債権回収のための仮差押え
はじめに:民事保全手続とは
一般的に、民事に関する紛争は、民事訴訟によって権利を確定させ、それをもって強制執行することによって権利を実現します。
ところが、権利の確定から強制執行による権利実現までは、時間を要することがあります。
例えば、建物明渡訴訟の審理中に被告が目的建物の占有を第三者に移してしまうと、たとえ原告が勝訴判決を得て、権利を確定させても、第三者の手に渡った以上、強制執行によって建物の明渡しという権利の実現はできません(昔は暴力団などがこの手をよく使い、訴訟で敗訴判決が出そうになると別の者を住まわせて強制執行を妨げるということが良くありました。)
被告のこのような行為を防ぐためには、あらかじめ財産の処分を禁止するなどの手続をする必要があります。
→将来の権利実現の執行確保のために、債務者の財産を確保したり(仮差押)、財産の現状を固定することで処分や占有の移転を禁止したり(仮処分)する暫定的措置のことを民事保全手続といいます。
仮差押えとは
仮差押えとは、民事保全手続のうち、金銭債権の強制執行の保全を目的とし、裁判所の命令により、債権者が債務者の財産を仮に差し押さえることで、債務者が勝手に処分することができないようにする手続をいいます。
→金銭債権の将来の強制執行による債権者の満足を確保するため、暫定的に債務者の財産を差し押さえて、その処分を制限する措置です。
仮差押えによる効果
仮差押えは、財産処分を禁止する暫定的な措置です。仮差押えがされると、不動産であれば、仮差押えの登記がされますが、債務者が第三者に売却することもできます。
→その後、勝訴判決を得た債権者が、債務者の処分行為に関係なく、その不動産に対して債権回収の手続を行うことができます。
仮差押えの申立手続
1 対象物
仮差押えの対象物は、動産以外であれば、不動産、債権その他の財産権については特定しなければなりません(民事保全法21条)。
2 仮差押申立書の記載事項
仮差押えの申立書には、以下の事項を記載しなければなりません(民事保全法13条、民事保全規則13条)。
・当事者並びに代理人の氏名住所
・申立ての趣旨
→例えば、対象物が不動産であれば、「債権者の債務者に対する上記請求債権の執行を保全するため、債務者所有の別紙物件目録記載の不動産は、仮に差し押さえる。との裁判を求める。」という文言になりますし、対象物が債権であれば、「債権者の債務者に対する上記請求債権の執行を保全するため、債務者の第三債務者に対する別紙仮差押債権目録記載の債権は、仮に差し押さえる。第三債務者は、債務者に対し、仮差押えに係る債務の支払いをしてはならない。との裁判を求める。」となります。
・申立ての理由
民事保全手続では、保全すべき権利または法律関係及び保全の必要性は、疎明しなければなりません(民事保全法13条2項)。疎明とは、一般的に、裁判官に事実の存在が一応確からしいとの認識を得させる行為をいいます。
①被保全権利(保全すべき権利または法律関係)
→自分は債務者に対し債権を有しているという権利が実際に存在していることをいいます。
②保全の必要性
→仮差押えが必要だということです。債権を回収するために債務者の財産を仮差押えしなければ、今後強制執行できなくなるか、強制執行に著しい困難を生ずるおそれがある、といことです(民事保全法20条1項)。
3 管轄裁判所に申立書その他添付書類を提出
申立書と別紙として仮差押目録や物件目録などの目録類、その他疎明に必要な資料を添付して、管轄裁判所(本案の管轄裁判所または仮に差し押さえるべき物の所在地を管轄する地方裁判所)に提出します。
4 審尋
保全命令は、原則として書面審理で決定されます。
仮差押えの場合、債務者に気付かれないように仮差押えの手続を進めながら債務者の財産を保全する目的がありますので、債務者が出廷することはありません。仮差押えで、審尋があるのは、裁判官に疑問点や不明点が生じた場合などです。
5 保全命令の担保提供
保全命令は、担保を立てさせて、もしくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができます(民事保全法14条1項)。
担保提供の方法は、一般的に、担保を立てるべきことを命じた裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に金銭又は担保を立てるべきことを命じた裁判所が相当と認める有価証券を供託する方法です(民事保全法4条1項)。
→保全命令における裁判所の判断は暫定的な措置であるため、将来保全命令または保全執行が違法となる可能性があります。その損害の担保として一定の金額を供託させることになっています。
→そのため、担保の提供がない場合は、申立て自体が却下されます。
6 仮差押命令の発令
仮差押命令が発令されると、仮差押決定正本の交付を受けることができ、正本に基づいて、保全執行を実施します(民事保全法43条1項)。
不動産に対する仮差押えの執行
不動産に対しては、登記による方法と強制管理の方法の2つがあります。両者を併用することもできます(民事保全法47条1項)。
登記の方法による場合は、仮差押命令を発した裁判所が同時に保全裁判所となり(民事保全法47条2項)、裁判所書記官が仮差押えの嘱託をします(民事保全法47条3項)。
強制管理の方法による場合は、不動産の所在地を管轄する裁判所が同時に保全執行裁判所となり、裁判所は強制管理開始決定をし、債務者に対し収益の処分を禁止します(民事保全法47条5項)。民事保全は暫定的な措置のため、民事執行法が定める配当等の手続の規定(準用も含む)はありません。なので、管理人が、計算した配当等に充てるべき金銭を供託し、その事情を保全執行裁判所に届け出ます(民事保全法47条4項)。その後、債権者が本執行するときは、この強制管理を利用して実施します。
船舶に対する仮差押えの執行
船舶に対しては、登記による方法と船舶国籍証書等を取り上げて保全執行裁判所に提出すべきことを命ずる方法の2つがあります。両者を併用することもできます(民事保全法48条1項)。
動産に対する仮差押えの執行
動産に対しては、執行官が執行機関となって、目的物を占有する方法によって行われます(民事保全法49条1項)。
→動産については目的物の特定を要しないので、執行官が現場に赴いてその場所で仮に差し押さえる動産を選択します。
債権その他の財産権に対する仮差押えの執行
債権その他の財産権に対しては、仮差押命令を発した裁判所が保全執行裁判所となり(民事保全法50条2項)、保全執行裁判所が第三債務者に対し債務者への弁済を禁止する命令を発する方法により行います(民事保全法50条1項)。
仮差押解放金
仮差押解放金とは、簡単に言えば、債務者が仮差押えから解放されるために、支払うべき金銭のことをいいます(民事保全法22条)。
→一般的に、仮差押が認められた場合の主文は、例えば、「債権者の債務者に対する上記債権の執行を保全するため、別紙物件目録記載の債務者所有の不動産は、仮に差し押さえる。債務者は、〇〇円を供託するときは、この決定の執行の停止またはその執行処分の取消しを求めることができる。」となり、債務者が一定額の金銭を供託すれば、仮差押執行を継続する必要性はなくなり、不必要な執行を回避することで債務者の保護を図っています。
したがって、仮差押を受けた側になった場合には、裁判所が決定した解放金を供託することで、仮差押に伴う弊害から逃れることができます。
仮差押の注意点
担保金の確保が必要
損害があった場合の担保になりますので、本案の勝訴判決が確定するまで、あるいは債務者との和解により債務者からの同意が得られるまで取り戻すことができません。
したがって、しばらくの間担保金は手元から離れ預けっぱなしとなりますので、当面使う予定のない資金を予め準備しておく必要があります。
債務者が破産
債務者が破産申立てを行うと、仮差押命令は効力を失います(破産法42条2項)。効力を失うと、一般債権者と同じ立場になります。
最後に
これまでお伝えしましたとおり、仮差押手続は、その目的などからかなりの知識と経験が必要となり、弁護士の支援が必須といえます。また担保金や債務者の破産といったことも考慮しながら手続を行うか検討しなければなりません。
こうした債権回収でお悩みの方は当事務所までご相談ください。