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発信者情報開示命令手続の実務上の流れ(法改正後の新制度)

以前のコラム(ネットで誹謗中傷を受けた際の発信者情報開示命令が1つの裁判手続でも行えるようになりました。)で、プロバイダ責任制限法の改正により、発信者情報開示命令が新設され、一体的な手続が行えるようになったことはお伝えしました。

今回は、基本事件たる発信者情報開示命令とそれに付随する提供命令/消去禁止命令について、詳しく見ていこうと思います。

 

開示命令とは

開示命令とは、裁判所が、被害者の申立てにより、訴訟手続よりも簡易迅速とされる決定手続(非訟事件)で、相手方となる開示関係役務提供者に対し、発信者情報開示請求権(プロバイダ責任制限法5条1項及び2項)に基づき発信者情報の開示を命じるものです(法8条)。

→仮処分を行う場合と同じスピード感で、仮処分では保全の必要性の要件が必要ですが、開示命令はこの要件が必要ないので、保全の必要性がなかったために仮処分で請求できなかった発信者情報も開示請求することができます。

 

提供命令とは

提供命令とは、開示命令事件の審理中に発信者情報が消去されてしまい開示命令申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防ぐため、裁判所が、申立てにより、決定で、開示命令の申立ての相手方である開示関係役務提供者に対し、次の事項を命じることができます(法15条1項1号)。

①保有する発信者情報により他の開示関係役務提供者を特定することができる場合には、当該他の開示関係役務提供者の氏名又は名称及び住所を、申立人に対して、書面又は電気的方法により提供すること(法15条1項1号イ)

②保有する発信者情報によい、かかる特定をすることができない場合には、その旨を、申立人に対して、書面又は電磁的記録により提供すること(同号ロ)

③上記1号の他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた申立人から、当該他の開示関係役務提供者に対する開示命令の申立てをした旨の書面又は電磁的記録の方法による通知を受けた場合に、保有する発信者情報を当該他の開示関係役務提供者に対して提供すること(同項2号)

 

提供命令の具体例

例えば、インターネット上で誹謗中傷の被害を受けた被害者が、IPアドレスから投稿者(発信者)の氏名及び住所を特定し、慰謝料請求をしたいと考え、発信者情報開示命令申立を検討しているとします。

まずは、IPアドレスの開示を求めるためコンテンツプロバイダに対し、開示命令の申立を行うことになります。この段階では、開示を受けるまで投稿者(発信者)の氏名及び住所を保有するアクセスプロバイダについては明らかになりません。そうすると、開示命令が出される前にアクセスプロバイダの保存期間が経過してしまい、後に開示命令が出されても、それまでとなり投稿者(発信者)の氏名や住所を特定することができなくなります。

このようなことが起こらないために、開示命令が出されるよりも前の段階で、申立てにより、裁判所がコンテンツプロバイダに対して、①コンテンツプロバイダが保有するIPアドレスの発信者情報により他の開示関係役務提供者の氏名や住所の特定が可能な場合は、他の開示関係役務提供者の氏名や住所の情報を申立人に提供することを命じるとともに、②申立人から他の開示関係役務提供者に対する開示命令の申立てをした旨の書面又は電磁的方法により通知を受けた場合に、保有する発信者情報を他の開示関係役務提供者に対して提供することを命じることになります。

①の命令に基づいて、コンテンツプロバイダが保有しているIPアドレス等発信者情報をもとに、投稿を媒介したアクセスプロバイダを特定することができた場合には、コンテンツプロバイダは、申立人に対して、書面又は電磁的方法により提供します。

この提供命令により、申立人は、アクセスプロバイダに対して、投稿者(発信者)の氏名及び住所等の開示を求める開示命令の申立てを行い、申し立てた旨の書面又は電磁的方法による通知をコンテンツプロバイダに行います。この通知を受け、コンテンツプロバイダは、アクセスプロバイダに対して、コンテンツプロバイダが保有するIPアドレス等の発信者情報を書面又は電磁的方法により提供し、それをもとにアクセスプロバイダにおいて発信者情報を保有しているかの確認を行うことが可能となります。

アクセスプロバイダにおいて確認された場合は、申立人に対し、発信者の情報を開示し、申立人は、投稿者(発信者)に対して、慰謝料請求の手続をとることができるようになります。

 

提供命令の発令要件

提供命令発令のためには、①開示命令の申立てが裁判所に係属していること、②発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるとき、いわゆる保全の必要性、が要件とされています。

また申立人が特定発信者情報を含む発信者情報の開示を求めている場合(法5条1項3号)には、①と②に加えて、③補充性の要件が必要となります(法15条2項)。

 

①開示命令の申立てが裁判所に係属していること

→開示命令の申立てを行った後でも、同時に行っても、要件を満たします。

 

②保全の必要性

→具体例でも触れましたが、提供命令が速やかに発令されないと、発信者情報が消去され、特定ができなくなることを具体的に主張します。

 

③補充性の要件

→特定発信者情報(すなわち、ログイン型におけるログイン時等の通信(侵害関連通信)を含む発信者情報の開示を求める場合には、補充性の要件を満たすと認められる場合にのみ、提供命令が発令されます(法5条1項3号)。

補充性の要件は、侵害関連通信をたどらないと発信者を特定できない場合であることが必要です。具体的には、以下①から③のいずれかに該当することが必要になります。

①プロバイダが当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報を保有していないと認めるとき。
②プロバイダが保有する当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報が次に掲げる発信者情報以外の発信者情報であって総務省令で定めるもの(氏名または住所のどちらか一方、電話番号、メールアドレス、タイムスタンプ)のみであると認めるとき。
(1)当該開示の請求に係る侵害情報の発信者の氏名および住所
(2)当該権利の侵害に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報
③開示の請求をする者が法5条1項により開示を受けた発信者情報(特定発信者情報を除く)によっては当該開示の請求に係る侵害情報の発信者を特定することができないと認めるとき。

不服申立て

提供命令の申立てを認容する決定があった場合、この命令を受けた開示関係役務提供者は即時抗告をすることができます(法15条5項)。

 

消去禁止命令とは

消去禁止命令とは、開示命令事件の審理中に発信者情報が消去されることを防ぐため、裁判所が、申立てにより、開示命令事件が終了するまでの間、開示関係役務提供者が保有する発信者情報を消去することを禁止する旨を命じるものです(法16条1項)。

 

消去禁止命令の発令要件

消去禁止命令発令のためには、①開示命令の申立てが裁判所に係属していること、②発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるとき、いわゆる保全の必要性、③消去禁止命令先である開示関係役務提供者が消去禁止命令の対象となる発信者情報を保有していること、が要件とされています。

 

①開示命令の申立てが裁判所に係属していること

→開示命令の申立てを行った後でも、同時に行っても、要件を満たします。

 

②保全の必要性

→消去禁止命令が速やかに発令されないと、発信者情報が消去されて、発信者を特定することができなくなるおそれがあることを意味します。

 

③発信者情報の保有

→開示関係役務提供者が発信者情報を開示することについて権限を有することを意味します。

 

不服申立て

消去禁止命令の申立てを認容する決定があった場合、この命令を受けた開示関係役務提供者は即時抗告をすることができます(法16条3項)。

 

発信者情報消去禁止仮処分との相違

消去禁止命令と類似する手続として、発信者情報消去禁止仮処分があります。

発信者情報消去禁止仮処分は、保全の必要性が要件とされていたり、相手方が発信者情報を保有していること、消去禁止の効果を有する点などでは共通しています。

一方で、発信者情報消去禁止仮処分は、審理において相手方を呼び出して審尋したり、発令のための担保が必要であったりするなど、簡易性や迅速性、また申立人の負担の観点からすれば、消去禁止命令の方が利便性は高いといえます。

 

まとめ

ここまで令和3年改正により新設された発信者情報開示命令とそれに付随する提供命令、消去禁止命令についてご説明しました。

しかし、「言う易し、行うは難し」であることは間違いありませんので、発信者情報開示請求についてお困りの方やお悩みの方は、一人で悩まず、当事務所までお気軽にご相談ください。

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