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AV新法/AV出演被害防止・救済法の概要と4つの重要な点など

令和4年法律性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像製造物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律、いわゆるAV新法AV出演被害防止・救済法とも呼びます。)が施行されました。

この背景には、成人年齢が18歳に引き下げられたことが影響していると考えられています。民法では、未成年者も契約することはできますが、親などの法定代理人の同意がない契約は取り消すことができます。そのため、成人年齢が18歳に引き下げられた民法の改正により、18歳でAVに出演したとしても、未成年者取消しができなくなりました。そして、アダルトビデオ出演被害の実態に鑑み、出演被害の発生及び拡大の防止を図り、被害者を救済し、出演者の個人の尊厳が重んぜられる社会形成に資することを目的とする法律です(AV新法1条)。

 

概要

AV新法は、性行為映像製造物、いわゆるアダルトビデオ(AV)の制作公表により出演者に取り返しの付かない重大な被害が生じるおそれがあり、現に生じていることに鑑み、AV出演に係る被害の発生や拡大の防止を図ることなどを目的としています。出演契約等について、その締結や履行等に関する特則、無効、取消し及び解除等に関する特則などが定められています。

 

重要な4つ

① 契約締結に関する3つの義務

ア AV出演契約は、AV作品毎に契約を締結しなければなりません(AV新法4条1項)。

→例えば、過去の作品を再編集するなどして二次利用する場合は、過去の作品と同一性がないときは、再度の契約が必要になります。

 

イ 契約書面等の交付義務(AV新法4条2項)

→出演契約は、書面又は電磁的記録でしなければ、その効力を生じません

→契約書面には、ⅰ)契約当事者の特定事項、ⅱ)契約締結日時と場所、ⅲ)出演者が性行為映像製造物に出演すること、ⅳ)撮影予定日時と場所、ⅴ)出演者の性行為に係る姿態の具体的内容、ⅵ)性行為に係る姿態の相手方を特定するために必要な事項、ⅶ)公表の具体的方法と期間、ⅷ)公表する者を特定するための必要な事項、ⅸ)報酬額と支払時期、ⅹ)公表する場所やウェブサイト、を記載又は記録しなければなりません(AV新法4条3項)。

 

ウ 説明義務と出演契約書等交付義務(AV新法5条及び6条)

→制作公表者は、出演契約を締結しようとするときは、あらかじめ、規定などについて、書面を交付して説明をする義務を負います(AV新法5条1項)。またこの説明は、出演者がその内容を容易かつ正確に理解することができるよう、丁寧に、かつ、分かりやすく説明しなければならず、出演者を誤認させるような説明その他の行為をしてはなりません(AV新法5条2項及び3項)。

→制作公表者は、出演契約を締結したときは、速やかに、出演者に対し、出演契約事項が記載され又は記録された出演契約書等を交付し、又は提供しなければなりません(AV新法6条)。

 

② 撮影・公表期間とその方法

ア 契約書等交付後1ヶ月間の撮影禁止

撮影は、出演者が契約書等の交付を受けた日から1ヵ月は撮影できません(AV新法7条1項)

→いかなる名称か関係なく、撮影自体と密接に関連する撮影も含まれます(AV新法7条4項)。

 

イ 撮影終了後4ヶ月間の公表禁止

→公表は、全ての撮影を終了した日から4ヶ月は公表してはなりません(AV新法9条)。

 

ウ 出演者の撮影拒絶権と免責

→出演者は、出演契約において定められている性行為に係る姿態の撮影であっても、その全部又は一部を拒絶することができます。また、拒絶により、制作公表者や第三者に損害が生じても、出演者は損害賠償責任を負いません(AV新法7条2項)。

 

エ 配慮義務

→制作公表者は、撮影にあたっては、出演者の健康保護その他の安全及び衛生、並びに出演者が撮影を拒絶することができるようにすること、その他債務の履行の任意性が確保されるよう、特に配慮して必要な措置を講じなければなりません(AV新法7条3項)。

 

オ 出演者による映像確認機械の付与義務

→制作公表者は、公表が行われるまでの間に、出演者に対し、撮影された映像のうち出演者の性行為映像製造物への出演に係る映像であって公表するものを確認する機会を与えなければなりません(AV新法8条)。

 

③ 契約の無効、取消し、解除に関する特則

ア 無効事由

→以下に挙げる条項が契約に含まれていた場合は、その契約は無効となります。

ⅰ)性行為映像製造物を特定せずに、出演者に契約の相手方その他の者が指定する性行為映像製造物への出演をする義務を果たす条項(AV新法10条1項)

 

ⅱ)出演者の債務不履行について損害賠償額を予定し、又は違約金を定める条項(AV新法10条2項1号)

 

ⅲ)制作公表者の債務不履行により出演者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を免除し、又は制作公表者にその責任の有無若しくは限度を決定する権限を付与する条項(AV新法10条2項2号)

→つまり、制作公表者側に有利な条項は無効となります。

 

ⅳ)制作公表者の債務の履行に際してされたその制作公表者の不法行為により出演者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を免除し、又は制作公表者にその責任の有無若しくは限度を決定する権限を付与する条項(AV新法10条2項3号)

→つまり、制作公表者側に有利な条項は無効となります。

 

ⅴ)出演者の権利を制限し又はその義務を加重する条項(AV新法10条2項4号)

 

イ 取消事由

→制作公表者が説明義務と交付義務に違反したとき、制作公表従事者が出演契約の内容等に関して出演者を誤認させるような説明その他の行為をしたときは、出演者は、出演契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができます(AV新法11条)。

 

ウ 解除事由

→契約を解除するにあたっては、催告が必要ですが、以下の事由がある場合は、出演者は催告することなく、契約を解除することができます(AV新法12条)。

 

ⅰ)1ヶ月間の撮影禁止期間(AV新法7条1項)、又は配慮義務(同条3項)に違反して、撮影が行われたとき(同法12条1項1号)

 

ⅱ)映像確認義務違反(AV新法8条)に違反して、公表が行われたとき(同法12条1項2号)

 

ⅲ)公表禁止期間(AV新法9条)に違反して、期間経過前に公表が行われたとき(同法12条1項3号)

 

→上記事由による解除があった場合、制作公表者は、解除に伴う損害賠償請求をすることができませんが(AV新法12条2項)、当事者は原状回復義務を負うため(同法14条)、出演者が報酬を受け取っていた場合は返還する必要があります

 

エ 任意解除

→撮影時に出演に同意していたとしても、公表から1年(経過措置として施行後2年間は2年)は、無条件に契約を解除することができます(AV新法13条1項)。任意解除は、書面又は電磁的記録による通知を発した時に効力を生じます(同条2項)。

→任意解除があった場合、制作公表者は、解除に伴う損害賠償請求をすることができません(AV新法13条3項)。また出演者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものについて、不実な告知をしてはならず(同条5項)、任意解除等を妨げるため、出演者を威迫して困惑させてはなりません(同条6項)。

→当事者は原状回復義務を負うため(AV新法14条)、出演者が報酬を受け取っていた場合は返還する必要があります。

 

④ 差止請求権

→出演者は、契約に基づくことなく制作公表がされた場合や、契約の無効、取消しをした場合は、制作公表を行う者やそのおそれがある者に対し、公表の停止・予防及びこれに必要な行為を請求することができます(AV新法15条)。

→具体的には、公表しないよう求める予防の請求、公表済みの映像の削除、店頭販売されている場合はその回収、データの消去などです。

 

プロバイダ責任制限法に関する特則(AV新法16条)

出演者の権利侵害の程度が大きくなるとの懸念から、プロバイダ責任制限法(インターネット上の誹謗中傷について、削除や発信者情報開示請求に係るプロバイダ等事業者の損害賠償責任について定めた法律)の特則を定め、削除や発信者情報開示請求を利用しやすい規定があります。

具体的には、以下の場合、プロバイダ等事業者は、削除や開示請求に応じた場合の事業者の損害賠償責任を負いません。

① 特定電気通信による情報であり、性行為映像製造物によって権利を侵害されたとする出演者から、ⅰ)権利を侵害したとする情報、ⅱ)権利が侵害された旨、ⅲ)権利が侵害されたとする理由、ⅳ)侵害情報が性行為映像製造物に係るものである旨を示して特定電気通信役務提供者に対し侵害情報の送信を防止する措置を講ずるよう申出があったとき

② 特定電気通信役務提供者が、侵害情報の発信者に対し侵害情報等を示して侵害情報送信防止措置を講ずることに同意するかどうか照会したとき

③ 発信者が照会を受けた日から2日を経過しても、発信者から侵害譲歩送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき

 

罰則

① 任意解除妨害による罰則

→任意解除について、不実告知(AV新法13条5項)又は任意解除を妨げるための威迫・困惑(同条6項)に違反したときは、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、又はこの両方(併科)が科せられます(同法20条)。

 

② 説明義務や書面交付義務違反による罰則

→説明義務(AV新法5条1項)又は書面交付義務(同法6条)に違反したときは、6ヵ月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、又はこの両方(併科)が科せられます(同法21条)。

 

最後に

AV新法は、契約書に法定記載事項を記載しなければいけなかったり、交付説明義務などかなり細かく複雑な条文となっていますので、弁護士等にチェックしてもらうのが適切でしょう。また、当事務所ではアダルトビデオに関連した被害者の方からのご相談も承っております。お悩み、お困りの方はお気軽にご相談ください。

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