客引きをすると違法?~刑事処分だけでなく行政処分も~
目次
繁華街などを歩いていると、お店の従業員らしき人から「居酒屋いかがですか。」と声を掛けられます。多くの方は声を掛けられても、やり過ごすことがほとんどだと思います。
声を掛けてお客をお店に誘う、いわゆる客引きやキャッチは、都道府県の条例違反や風営法違反になる可能性があります。
客引き行為に関しては、された側(お客)には特に罰則などはありませんが、トラブルに巻き込まれないためにも、客引きについていかないことが重要です。
他方、客引き行為をした者には迷惑防止条例や風営法で罰則が設けられています。さらに刑事上の責任だけではなく、行政処分が下される可能性もありますので、客引きをした側(店舗も含む)を対象とする罰則や行政処分について、簡単にご紹介したいと思います。
客引き(いわゆるキャッチ)とは
客引きに関する法規制は、風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)と東京都であれば迷惑防止条例、新宿区であれば客引き等防止条例がありますので、まずはそれぞれ簡単に記します。
風営法による「客引き」行為とはどのような行為か
不特定の者(通行人など)の中から、相手方を特定して、営業所の客になるよう勧誘することをいいます。
条例による客引き
東京都の場合、何人も、公共の場所において、不特定の者に対し、異性による接待をして酒類を伴う飲食をさせる行為の提供について客引きをすることや、つきまとうなどして執拗に客引きをすることが禁止されています(東京都迷惑防止条例7条各号)。
さらに、地方自治体たる都道府県の他、市町村も条例を制定することができますので、新宿区の場合、酒類を伴う飲食をさせる行為の提供行為や人の性的好奇心に応じて人に接する役務に従事するよう勧誘する行為などは客引き行為とされています(新宿区客引き等防止条例2条)。
風営法と条例の関係など
以下では、特別な記載がない限り、便宜上、東京都の迷惑防止条例と新宿区の客引き等防止条例をまとめて条例と記載します。
風営法と条例の関係
一般的に、国の法秩序は、憲法を頂点として、法律、命令、条例という階層構造となっています。
したがいまして、条例は、形式的効力において、憲法、法律、命令に劣後します(法律のほうが条例よりも効力が強いということ)。
警察は、客引き行為が、風営法と条例のどちらからみても違反と判断した場合は、両方の罪が成立しますが、大体はより重い処罰である風営法違反として逮捕することになります。
風営法では、客引きの主体が風俗営業者やその従業員とされている一方(風営法22条)、場所や態様などについてに関する具体的規定はありません。そこで、風営法は、同法だけでは対処しきれない客引きに関して、条例において、これら具体的規定の制定を委任しています(風営法21条など)。
風営法の委任を受けて制定された条例は、客引きについて、「何人も」や「公共の場所」、「不特定の者に対し」、「執拗に」などより具体的に例示しています(東京都迷惑防止条例7条、新宿区客引き等防止条例2条)。
東京都の迷惑防止条例と新宿区の客引き等防止条例の関係
詳細は行政法または地方自治法に譲りますが、どちらにせよ、都道府県と市町村(特別区)は原則として相互に独立対等な関係にあり、上下の関係にはありません。
つまり、改めて客引きとは、相手を特定して自店の客になるよう勧誘することをいいます。その態様が「不特定の者に対する執拗なもの」であれば条例違反になり得ます。
風営法や条例に反する客引きを行った場合、基本的には現行犯逮捕されることが多いです(女性の私服警官が客のふりをして執拗に声を掛けられたところを逮捕したり、適法な案内所経由でないキャッチをマークして店舗へ連れて行ったところを逮捕するなどのケースが見られます)。 繰り返しになりますが、警察は、より重い処罰で逮捕しようとします。
客引きとなり得るケースとならないケース
では、具体的に客引きとなり得る行為について説明します。
客引きとなり得るケース
風営法では、客引きをすることや客引きをするために公共の場所で立ちふさがったり、つきまとったりする行為は、禁止されています。
東京都新宿区の場合、わいせつ行為、売春類似行為、異性による接待と酒類を提供する行為、風俗・キャバクラへのスカウト行為、AV等撮影スカウトなどは禁止されています。
→例えば、無視して通過した通行人の前に立ちふさがったり、通行人が足を止めないのにそれについて行って歩きながら話しかけ、執拗に「居酒屋いかがでしょうか。」とする行為は客引き行為となります。
客引き行為とされないケース
店舗前での呼び込み
例えば、店舗前に立って大声で、「いらっしゃいませ!」と不特定の通行人に対して呼び込む行為は、迷惑防止条例や風営法の客引き行為とは言いにくいです。
ただし、最初は不特定の通行人に対してであっても、次第に特定の通行人を呼び止めたりする行為は客引きとなる可能性があります。
案内所の利用
ホストクラブやキャバクラの店舗が風俗案内所(いわゆる「無料案内所」)で広告を掲載することは、客引き行為とされません。
風営法違反の刑事処分と行政処分
風営法に違反すると、刑事処分だけでなく、行政処分を受ける可能性もあります。
風営法違反の刑事処分
2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金、又はこの両方
以下に該当する場合は、上記刑事処分を受ける可能性があります。
・都道府県公安委員会の許可なく風俗営業を行うこと (いわゆる無許可営業)
・偽りその他不正な手段により無許可営業、営業許可の相続、法人の合併・分割の承認を受けた者
・名義貸し(自己名義をもって他人に営業をさせること)による営業 など
上記処分は風営法の刑事処分の中で最も重い処分となっています。
許可なく営業をすることや名義貸しは実際に多いですし、警察にも狙われやすいので、注意が必要です。
1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、又はこの両方
以下に該当する場合は、上記刑事処分を受ける可能性があります。
・18歳未満の者に客の接待をさせた
・18歳未満の者を客として入店させた
・20歳未満に酒類やたばこを提供した など
6月以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、又はこの両方
以下に該当する場合は、上記刑事処分を受ける可能性があります。
・客引きをした
・届出なく性風俗を営業した など
客引き行為は、通行人に対して不安や身の危険を感じさせたり、治安の悪化などの悪影響の観点から禁止されているため、軽く見るべきではありません。
100万円以下の罰金
以下に該当する場合は、上記刑事処分を受ける可能性があります。
・警察の立ち入り時に資料提出に応じなかった
・警察に対して虚偽の申告をした
・警察の立ち入りを拒んだ など
50万円以下の罰金
・許可申請書類に虚偽の記載があった
・変更事由が生じたのに、その旨の届出をしなかった など
30万円以下の罰金
・営業許可証を営業所内の見えるところに掲示していない
・営業許可証を返納しなかった など
風営法違反の行政処分
許可取消し
以下に該当する場合は、営業許可の取消処分を受ける可能性があります。
・名義貸し
・18歳未満の者に客を接待させた
・営業停止命令に違反して営業を継続した など
風営法の行政処分の中では最も重い処分です。
名義貸しや18歳未満の者による客の接待は、刑事処分でも出てきましたが、刑事処分は刑事処分、行政処分は行政処分ですので、両者は別物と考えておいたほうが良いでしょう。
よって、例えば、名義貸しを行ってしまった場合は、刑事上の処分として「2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金、又はこの両方」を受けるとともに、行政上の処分として「営業許可の取消し」という両方の処分を受ける可能性があります。
通常であれば、指示処分が行われても改善されない場合や特定の罪を犯し、有罪判決を受け、刑の執行終了後5年が経過していない場合に許可の取消しが行われますが、「許可の取消し」の処分基準として、警視庁が定めた処分基準別表のうち量定区分(警視庁ホームページより:2_seian_062.pdf (tokyo.lg.jp) )があります。このうち、量定Aであれば、指示処分を経ることなく、直ちに許可取消処分(つまり一発アウト)となる可能性が高いです。量刑Aの例として、名義貸しや無許可風俗営業、年少者接待・接客業務従事禁止があります。
ちなみに、許可取消処分を受け、不服がある場合には、行政上の不服申立てを行うことができます。
営業停止
以下に該当する場合は、営業許可の取消処分を受ける可能性があります。違反行為によって、営業停止期間に違いがあります。
期間:40日以上6ヶ月以下
・偽りその他不正な手段で営業許可を取得したこと
・客引き行為
・18歳未満の者を客として入店させた など
最も多いケースとしては、やはり客引きです。客引きをしただけで、最長6ヶ月の営業停止処分を受けることになりその期間は一切の営業が出来ませんので、資金がショートしてお店の存続自体ができなくなることが多いです。
期間:20日以上6ヶ月以下
・営業時間を守らずに営業をした
・営業許可申請書に虚偽の記載があった
こうしたケースも少なくありません。ナイトクラブやスポーツバーなどは深夜(0時から6時)に営業することはできませんので、注意が必要です。
その他に、警察による立ち入りを拒んだ場合は10日以上80日以下の営業停止などもあります。
指示処分
以下に該当する場合は、指示処分を受ける可能性があります。
・営業許可証を営業所内の見える場所に掲示していなかった
・従業員名簿を備えていない
・18歳未満の者の店への立ち入りを禁止する旨の表示をしていない
こうした違反行為に対しては、基本的に注意に留まりますが、注意に従わなかった場合は営業停止処分や許可取消処分となる可能性もありますので、注意が必要です。
東京都の迷惑防止条例違反
客引きを行った者に対する罰則は、50万円以下の罰金または拘留もしくは科料です。また客引きをさせた店に対する罰則は、100万円以下の罰金となります。
新宿区の客引き等防止条例
客引き等行った者が、区長からの指導や警告、勧告に従わない場合や職員による立ち入り調査を拒んだ場合などは5万円以下の過料に処せられます。
客引き行為で逮捕された場合
客引き行為に対する警察の取り締まりは、不定期に反復継続して行われます。そのため、私服警察官がおとりになる場合は、現行犯逮捕されます。
また組織的に客引き行為を行ったお店側の人間も逮捕される可能性はあります。
いずれにしましても、逮捕された場合は、直ちに弁護士に相談すべきです。
客引き行為当時の状況などから早期釈放を目指せる場合も十分あります。
まとめ
売掛金問題をはじめとする風俗トラブルは多くなっています。こうした風俗トラブルによる刑事事件は、初動スピードが何より肝心です。
客引き行為や売掛金問題など風俗トラブルでお悩みの方は、お気軽に当事務所までご相談ください。