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財産開示と第三者情報取得、どちらを使うべき?債権回収を成功させる手続き選択のポイント

はじめに

訴訟で勝訴判決を得たのに、債務者から一向に支払われず、債務者の財産がどこにあるかもわからないので、強制執行ができない…。このように債務者の財産が分からずに立ち往生することは実務上珍しくありません。

このような状況で用いられる代表的な裁判上の手段が、「財産開示手続」と「第三者からの情報取得手続」です。どちらも債務者の財産を調査するための強力なツールですが、どちらを、どの順番で使えば最も効果的なのか?という問題があります。

本記事では、両制度のメリット・デメリットを比較し、債権回収の成功率を高めるための手続き選択のポイントを解説します。

両手続きの概要

・財産開示手続

裁判所が債務者本人を呼び出し、自身の財産状況について自己申告させる手続きです。

正当な理由なく出頭しなかったり、嘘の陳述をしたりした場合には、刑事罰(6か月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)が科されるというプレッシャーをかけることで、真実の開示を促します。

この手続は、民事執行法が改正される前から規定されていた手続です(民事執行法196条から203条)。財産開示手続は、裁判上の手続であり、開示を求める債権者は、まず裁判所に財産開示実施の申立てをしなければなりません。

申立てをしたから、すぐに実施が決定されるわけではなく、裁判所が実施を決定するためには、次の要件を満たさなければなりません。

  • 強制執行又は担保権実行における配当等の手続において、申立人が請求債権の完全な弁済を得ることができなかった(民事執行法197条1項1号、2項1号)
  • 知れている債務者の財産に対する強制執行または担保権実行を実施しても、請求債権の完全な弁済を得られていないことの疎明があった(民事執行法197条1項2号、2項2号)

これら要件を満たすと裁判所が判断した場合、実施決定となり、財産開示期日が定められます。なお、この時、債務者には財産開示実施にあたっての申立てがあったことを知らされることはありませんが、実施決定となった際には、決定書を債務者に送達しますので(民事執行法197条4項)、ここで初めて債務者において財産を開示しなければならないことが知らされます(決定の効力は確定により生じ、債務者から執行抗告(実施決定に対する不服申立て)がなされることもあります。)。

財産開示期日では、債務者からの自己申告によりその財産が開示されます。財産の種類に制限はありません。債務者が保有する全ての財産情報が開示されます。

そうすると、確実に債権を回収したい債権者からすると、債務者から開示された情報に虚偽があったり、開示していない財産もあるのではないか、と疑問に思う方もいるかもしれません。

ただ、債務者が財産開示期日において、財産についての陳述義務に違反したとき(虚偽の陳述も含む。)は、6か月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金が科されます(民事執行法213条1項5号及び6号)。この他にも、そもそも正当な理由なく呼び出しを受けた期日に出頭しなかった場合、期日で宣誓を拒んだ場合なども、同様の罰則を受けることになります。

 

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・第三者からの情報取得手続

債務者本人ではなく銀行や市町村、法務局といった第三者に対して、裁判所が情報の照会を行い、債務者の財産に関する情報を取得する手続きです。

債務者からの自己申告によって開示させる手続ではなく、金融機関や自治体、日本年金機構などの第三者から、債務者の情報を取得できます。これを第三者からの情報取得手続といいます。

財産開示手続と同様に、申立後、裁判所が債権者の主張を認めれば、裁判所を通じて、第三者から債務者の情報を取得することができます。

ただし、この手続によって取得できるのは、不動産、給与、預貯金、株式や投資信託に限られています。

 

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ひと目でわかる、財産開示 vs 第三者情報取得

 

財産開示手続 第三者からの情報取得手続
情報源 債務者本人(自己申告) 銀行、市役所、法務局など
信頼性 △(虚偽のリスクあり) ◎(客観的で正確)
調査できる範囲 全ての財産(網羅的) 限定的(不動産、給与、預貯金など)
主なメリット 預貯金等以外の財産も調査可能 確実で信頼性の高い情報が得られる
主なデメリット 債務者が嘘をつく、出頭しないリスク 調査範囲が限定的(特に給与情報)
罰則 あり(不出頭や虚偽陳述) なし(第三者が回答する義務)

結論:まず「第三者からの情報取得手続」を検討すべき

では、どちらの手続きを先に利用すべきでしょうか。特別な事情がない限り、まずは「第三者からの情報取得手続」を優先することをお勧めします。

理由はシンプルで、情報の信頼性が圧倒的に高いからです。債権回収の目的は、実際に差し押さえることができる財産を「確実」に発見することです。債務者本人の自己申告には、財産を隠したり、嘘をついたりするリスクが常につきまといますが、銀行や自治体から得られる情報は客観的で正確です。

まずはこの手続きで、差押えのターゲットとなる預貯金口座や不動産の有無を確実に調査し、それでも財産の全容が掴めない場合に、補完的な手段として「財産開示手続」を利用するのが、最も効率的で成功率の高い戦略と言えるでしょう。

もっとも、債務者を呼び出して直接説明させ、心理的圧力で任意弁済を与えた方が効果的と思料されるケースでは財産開示手続を先行させるのが直裁的です。債務者が期日に出頭しない・虚偽を述べた場合には刑事罰の可能性もあり、抑止効果があります。

また、資産の散逸・隠匿が強く疑われ、迅速に凍結したい(例:預金や不動産が他へ移転される恐れ)ような事情があるケースでは、仮差押え等の保全手段でまず資産の処分を制限し、その上で第三者取得や財産開示を行うのが実務的に安全です。もっとも、仮差押えは緊急措置であり、一定の担保(供託等)を要します。

このように、全てのケースで第三者取得手続を先行させるのが正解というわけではなく、個別事案に応じて検討すべきです。

戦略的な組み合わせを採ることで、より効率的な債権回収へ

例えば、以下のような流れが考えられます。

  1. 第三者からの情報取得手続
    まず、銀行や市町村に照会し、預貯金口座や勤務先(給与)、不動産の有無を調査します。ここで十分な財産が見つかれば、直ちに強制執行に移ります。
  2. 財産開示手続
    1で十分な財産が見つからなかった場合や、他にも株式、投資信託、暗号資産、生命保険といった財産の存在が疑われる場合に、財産開示手続を利用します。STEP1で得た情報を基に、「〇〇銀行の口座について、なぜ申告しなかったのか」といった具体的な追及も可能になります。

最後に

2020年の法改正により、債権者が泣き寝入りせざるを得なかった状況は大きく改善されました。しかし、これらの強力なツールを最大限に活用するには、どちらの手続きを、どのタイミングで使うかという戦略的な視点が不可欠です。

勝訴判決を得たものの、その後の回収でお困りの方は、債権回収の実務に詳しい弁護士に相談し、ご自身の状況に最も適した手続きを選択することをお勧めします。

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