改正消費者契約法のポイント
はじめに
令和5年6月1日、改正消費者契約法が公布され、同日施行されました。
改正前では対応しきれなかった消費者問題についても今回の改正で対応しているところがありますので、改正のポイントを中心に記したいと思います。
消費者契約法と民法
消費者契約法とは、消費者と事業者の間で締結される消費者契約について、消費者を保護するためのルールを定めた法律です。
民法との関係
消費者契約法は、民法の特別法と位置付けられていますので、消費者契約法の規定が優先的に適用されます。
ポイント1:取消権の追加(消費者契約法4条)
(1)改正前の取消事由
改正前の消費者契約法では、以下に挙げる事由がある場合には、契約の取消しが認められていました(法4条1項から3項)。
・重要事実の不実告知
・不確実な事項に関する断定的判断の提供
・不利益事実の不告知
・過量契約
・不退去
・退去妨害
・経験不足による不安をあおる告知
・デート商法
・判断能力の低下による不安をあおる告知
・霊感商法
・契約締結前にサービスを提供して、損失補償を請求する
(2)改正による追加事由
改正により以下に挙げる事由が新たに追加されました。
①勧誘することを告げずに退去困難な場所へ同行し勧誘
「当該消費者に対し、当該消費者契約の締結について勧誘をすることを告げずに、当該消費者が任意に退去することが困難な場所であることを知りながら、当該消費者をその場所に同行し、その場所において当該消費者契約の締結について勧誘をすること」(法4条3項3号)
→例えば、消費者を遠方まで連れていき、帰りの交通手段をなくし、契約の勧誘をすることなどです。
②威迫する言動を交え、相談の連絡を妨害
「当該消費者が当該消費者契約の締結について勧誘を受けている場所において、当該消費者が当該消費者契約を締結するか否かについて相談を行うために電話その他の内閣府令で定める方法によって当該事業者以外の者と連絡する旨の意思を示したにもかかわらず、威迫する言動を交えて、当該消費者が当該方法によって連絡することを妨げること」(法4条3項4号)
→例えば、学生が親に相談したいと言ったのに、事業者が自分で決めないとダメだなどと言って相談を妨害することなどです。
③契約前に目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難にする
「当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に、当該消費者契約を締結したならば負うこととなる義務の内容の全部若しくは一部を実施し、又は当該消費者契約の目的物の現状を変更し、その実施又は変更前の原状の回復を著しく困難にすること」(法4条3項9号)
→例えば、注文をする前に、元に戻せない状態にして、契約の勧誘をした場合などです。
(3)取消権の行使期間
取消権の行使には期間制限があります。
・契約を追認することができる時(消費者が誤認していたことに気付いた時や取消しの原因となっていた状況が消滅した時)から1年間(霊感商法の場合は3年間)
・契約締結の時から5年間(霊感商法の場合は10年間)
ポイント2:免責の範囲が不明確な条項の無効
損害賠償責任の一部を免除する契約条項については、事業者が軽過失の場合に限り有効であることを明確に記載することが求められています。
→その他、事業者は責任を負わないとする条項や、消費者はいかなる理由でもキャンセルできないとする条項、成年後見制度を利用した場合の契約解除条項、消費者の利益を一方的に害する条項、平均的な損害額を超える解約料や年14.6%を超える遅延損害金に関しての超える部分についての条項は、従来通り無効となります。
ポイント3:解約料説明の努力義務
改正前の消費者契約法には、消費者側において、違約金(解約料)が高額すぎるのか妥当であるのか判断ができず、消費者が事業者に対しその説明を求める規定がありませんでした。
→改正により、事業者は、解約料を請求する際に消費者から求められたら、その算定根拠の概要を説明するよう努めなければなりません(法9条2項)。
ポイント4:事業者の努力義務の拡充
①勧誘時の情報提供(法3条1項2号)
→具体的には、事業者は、勧誘に際しては、契約の目的物の性質に応じ、消費者の年齢、心身の状態、知識及び経験を総合的に考慮した上で、消費者契約の内容について必要な情報を提供するよう努めなければなりません。
②定型約款の表示請求権に関する情報提供(法3条1項3号)
→事業者は、消費者が定型約款の表示請求権を行使するために必要な情報を提供するよう努めなければなりません(消費者が定型約款の内容を容易に知り得る状態にする措置を講じているときは除く。)。
③解除権の行使に関する情報提供(法3条1項4号)
→事業者は、消費者からの求めに応じて、解除権行使に必要な情報を提供するよう努めなければなりません。
④適格消費者団体からの要請に対応(法12条の3~5)
具体的には、事業者は、適格消費者団体から、契約条項の開示、解約料の算定根拠の説明、差止請求を受けて行った措置の内容の説明を要請されたときは、これに応じるよう努めなければなりません。
→これらの義務は、事業者の努力義務であるため、違反したとしても罰則などはありません。しかし、事業者としては、コンプライアンスの観点から、最大限遵守するよう努めることが求められます。
最後に
今回の改正消費者契約法の内容は、消費者の皆さんにぜひ押さえてほしい内容となっています。
一方で、事業者からすると、努力義務とはいえ、より一層のコンプライアンス強化に取り組むなどの対応が求められてきます。
当事務所では、消費者・事業者からのご相談を承っておりますので、広く消費者問題にお困りの方はお気軽に当事務所までご相談ください。