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開示請求で間接強制をすべき場合(発信者情報開示等の仮処分決定に応じない債務者がたまにいるのです)

SNSやネットなどで誹謗中傷を受け、投稿者(発信者)の情報を開示する手続や投稿の削除を求める場合、多くは仮処分の手続を利用することになると思います。

発信者情報開示等仮処分の申立てをし、裁判所から仮処分決定が出たにもかかわらず、サイト管理者等コンテンツプロバイダなどから任意に応じてもらえないときの対応について、記したいと思います。

 

仮処分手続の一般的流れ

まず、仮処分手続の一般的な流れは、以下のようになります。

①仮処分の申立て

②債権者面接

③双方審尋(債務者も呼び出して、債権者と主張反論を行う)

④担保決定(供託金額などが知らされます。)

⑤供託(法務局で供託手続を行います。)

⑥発令(仮処分決定)

⑦削除や開示(プロバイダから削除や開示の対応があります。)

⑧供託金の回収

 

債務者(プロバイダ等)が任意に応じてくれないとき

開示や削除の仮処分決定がなされたのに、サイト管理者等が任意に応じてくれないケースは少なくありません。特にログの保存期間との関係で、開示が遅れると、投稿者(発信者)を特定できなくなる可能性が高くなります

このようなときは、結論から言えば、間接強制の手続を検討します。

 

間接強制とは

間接強制とは、債務を任意に履行しない債務者に対し、一定の期間内に履行しなければ制裁を科すことを通じて債務者の意思に反して強制を加え、債務の実現を図る手続をいいます(民事執行法172条1項)。

→強制執行手続のうち、債務者が判決正本などの債務名義で命じられた債務を履行しない場合に、債務の履行を確保するために相当と認める一定額の金銭を支払うよう命じる裁判に基づき、債務者に心理的に圧力を掛けて履行させる手続をいいます。

→判例(最高裁平成17年12月9日決定)も、「債務者が債務の履行をしない場合には一定の額の金銭を支払うべき旨をあらかじめ命ずる間接強制決定をすることで、債務者に対し、債務の履行を心理的に強制し、将来の債務の履行を確保しようとするもの」としています。

 

申立手続

申立てに一般的に必要な書類は以下の通りですが、裁判所により提出書類が異なることもありますので、事前に確認しておく必要があります。

(ア)間接強制申立書

(イ)仮処分決定正本

(ウ)送達証明書

(エ)損害額見積書

(オ)資格証明書(当事者が法人である場合)

(カ)委任状(代理人による手続の場合)

(キ)印紙・予納郵券

 

(ア)間接強制申立書

申立書には、ⅰ)申立の趣旨、ⅱ)申立の理由を記載し、ⅲ)当事者目録、発信者情報目録、投稿記事目録などの各目録を別紙添付します。

ⅰ)申立の趣旨

一般的な文言は、以下のとおりとなります。

「1 債務者は、債権者に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を仮に開示せよ。

2 債務者が本決定送達の日から〇日以内に前項記載の義務を履行しないときは、債務者は債権者に対し、上記期間経過後の翌日から履行済みまで、1日につき金〇〇円の割合による金員を支払え。」

 

ⅱ)申立の理由

一般的な文言は、以下のとおりです。

「債務者は、債権者に対し、下記事件の執行力のある債務名義の正本に基づき、申立の趣旨第1項のとおりの義務があるにもかかわらず、これを履行しないため、債権者は、申立の趣旨第2項記載の金員の損害を被る可能性がある。よって、申立の趣旨記載の裁判を求める。

〇〇地方裁判所令和〇年(ヨ)第〇〇号仮処分命令申立事件の仮処分決定」

 

(イ)仮処分決定正本、(ウ)送達証明書

(イ)仮処分決定正本を受け取ったら(上図⑥)、(ウ)送達証明書の取得手続を行います。送達証明書の申請手続は、仮処分の決定をした裁判所に対して行います。

 

(エ)損害額見積書

間接強制は、債務の履行を確保するために相当と認める一定額の金銭を支払うよう命じる手続ですので、削除や開示されない場合の債権者が被る損害額を基準に計算します。その一定額の金銭についての書面が、損害額見積書です。一定額の金銭については、1日あたり10万円や30万円といった例もありますので、事案に応じてケースバイケースの判断になります。

具体的な記載内容については、一般的ですが、開示または削除の必要性があったこと仮処分の決定があったこと開示または削除をしておらず権利侵害が継続していることそれによる損害額、になります。

 

(オ)資格証明書、(カ)委任状

当事者(債権者または債務者)が法人である場合は、それぞれ資格証明書(申立前3か月以内のもの)、弁護士に委任している場合は、委任状が必要になります。

 

(キ)印紙・予納郵券

印紙は、1件につき2000円で、予納郵券に関しては裁判所により異なることがありますので、事前に確認しておく必要があります。

 

申立期間

間接強制は、保全執行になりますので、債権者に対して保全命令が送達された日から2週間以内に間接強制を申し立てなければなりません(民事保全法43条2項)。

 

管轄裁判所

間接強制は、債務名義(仮処分決定)を作成した裁判所に申し立てます。

 

申立後の手続

間接強制の決定には、債務者の審尋が必要ですので(民事執行法172条3項)、東京地裁の場合は、回答期限を10日として、債務者に対して、債務者の意見等を書面提出により確認する手続を行います。債務者から何も提出されない場合は、申立てを認容する決定がなされます。

 

決定後の手続

債権者が、間接強制の決定に基づき、損害額を回収するため強制執行を申し立てる場合は、一般的には、執行文付与付の間接強制正本や送達証明書などを裁判所に提出して、損害金を回収します。

 

仮処分の手続を採る必要があるか否かの判断

一般的にですが、発信者情報開示命令申立(法改正後の新制度)の場合、申立からスムーズにいけば早くて数日から数週間以内、遅くとも約1か月以内にはIPアドレスの開示を受けられるのですが、中には開示がそれ以上に遅れる場合もあり得ます。

遅れる理由としては、裁判所の命令が出るまでが遅いわけではなく、その後の個別の債務者の開示手続きが非常に遅いことがしばしば見られることが原因です。

具体的には、旧Twitterなどでは、旧Twitterの代理人弁護士の事務所に対して「裁判所の命令が出ているため、至急IPアドレスを開示するよう」何回電話しても電話に一切出ず、事務員が出るばかりで、担当弁護士からの折返しの電話を要求しても一切折返しがなく、連日数回に渡って1,2週間ほど電話してようやく、担当弁護士から電話ではなくメールが入り、「業務多忙でIPアドレスを探しているがいつになるか分からない。お急ぎなら「仮処分」手続きを先生の方で改めてやっていただいたほうが良いと思いますが。」とだけ回答してきたことがありました(その案件では時間はギリギリでしたが、改めてイチから仮処分申立を行い、何とかIPアドレスが出てきましたが、一部はログ保存期間切れで消えていました。)ということもありました。

 

したがって、開示請求をしたいとのご相談の中で投稿先サイトをお伺いし、このように開示に遅れが生じるという予想がつく相手方である場合(時期にもよりますが、遅延しがちな候補がいくつかあります)には、発信者情報開示命令(法改正後の新制度)の申立ではなく、敢えて従前から存在する枠組みである発信者情報開示仮処分申立間接強制とともに申立して、仮処分決定による間接強制の手続を採ることがベターといえます。

 

まとめ

発信者情報開示や削除請求は、複雑な手続だけでなく、ログの保存期間との関係で、どういう手続で開示等を求めるか難しい判断を要するケースが多いです。間接強制の申立も当初から並行して行うべき相手方も、一般の方ではどのサイトやどの相手方であれば必要になるかの情報収集すら困難であるのが現状かと思われます。

ネットの誹謗中傷や削除でお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

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