COLUMN

コラム

発信者情報開示請求の要件と流れ

ネットで匿名の投稿者により誹謗中傷を受けた場合、発信者情報の開示請求を行い、投稿者を特定することができる可能性があります。そのためには、基本的に裁判手続によることとされますが、今回は発信者情報の開示請求ができる要件(条件)やどのような手続があるのかについて、簡単にですが、記したいと思います。

 

発信者情報開示請求権とは

発信者情報開示請求権とは、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者が、発信者を特定して民事上の責任を追及することができるよう、開示関係役務提供者に対して、法律で定められた要件を満たしたときに、開示関係役務提供者が有する発信者情報の開示を求める権利をいいます(プロバイダ責任制限法5条)。

 

発信者情報開示請求権の分類

プロバイダ責任制限法5条は、発信者情報開示請求権について、3類型に分類しています。

(ア)特定発信者情報以外の発信者情報の開示請求権(法5条1項1号及び2号)

(イ)特定発信者情報の開示請求権(同法5条1項1号から3号)

(ウ)関連電気通信役務提供者に対する開示請求権(同法5条2項)

 

発信者情報開示請求権の要件

発信者情報開示請求権が認められるためには、(ア)特定発信者情報以外の発信者情報及び(ウ)関連電気通信役務提供者に対する各開示請求権については以下の(1)から(6)、(イ)特定発信者情報の開示請求権については以下の(1)~(7)の要件をそれぞれみたす必要があります(法5条1項)。

(1)特定電気通信による情報の流通がなされたこと

→「特定電気通信」とは、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信をいいます(同法2条1号)。

→具体的には、SNSといった不特定多数に受信される可能性のあるインターネット通信を指します。従いまして、SNSアカウントによるダイレクトメッセージ(いわゆるDM)はこの「特定電気通信」に含まれず、DMによる誹謗中傷については発信者情報開示請求を行うことができません。

 

(2)情報の流通によって自己の権利が侵害されたことが明らかであること

→この要件は、「権利侵害の明白性」とも呼ばれます。具体的には、問題としている投稿が侵害している権利によっても異なるのですが、名誉権の毀損を主張する場合(名誉毀損を問題とする場合)には、「権利侵害の明白性」を満たすためには、①同定可能性(投稿内容がその人のことを指しているということ)、②投稿内容がその人の社会的評価を低下させることが明白であること、③違法性阻却事由をうかがわせる事情の不存在の3つとも満たさなければなりません。

⇒実務上、最近は②の社会的評価の低下についてはある程度広く認められるのですが、①の同定可能性については裁判官はかなり厳しく判断する傾向があり、イニシャルだけなど事情を知る人が見ればその人だと言えるような場合でも同定可能性なしと判断するなど、①のハードルを超えないと、いかに②で酷い誹謗中傷が投稿されていても、開示請求が認められない可能性が高いです。なので、この辺は事前に投稿内容を弁護士の方で厳密にチェックさせていただきます。

 

(3)発信者情報の開示を受ける正当な理由があること

→発信者情報の開示を受ける者が、「その発信者情報を入手することについて合理的な必要性が認められるとき」を意味します。

→例えば、民事上の損害賠償請求を行うため、名誉回復措置を行うためなどは正当な理由があると認められる可能性があります。

 

(4)開示を求める相手方が開示関係役務提供者であること

→形式的ですが、(ウ)関連電気通信役務提供者に対する発信者情報開示請求権における開示関係役務提供者の該当性について、開示請求の相手方が侵害関連通信を媒介した関連電気通信役務提供者として開示関係役務提供者に含まれることが要件となり、その他の要件については(ア)の開示請求権と差はありません。

 

(5)開示を求める情報が発信者情報であること

→開示の対象となる発信者情報は、プロバイダ責任制限法施行規則2条に規定されています。⑨から⑬を「特定発信者情報」といい、①~⑧と⑭を「特定発信者情報以外の発信者情報」といいます。

①氏名又は名称

②住所

③電話番号

④電子メールアドレス

⑤投稿時のIPアドレス及びこれと組み合わされたポート番号

⑥インターネット接続サービス利用者識別符号

⑦SIM識別番号

⑧投稿時のタイムスタンプ

⑨ログイン時のIPアドレス及びそれと組み合わされたポート番号

⑩ログイン時インターネット接続サービス利用者識別符号

⑪ログイン時SIM識別番号

⑫ログイン時SMS電話番号

⑬ログイン時のタイムスタンプ

⑭利用者管理符号

 

(6)発信者情報を開示関係役務提供者が保有していること

→開示関係役務提供者に発信者情報を保存する義務はないため、開示役務提供者が開示請求を受けた時点での保有している発信者情報に限られます。

 

(7)補充性の要件

上記(5)⑨~⑬の「特定発信者情報」の開示を求める場合には、補充性の要件(法5条1項3号イロハに規定されたいずれか)を満たす必要があります。

 

・当該特定電気通信役務提供者が当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報を保有していないと認めるとき(法5条1項3号イ)

→コンテンツプロバイダが、その権利侵害情報に関する特定発信者情報以外の発信者情報を保有していないときを意味します。

 

・当該電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報が次に掲げる発信者情報以外の発信者情報であって総務省令で定めるもののみであると認めるとき(法5条1項3号ロ)

(ⅰ)当該開示の請求に係る侵害情報の発信者の氏名及び住所

(ⅱ)当該権利の侵害に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報

→開示請求の請求先であるコンテンツプロバイダが総務省令4条(氏名または名称、住所、電話番号、電子メールアドレス、タイムスタンプ)で定める一部の発信者情報のみ保有していない場合にはこの要件を満たすことになります。

→例えば、投稿時のIPアドレスを保有していないコンテンツプロバイダが、アカウント情報として電話番号を保有している場合であっても、この要件を満たすとして、ログイン時のIPアドレスの開示請求をすることができます。

 

・当該開示の請求をする者がこの項の規定により開示を受けた発信者情報(特定発信者情報を除く。)によっては当該開示の請求に係る侵害情報の発信者を特定することができないと認めるとき(法5条1項3号ハ)

→特定発信者情報以外の発信者情報(上記(5)①~⑧と⑭)の開示を受けたが、発信者の特定をすることができない場合を意味します。

 

発信者情報開示請求の手続

以上の要件が具備され、発信者情報の開示を行う際の手続は、主に以下の4つとなります。

1 裁判外での請求

2 訴訟提起

3 仮処分の申立て

4 発信者情報開示命令の申立て

 

1 裁判外での請求

→一般的に金銭的・手続的に最も簡易で負担が少なく、迅速性は他の手続に比べ高いといえます。

→ただし、裁判外で開示が行われるケースはほぼありません。

その理由としては、弁護士経由で誹謗中傷が投稿されている掲示板(InstagramやFacebook、You Tube、X(旧Twitter)、Google)の海外サイト管理者などに連絡しても、裁判外での開示請求には基本的にはまず応じてもらえず、意味がないためです。

 

2 訴訟提起

→3の仮処分の申立てにおいては求められる保全の必要性は不要で、請求できる発信者の情報に制限はありません。

しかし、手続の進行が遅く、非常に時間がかかるため、投稿時のログが消失してしまうことになるため、いきなり訴訟提起しても発信者を特定するという目的が達せられないため、この方法は選択できません

更に、迅速性の面から言えば、後述する開示命令が創設されたことで、訴訟を選択するメリットはよりなくなったといえます。

3 仮処分の申立て

→一定の暫定的な権利関係を形成するものですので、訴訟と比べると、迅速に手続が進みますが、保全の必要性が求められます。

→仮処分を利用する場合には、氏名、住所、電話番号、メールアドレスについての開示を求めることはできず、コンテンツプロバイダに対してIPアドレスやスタンプについての開示を求めることになります。

→したがいまして、IPアドレスの開示を迅速に受けたい場合には選択肢となり得ます。

 

4 発信者情報開示命令の申立て

→令和3年改正により新設され、一体的な手続として、ア)発信者情報開示命令やイ)提供命令、ウ)消去禁止命令の手続をとることができます。

 

ア)発信者情報開示命令

→開示関係役務提供者(プロバイダ)に対して発信者情報の開示を命ずるもので、発信者情報開示請求の要件を満たす場合には、決定により開示命令を行うことができます。

 

イ)提供命令

→ⅰ)保有する発信者情報により特定される他の開示関係役務提供者(主にアクセスプロバイダ)の氏名または名称及び住所の情報を申立人に提供すること、ⅱ)申立人から、ⅰ)の他の開示関係役務提供者を相手方として開示命令の申立てをした旨の通知を受けた場合に、保有する発信者情報を当該他の開示関係役務提供者に提供する手続です。

→発信者情報開示請求の要件を満たすことは必要ありません。

 

ウ)消去禁止命令

→開示関係役務提供者に対して、開示命令の申立てに係る事件が終了するまでの間、その保有する発信者情報の消去禁止を命ずるものです。

 

最後に

近年のインターネット上での誹謗中傷により発信者情報開示請求権の行使の機会が多くなってきました。しかし、聞き慣れない言葉や難しい単語が並び、自力での対応は困難となる可能性があります。そのようなときは、弁護士によるサポートが必要不可欠ですので、誹謗中傷などでお困りの方は当事務所までご相談ください。

コラム一覧