身元開示後、相手が訴えてこない…いっそ自分から訴えるべき?「債務不存在確認訴訟」のメリットと大きなリスク

はじめに
ネットに投稿した内容が原因で、あなたの身元が被害者に開示されてしまった。しかし、そこから何ヶ月経っても相手は訴訟を起こしてこない…。
「一体いつ訴えられるんだ」「このまま時効まで3年間も怯え続けるのは耐えられない」
こうした不安から、「いっそのこと、こちらから先に裁判を起こして白黒つけてしまいたい!」と考える方がいらっしゃいます。この「先手を打つ」手続きが「債務不存在確認訴訟」です。
本記事では、この債務不存在確認訴訟という手段のメリットと、それ以上に大きい「寝た子を起こす」リスク、そしてもう一つの賢明な選択肢について解説します。
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なぜあなたの身元は開示されたのか
まず前提として、被害者が裁判手続きまで踏んであなたの身元を特定したのは、ほぼ例外なく「あなたに対して損害賠償請求(慰謝料請求)をするため」です。
発信者情報開示請求が認められるには、「損害賠償請求権の行使のために必要」であることが要件の一つだからです。
つまり、被害者はすでに「訴訟を起こす準備」を整えた上で、あなたの情報を手に入れた、と考えるべきでしょう。
「先手を打つ」選択肢:債務不存在確認訴訟とは
被害者が訴訟を起こしてこない状況で、こちらから「被害者との間には、損害賠償金を支払う義務(債務)は存在しない」ことの確認を裁判所に求める。これが債務不存在確認訴訟です。
メリット:精神的な不安から解放される
最大のメリットは、「いつ訴えられるか分からない」という宙ぶらりんな状態から抜け出し、法的関係を早期に確定できる点です。
時効(損害および加害者を知った時から3年)まで待ち続けるストレスからは解放されるでしょう。
最大のデメリット:「寝た子を起こす」リスク
しかし、この手続きには極めて大きなリスクが伴います。それは、損害賠償請求をするつもりがなかったかもしれない相手(寝た子)を、自ら法廷に引きずり出す(起こす)ことになる点です。
訴状が届けば、相手はほぼ確実に「反訴」という形で損害賠償請求をしてきます。そうなれば、あなたが始めた裁判は、結局、相手が請求する損害賠償を認めるかどうかの裁判へと姿を変え、あなたは「被告」と同じ立場に立たされるのです。
相手が何もしなければゼロだったかもしれない賠償金や弁護士費用を、自ら支払うきっかけを作ってしまう。これが最大のリスクです。
訴訟を避けるための最も賢明な選択肢:「和解交渉」
「訴えられるか分からない不安」と「寝た子を起こすリスク」の板挟みになった時、最も検討すべきなのが訴訟前の「和解交渉」です。
意見照会書に記載されている相手方の代理人弁護士に、こちらの弁護士を通じて連絡を取り、示談による解決を目指します。和解には、以下のような大きなメリットがあります。
- 低コスト:訴訟に比べて弁護士費用を抑えられることが多いです。
- プライバシーの保護:裁判と異なり、完全に非公開で解決できます。
- 迅速な解決:長ければ数年かかる訴訟と違い、数ヶ月で解決できる可能性があります。
開示されたからといって、必ずしも高額な賠償金を請求されるわけではありません。まずは冷静に、交渉による解決の道を探ることが、双方にとって最善の結果につながることが多いのです。
最後に
発信者情報が開示された後の日々は、精神的に非常に大きな負担となります。しかし、焦って「先手を打つ」という行動が、かえって事態を悪化させる可能性も十分にあります。
意見照会書が届いた時点、あるいは情報が開示された時点で、一人で悩まず、まずはネットトラブルに詳しい弁護士にご相談ください。債務不存在確認訴訟というリスクの高い手段に出る前に、和解交渉をはじめ、あなたにとって最も有利な解決策を一緒に検討することが重要です。
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