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【画期的判決】LINEオープンチャットの投稿者特定、IPアドレス不要の「新ルート」を開いた東京高裁判決とは

はじめに

LINEの「オープンチャット」は匿名で交流できる便利な機能ですが、誹謗中傷の温床となりやすい側面も持っていました。これまで投稿者を特定するには、IPアドレスを経由する時間のかかる手続きが必要で、途中でログが消えてしまい、被害者が泣き寝入りするケースが後を絶ちませんでした。

しかし2025年1月28日、その状況を覆す、極めて重要な判決が東京高裁で下されました。

本記事では、IPアドレスを経由する“旧ルート”の課題と、今回の判決が切り開いた“新ルート”=電話番号の直接開示が、なぜ画期的なのかを分かりやすく解説します。

 

これまでの開示請求:時間との闘いだった「IPアドレスルート」

今回の高裁判決以前も、LINEオープンチャットの投稿者特定への道が完全に閉ざされていたわけではありません。しかし、それは非常に困難な道のりでした。

  1. まず、裁判を起こしてLINEヤフーから投稿のIPアドレスを開示させる。
  2. 次に、開示されたIPアドレスを基に、NTTやソフトバンクなどの通信会社を相手に、契約者の氏名・住所を開示させる裁判を起こす。

この2段階の裁判を経る方法は、半年以上の時間がかかることも珍しくなく、ようやくIPアドレスが開示された頃には、通信会社側のログ保存期間(約3~6ヶ月)が過ぎており、「時間切れ」で特定失敗に終わるリスクが常に付きまとっていました。

LINE側が拒み続けた「電話番号」という最短ルート

この時間切れリスクを回避する、最も確実な情報が、オープンチャットアカウントに紐づく「LINE本体のアカウントに登録された電話番号」です。これさえ分かれば、通信会社を介さずとも、電話番号を元にドコモやKDDIなど携帯事業者に対して弁護士会照会などの手段で投稿者の特定を行うことができるためです。

しかし、LINEヤフーはこの「最短ルート」を、「通信の秘密」を盾に固く閉ざし続けてきました。

LINEヤフー側の主張: 「オープンチャットのアカウントとLINE本体の電話番号を結びつけるには、内部の通信記録の『解析』が必要だ。これは憲法が保障する『通信の秘密』を侵害する違法行為であり、警察の令状でもない限り行えない。」

この主張により、被害者は困難な「IPアドレスルート」を歩むしかありませんでした。

 

通信履歴の解析が、憲法が保障する通信の秘密を侵害するか

しかし、申立人側も、「発信者情報開示請求を受けた事業者がその保有の有無を確認するために通信履歴を解析することは、電気通信事業における個人情報等の保護に関するガイドラインにいう「正当業務行為に該当する場合その他の違法性阻却事由がある場合」に該当するとみなすのが合理的である。」などと反論して、開示を求めました。

つまり、本件における最大の争点は、事業者による通信履歴の解析が、憲法が保障する通信の秘密を侵害するのか、という点です。

 

東京高裁の画期的な判断:「電話番号を開示せよ」

しかし2025年1月28日、東京高裁は地裁の判断を覆し、この壁を打ち破る画期的な判決を下します。

高裁は、「法律に基づく正当な開示請求に応じるための通信履歴の解析は、事業者の『正当業務行為』にあたる」と明確に判断しました。

その上で、LINEヤフーに対し、IPアドレスではなく、通信履歴を解析して投稿者のLINEアカウントを特定し、そこに登録されている「電話番号」を開示するよう命じたのです。

 

 

この判決が持つ本当の意義

この判決の画期性は、単にLINEでの開示が認められた、という点に留まりません。

時間切れのリスクが高かった従来の「IPアドレスルート」をバイパスし、より確実な「電話番号ルート」を裁判所(しかも地裁ではなく高裁)が公式に認めた点に、その最大の意義があります。

これにより、LINEオープンチャットにおける誹謗中傷の被害者は、これまでよりも確実性をもって投稿者を特定できる可能性が大きく開かれました。

もちろん、どんな投稿でも開示が認められるわけではなく、「権利侵害の明白性」という法律上の厳しい要件をクリアする必要があることに変わりはありません。しかし、匿名性の高いプラットフォームにおける被害者救済のあり方に、大きな一石を投じた判決であることは間違いないでしょう。

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