財産開示手続の概要と一般的な流れ
財産開示手続とは
金銭債権についての強制執行を実効性のあるものとするため、債務者から財産に関する情報を取得するために制定されたものです(民事執行法196条から203条)。
第三者からの情報取得手続との違い
第三者からの情報取得手続は法務局、金融機関等の第三者から債務者の財産情報を提供してもらいますが、財産開示手続は、債務者(開示義務者)自身からその財産情報を開示してもらう手続です。
第三者からの情報取得手続の概略などについては、こちらをご覧ください。
財産開示手続の一般的流れ
申立て
申立権者
財産開示手続の申立権者は、①執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者(民事執行法197条1項)、②債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者(民事執行法197条2項)であり、これ以外の者は申立てをすることができません。
管轄裁判所
財産開示手続は、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が、執行裁判所として管轄します(民事執行法196条)。
→後ほど述べます債務者の呼び出しに配慮した形になります。
申立書と添付資料
実務上は、申立書に当事者目録や請求債権目録を別紙として添付します。その他一般的な添付資料については、以下の通りです。
・執行力ある債務名義の正本
・送達証明書
・担保権、被担保債権、請求債権目録(一般の先取特権に基づく申立ての場合)
・配当表写し又は弁済金交付計算書写し等(実施決定のための要件アの場合)
・財産調査結果報告書とのその関連資料(実施決定のための要件イの場合)
・再施制限に該当しないことに関する資料
・印紙(1件につき2000円)と郵便切手(裁判所に異なる場合があります。)
実施決定
実施決定のための要件
ア 強制執行又は担保権実行における配当等の手続(申立日より6か月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が請求債権の完全な弁済を得ることができなかったこと(民事執行法197条1項1号、2項1号)
→簡単に言いますと、強制執行後の配当等手続をしても、債務者から満額の支払いを受けることができなかった場合です。
イ 知れている財産に対する強制執行又は担保権実行を実施しても、申立人が請求債権の完全な弁済を得られていないことの疎明があったこと(民事執行法197条1項2号、2項2号)
→簡単に言いますと、強制執行したとしても、満額の支払いを受けられないことの立証があった場合です。
再実施の制限(民事執行法197条3項)
申立ての日前3年以内に財産開示期日においてその財産を陳述した債務者については、原則として実施決定をすることができません。
ただし、ⅰ)債務者がその財産開示期日において一部の財産を開示しなかったとき、ⅱ)債務者がその財産開示期日の後に新たに財産を取得したとき、ⅲ)その財産開示期日の後に債務者と使用者との雇用関係が終了したとき、は例外として実施決定をすることができます。
実施決定等の告知
実施決定となりますと、その正本が債務者に送達されます(民事執行法197条4項)。
実施決定は、確定により効力が生じ(民事執行法197条6項)、確定すると債務者に開示義務が発生します。
一方で、債務者は、実施決定の告知を受けた日から1週間の不変期間内に、執行抗告(簡単に言えば、不服申立て)をすることができます(民事執行法197条5項、10条)。
財産開示期日等の指定及び告知
実施決定が確定したときは、執行裁判所は、財産開示期日を指定し、申立人と債務者を呼び出します(民事執行法198条)。
開示義務者の出頭及び陳述義務(民事執行法199条1項)
呼び出しを受けた開示義務者は、財産開示期日に出頭し、宣誓の上、債務者の財産について陳述する義務を負います。
→財産目録を提出しただけでは出頭義務を果たしたことにはならず、代理人である弁護士の出頭や陳述をもって代えることはできません。
→必ず債務者自身が裁判所に出頭することになります。
財産開示期日
開示義務者が期日に出頭した場合、陳述義務がありますので、財産について陳述しなければなりません。また執行裁判所から、質問を受けることもあります。
開示義務者が期日に出頭しなかった場合、裁判所は、開示義務者が次回の期日で出頭する見込みが高い場合を除いて、手続を終了することができます。
開示義務者に対する罰則
開示義務者に以下の手続違背が認められた場合、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金という罰則が定められています(民事執行法213条1項5号及び6号)。
・開示義務者が、正当な理由なく、呼出しを受けた財産開示期日に出頭しなかった場合
・開示義務者が、正当な理由なく、呼出しを受けた財産開示期日において宣誓を拒んだ場合
・財産開示期日において宣誓をした開示義務者が、正当な理由なく、陳述すべき事項について陳述を拒んだ場合
・財産開示期日において宣誓をした開示義務者が、虚偽の陳述をした場合
申立人に対する開示情報の目的外利用の制限(民事執行法202条)
申立人は、財産開示手続において得られた債務者の財産又は債務に関する情報を、債務者に対する債権をその本旨に従って行使する目的以外の目的のために利用し、又は提供してはなりません。
まとめ
以上財産開示手続について記しましたが、第三者からの情報取得手続とは異なり、第三者が介入することなく、当事者間で財産開示の手続を行うことになります。
そのため、申立人と開示義務者に対して、それぞれ目的外利用の制限や罰則がありますので、財産開示手続についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。