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債権執行手続の概要(預貯金・給与等の差押え手続)

債権執行は、債務者が有する預貯金や給料といった第三者への債権を差し押さえて換価することで、債権回収を図る手続です。

債権執行の手続は、迅速な債権回収を行えるということで、実務でも多用されますが、一方で細かい記載内容が必要である上、事前に準備する資料が多く、それらに時間をとられてしまい、強制執行が不奏功に終わることも少なくありません。

今回は債権執行の一般的な概要を、実務上の取り扱いも踏まえて、記したいと思います。

 

申立に必要な一般的書類

申立書

申立書には、執行裁判所や申立債権者の表示、当事者・請求債権・差押債権の表示、強制執行を求める旨を記載します。

→強制執行を求める文言は、一般的には、「債権者は、債務者に対し、別紙請求債権目録記載の執行力のある債務名義の正本に記載された請求債権を有しているが、債務者がその支払をしないので、債務者が第三債務者に対して有する別紙差押債権目録記載の債権の差押命令を求める。」となります。

→その他申立書には「第三債務者に対する陳述催告の申立てをする」のチェック欄があります。陳述催告とは、第三債務者に差押債権の内容について、陳述書を提出するよう催告する手続のことをいい、その陳述書には、預貯金に対する差押えであれば、「預貯金口座の有無やその残高」が記載されており、債権者と裁判所に送付されます。

 

当事者目録

当事者目録には、債権者・債務者・第三債務者を表示します。原則として、氏名住所は、執行力ある債務名義(判決文、和解調書や調停調書など)の正本のそれと一致していることが必要です。

→もし執行力ある債務名義の正本と一致していない場合は、現在の氏名住所とのつながりがわかるような資料を添付し(住民票や商業登記事項証明書など)、債務名義上の債権者・債務者と同一であることを証明しなければなりません。

→債権者の欄には、債務名義上の住所またはその他の住所に送達を希望する場合は、送達場所を記載します。

 

債務者の表示について

基本的には、債権者のそれと同様に、債務名義上の債務者の住所と氏名を記載しますが、例えば、住居所が不明である場合は「住居所不明」とし、「最後の住所」を記載したり、法人の実質上の住所が商業登記簿上の住所と異なる場合は債務名義上の住所を記載したうえで、「商業登記簿上の住所」を記載するのが実務上の扱いです。これらの場合は、先ほども記しましたが、つながりがわかる資料を添付します。

→ただし、裁判所によって、記載方法が異なることがあります。

 

第三債務者の表示について

基本的には、債権者や債務者の表示と同様に記載します。第三債務者が法人の場合は、名称又は商号及び主たる事務所又は本店所在地のほか、代表者の資格及びその氏名を記載します。

→特に預貯金の差押えで金融機関を第三債務者とする場合は、取扱支店を送達先として記載するのが実務の取扱いです。その際は、「名称又は商号及び主たる事務所又は本店所在地のほか、代表者の資格及びその氏名」を記載したうえで、送達場所として、支店の住所と支店名を記載します。

→ただし、裁判所によって、記載方法が異なることがあります。

 

請求債権目録

債務名義が判決等の場合、「〇〇地方裁判所令和〇年(〇)第〇〇号事件の執行力ある判決正本に表示された下記金員及び執行費用」と記載したうえで、元金、損害金、執行費用を項目別に記載します。

→一部請求をする場合や債務名義に表示された金額よりも少ない金額で請求する場合は、内金または残金であるかなどその旨も記載します。

→ただし、債務名義の種類(判決や支払督促、公正証書など)によって記載内容が異なります。

 

執行費用

準備費用(強制執行準備のために要した費用)と実施費用(強制執行実施のために要した費用)は、いずれも債務者の負担です。

→差押債権者が取立てをすることができるのは、請求債権と執行費用の合計額までとされていますので、執行費用はその費目や金額を明らかにして記載します。

→主な執行費用は、準備費用費目として、判決正本等の送達証明申請手数料、執行文付与申立手数料、判決の確定証明申請手数料など、実施費用費目として、差押命令申立手数料、資格証明書や住民票交付手数料、代理人選任許可申立手数料、差押命令送達費用など、が挙げられます。

 

差押債権目録

差し押さえるべき債権の種類及び額その他の債権を特定するに足りる事項を明らかにして、債権の一部を差し押さえる場合は、その範囲を明らかにしなければなりません。

→差し押さえるべき債権の種類(預貯金や給料など)によって、書式が異なる場合がありますので、裁判所に事前に確認する必要があります。

 

執行力ある債務名義正本(民事執行法22条)

→執行文が必要な債務名義の例として、判決(少額訴訟判決を除く)、和解調書、民事調停調書、調停に代わる決定、和解に代わる決定、訴訟費用額確定処分、家事調停調書(養育費、婚姻費用等除く)、公正証書があります。

→執行文が不要な債務名義の例として、仮執行宣言付支払督促、仮執行宣言付少額訴訟判決、家事審判書、家事調停調書(養育費、婚姻費用等)があります。

 

送達証明書

→上記債務名義を作成した裁判所で申請により発行されます。

 

確定証明書

→家事審判のように確定しなければ効力をしない債務名義の場合は、確定証明書が必要となります。

 

資格証明書

→当事者(債権者、債務者、第三債務者)が法人である場合、申立日から3か月以内に発行されたもの

→東京地裁の場合は、債務者と第三債務者の資格証明書は、申立日から1か月以内のものとされています。

 

委任状

→代理人が弁護士の場合は委任状、その他の場合は代理人許可申立書を一緒に提出します。

 

更正決定正本及びその送達証明書

→債務名義に更正されている場合は、更正決定正本とその送達証明書が必要となります。

 

管轄裁判所

原則として、債務者の普通裁判籍の住所地を管轄する地方裁判所に申し立てます。

 

最後に

以上、債権執行の概要についてお伝えしましたが、記載内容や準備する資料、数字など細かいところで裁判所から訂正や追完を求められる場合があります。基本的には弁護士のサポートが必要となる手続ですので、債権執行について、お困りの方は当事務所までご相談ください。

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