3つの条件をすべて満たすのは非常に難しく、再度の執行猶予は極めて稀なケースです。特に、窃盗、薬物事犯、性犯罪といった再犯率が高いとされる犯罪では、さらに厳しく判断される傾向にあります。
しかし、「2年以下の拘禁刑の言渡しを受けたこと」と「保護観察に付されていないこと」はケースによっては満たすかもしれませんが、「情状に特に酌量すべきものがあること」については認められる例はかなり限定されるでしょう。
最後に
執行猶予期間は、社会内で更生するための最後の「チャンス」を与えられた期間です。この期間中に、たとえ軽微な犯罪であっても再び罪を犯してしまうと、そのチャンスを失い、より重い結果を招くことになります。
執行猶予期間中は、再び過ちを犯さないよう、細心の注意を払って生活することが何よりも重要です。
特に、執行猶予期間中には運転に気をつけてください。
事故は故意でなく過失で起こるものであり、注意を払っていても起こしてしまうことがあり、そこで人を怪我させたりさせてしまうと、執行猶予取消しの危険性があります。