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逃げ得は許さない!債務者の暗号資産(仮想通貨)を差し押さえる方法と最新実務

はじめに

訴訟で勝訴したのに、相手の銀行口座は空っぽ、不動産もない…。しかし、多額の暗号資産(仮想通貨)を保有しているようだ。このような場合、その暗号資産を差し押さえて債権を回収することはできるのでしょうか。

結論から言えば可能です。しかし、その方法は暗号資産がどこに保管されているかによって大きく異なります。

 

大原則:暗号資産の保管場所で差押えの方法が変わる

暗号資産の差押えを考える上で、最も重要なのがその保管場所です。大きく分けて以下の2つのケースがあります。

  1. 暗号資産交換業者に預けている(差押えが現実的に可能)
  2. 個人管理のウォレット(秘密鍵)で保管している(差押えするのは実務上極めて困難)

それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

 

ケース1:暗号資産交換業者に預けている場合

多くの人が、bitFlyerやCoincheckといった暗号資産交換業者の口座で暗号資産を管理しています。この場合、債権者が差し押さえるのは、暗号資産そのものではなく、「債務者が交換業者に対して持つ、暗号資産の返還請求権(『預けたコインを返せ』と要求する権利)」です。

これは銀行預金の差押え(銀行に対する預金払戻請求権の差押え)と同じ考え方で、裁判所を通じて交換業者に差押命令を送達し、債務者に代わって暗号資産の引渡しを求めることになります。

したがって、取引所に資産がある限り、民事執行による差押えが可能というのが現在の実務です。

ケース2:個人ウォレットで管理している場合

債務者が、取引所を介さず、自身のPCやUSBメモリのようなハードウェアウォレットで暗号資産を管理している場合、差押えのハードルは格段に上がります(結論から言うと、理論上は差し押さえ可能でも実務上は非常に困難)。

 

最大の壁:「秘密鍵」の存在

暗号資産の送付には、所有者本人しか知らない「秘密鍵(暗証番号のようなもの)」が必須です。裁判所が差押命令を出したとしても、債務者が秘密鍵の開示を拒否すれば、その暗号資産を動かすことはできませんから、現実的に回収不可能です。これが、個人ウォレットからの回収が極めて困難な理由です。

 

対抗手段としての「間接強制」

この「秘密鍵」を開示させるための法的な手段として「間接強制」があります。これは、裁判所が「〇日以内に秘密鍵を開示せよ。もし開示しなければ、1日あたり〇万円を支払え」と命じることで、心理的なプレッシャーをかけて開示を促す制度です。

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実務上の戦略

債務者の財産が暗号資産のみと推定される場合、債権者として取るべき戦略は以下のとおりです。

1.入出金履歴の追跡
 銀行口座の振込明細等から取引所口座への入金を確認し、取引所を特定する。

2.仮差押え申立て
 取引所が判明したら直ちに仮差押えを行い、資産移転を防止する。

3.差押え・取立て
 取引所を第三債務者とする差押命令を申し立て、暗号資産返還請求権を実際に取り立てる。

4.補助手段
 秘密鍵保管の可能性がある場合は、間接強制や文書提出命令の併用も検討する。ただし、成功率は前述のとおり極めて限定的です。

最後に

債務者の財産が暗号資産のみというケースは、今後ますます増えていくでしょう。

差押えは可能ですが、その成功は「いかに早く、債務者が利用している交換業者を特定できるか」にかかっています。勝訴判決を得たものの、相手の財産が見つからずお困りの方は、第三者からの情報取得手続をはじめとする最新の債権回収実務に詳しい弁護士に、一度ご相談ください。

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