COLUMN

コラム

性犯罪に関する規定が変わりました。

令和5年7月13日から、性犯罪に関する諸規定が変わり、同日施行されました。

今回は、不同意性交等罪不同意わいせつ罪について簡単に記したいと思います。

なお、性犯罪に関する規定が変わったことによる撮影罪(性的姿態等撮影罪)については、以前のコラムで紹介していますので、併せてご覧ください。

 

刑法改正の主なポイント

1 強制性交等罪は不同意性交等罪へ

2 性交同意年齢が16歳未満に引き上げ

3 公訴時効期間の延長

4 わいせつ目的での16歳未満の者への面会要求の罪の新設

 

1 強制性交等罪は不同意性交等罪へ

新設された理由

従来の強制性交等罪及び準強制性交等罪は、今回の刑法改正により、不同意性交等罪が新設され、不同意性交等罪へと名称などが変更されました。

今回新設された理由としては、強制性交等罪では処罰できないケースが多く存在したからです。後述しますが、強制性交等罪の構成要件は、暴行または脅迫によって性交等をしたことです。つまり、暴行または脅迫がないと強制性交等罪が成立しないことが問題でした。

なので、例えば、会社内での上下関係や監護者としての地位などの社会的地位を利用されて、被害者としては断れない性交だったとしても、そこに手段として暴行または脅迫がなければ、強制性交等罪が成立しないことになります。

こうした問題に対する指摘を受けて、構成要件を拡大した不同意性交等罪が新設されました。

 

不同意性交等罪と法定刑

刑法177条第1項は、「前条第1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部若しくは物を挿入する行為であってわいせつなものをした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、5年以上の有期拘禁刑に処する。」としています。

→つまり、不同意性交等罪とは、被害者が同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態で性交等を行う罪をいいます。

→法定刑は、5年以上の有期拘禁刑(2025年に施行見込みの刑法改正によって新設される刑の種類で、懲役と禁錮を一本化したもの)です。拘禁刑については見込みですので、それまでは懲役とみなされます

→また、「婚姻関係の有無にかかわらず」という明文があることから、配偶者間でも同罪が成立することになります

 

構成要件の拡大

従来の強制性交等罪の要件は、暴行又は脅迫によって性交等をすること、また準強制性交等罪のそれは、被害者が抗拒不能の状態にあったことによって正常な判断ができない状態を利用した性交等をすることなどでした。

不同意性交等罪の構成要件は、被害者が「同意しない意思を形成し、表明しもしくは全うすることが困難な状態にあること」です。

→つまり、被害者が抵抗できない状態で性交等をすること全般が新たに処罰対象とされることとなり、従前図り切れなかった被害者の保護がなされることに期待がされています。

 

問題点

不同意性交等罪は、被害者が抵抗できる状況にあったか否かが判断基準となりますので、性交等することに同意があったと思っていても、後から本当は同意していなかったという被害者からの申告があれば、加害者として罪に問われる可能性があります。

 

不同意性交等罪に問われる行為

刑法177条1項は、「前条第1項各号に掲げる行為又は事由・・・により」としているので、不同意性交等罪に問われる行為とは、176条第1項各号(不同意わいせつ罪)に掲げる行為となります。

① 暴行・脅迫を利用した性交等

② 心身の障害を利用した性交等

③ アルコール・薬物を利用した性交等

④ 睡眠その他意識不明瞭状態を利用した性交等

⑤ 同意しない意思の形成、表明、全うする暇がない状態

⑥ 予想と異なる事態に直面させて恐怖や驚愕させた性交等

⑦ 虐待に起因する心理的反応を用いた性交等

⑧ 経済的・社会的関係上の地位を利用した性交等

 

また、行為がわいせつなものではないと誤信をさせ、もしくは行為をする者について人違いをさせ、またはそれらの誤信もしくは人違いをしていることに乗じて、性交等をする場合も不同意性交等罪に問われます(刑法177条2項)。

 

2 性交同意年齢が16歳未満に引き上げ

改正刑法により、性交の同意年齢が13歳から16歳に引き上げられました。

16歳未満の者との性交等については、同意の有無に関係なく、処罰されます。

なお、13歳から15歳の場合は、5歳以上年上の相手に対して処罰対象となり、同世代間の行為(学生カップル同士の性交等)は罪に問われません(刑法177条3項)。

 

3 公訴時効期間の延長

今回の刑法改正に伴い、刑事訴訟法も改正され、不同意性交等罪の公訴時効は15年(改正前は10年)となりました(刑事訴訟法250条3項2号)。

なお、被害者が18歳未満の場合は、犯罪が終わったときから18歳になるまでの期間が時効期間に加算され、延長されます

 

 

4 わいせつ目的での16歳未満の者への面会要求

16歳未満の者に対して、わいせつの目的で、面会を要求することや、面会することを犯罪として処罰する規定が新設されました(刑法182条)。

 

具体的な面会要求等行為

具体的に問われる行為は、以下の通りです(刑法182条)。

(1)威迫し、偽計を用い又は誘惑して面会を要求すること(同条1項1号)

(2)拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求すること(同項2号)

(3)金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求すること(同項3号)

(4)(1)~(3)の罪を犯し、わいせつ目的で面会する行為(同条2項)

(5)性交等する姿態、性的部位を露出等した姿態等を撮って、その映像を送信することを要求すること(同条3項)

 

法定刑と公訴時効

(1)~(3)の場合、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金

(4)の場合、2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金

(5)の場合、1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金

→拘禁刑については見込みですので、それまでは懲役とみなされます

公訴期間は3年です。

 

不同意わいせつ罪

今回の刑法改正により、強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪が統合され、不同意わいせつ罪が新設されました。

改正の内容は、不同意性交等罪とほとんど同じですので、簡単に記したいと思います。

不同意わいせつ罪とは

不同意わいせつ罪とは、被害者が同意しない意思を形成、表明、全うすることが難しい状態でわいせつな行為を行う罪をいいます(刑法176条)。

→例えば、被害者が同意していない状況で、抱きつく、キスをするなどの行為は不同意わいせつ罪にあたります。

→不同意わいせつ罪に問われる行為については、不同意性交等罪で挙げた例と同じになります。

 

法定刑と公訴時効

不同意わいせつ罪を犯すと、6か月以上10年以下の拘禁刑となります。

→拘禁刑については見込みですので、それまでは懲役とみなされます

公訴時効は12年(改正前は7年)となりました(刑事訴訟法250条3項3号)。

 

不同意わいせつ等致死傷罪

不同意わいせつ罪又はこの罪の未遂罪を犯し、人を死傷させた者は、無期又は3年以上の懲役が科せられます(刑法181条1項)。

また不同意性交等罪又はこの罪の未遂罪を犯し、人を死傷させた者は、無期又は6年以上の懲役が科せられます(同条2項)。

 

最後に

問題点でも挙げましたが、相手が後から合意していなかったと言い出すことがあります。当事務所でも過去に多数扱っておりますが、性交時には合意があったのに、あとになって金銭目当てで旧強姦罪や旧強制性交罪での被害届を出され、警察から呼び出される事案は実際に数多く存在します。

性交等の同意の有無については、多くの場合は口頭によるもので、かつ、性交渉は密室で二人きりで行われることが通常であるため、明確な証拠が残っているケースの方が少ないです。不同意性交等罪で逮捕された場合は、法定刑が重く、証拠隠滅の可能性も認められることから、基本的には勾留される可能性が高いといえます。

このようなときは、初動が極めて大事となります。被害者への謝罪や示談交渉などは性犯罪という性質上、弁護士を窓口とする以外に、実現することはほぼ不可能です(実際、示談交渉を行いたい場合、警察や検察官から被疑者本人に対しては、「示談交渉をしたいのであれば弁護人をつけるように」と言われることが多いです)。

不同意性交等罪を犯してしまった方、ご家族が性犯罪で逮捕されたなどでお困りの方は当事務所までご相談ください。

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