ぼったくり防止条例~被害者と加害者の立場から
例えば、客引きの案内とは違う高額な料金を請求された、マッチングアプリで知り合った女性に連れられて飲みに行ったら高額な料金を取られた、こうした思いもよらない法外な金額を不意打ち的に請求されたら、それはぼったくりです。
今回は、ぼったくりの概要から、被害に遭った時、他方逮捕された時の対応について、簡単に紹介したいと思います。
ぼったくり防止条例(東京都の場合)とは
正式には、性風俗営業等に係る不当な勧誘、料金の取立て等の規制に関する条例という名称で、通称ぼったくり防止条例と呼ばれています。
文字通り、性風俗営業での不当な勧誘や料金の取立て(いわゆるぼったくり)などを禁止しています。
禁止行為
東京都のぼったくり防止条例は、指定区域で性風俗営業を行う者に対し、以下の行為を禁止しています。
(※指定区域とは、東京都公安委員会が指定する区域のことで、新宿区歌舞伎町一丁目、同二丁目や豊島区池袋一丁目、同二丁目、渋谷区道玄坂一丁目、同二丁目などが指定されています。
新宿駅や池袋駅、渋谷駅という大きな駅の中でも、特に性風俗店の多い場所がピンポイントで指定区域として対象とされていることがわかります。)
不当な客引きをした者その他の者から紹介を受けて、客引きを受けた者を客として営業所内に立ち入らせること
→ぼったくりの端緒ともいえる行為です。例えば、繁華街を歩いている通行人に対して、「おっぱいパブどうですか」と声を掛け、無視しても横に付いてきて「30分だけでも!」等と執拗に声を掛ける行為等が該当します。
性風俗関連営業のため、場所を提供すること
料金や違約金を客に見えやすいように表示しないこと
→そもそもメニュー表が卓上に用意されておらず、会計時になって数十万という金額を言われ、「メニュー表にも書いてあるじゃないですか。」と請求段階になって初めて奥からメニュー表を出して見せてくるようなケースが多いです。
料金が実際よりも著しく低いと誤認させるようなことを告げたり、表示したりすること
→簡単に言えば、店舗が提示した料金と、実際の料金が異なってはいけないことをいいます。
「30分飲み放題で3000円ぽっきり」と客引きには説明を受けたのに、会計時になって席料金やチャージ料・サービス料・祝日料金や深夜料金などとして一人当たり数千円程度かさましされていたりであるとか、「飲み放題の対象はビールだけで他の飲み物は別料金」等と後になって言われる場合も多いです。
客に対し、粗野若しくは乱暴な言動で、料金を取り立てること
→典型的な例としては、支払を拒否したら、店舗奥から、強面のスタッフが出てきて、「払わないと帰さないぞ。」など脅迫する行為です。
このうち「客引き」については、風営法違反や東京都の迷惑防止条例、新宿区の客引き等防止条例に規定があります。詳しくは、客引きをすると違法?~刑事処分だけでなく行政処分も~をご覧ください。
罰則
ぼったくり防止条例に違反した場合、刑事処分だけでなく、行政処分を受けることもあります。両処分は、別物として考えるべきで、軽くみるべきではありません。
ぼったくり防止条例違反の行政処分
ぼったくり防止条例に違反すると、行政処分では、軽いものであれば指示処分で済みますが、重いものとなると営業停止処分となる可能性があります。
指示処分
以下に該当する場合は、再発防止のための指示処分を受ける可能性があります。指示処分に従わないでいると、営業停止処分となり得ます。
①客引き又はピンクビラ(主に性風俗関連のチラシ)等配布行為をしたとき
②前掲禁止行為の規定に違反したとき
営業停止処分
(1)以下に該当する場合は、6月を超えない範囲内で、営業停止処分を受ける可能性があります。
ア 客引き行為に対する指示処分に従わなかったとき
イ 性風俗営業者又はその従業員が、客引き又はピンクビラ等配布行為をしたとき など
(2)以下に該当する場合は、8月を超えない範囲内で、営業停止処分を受ける可能性があります。
ア 禁止行為に掲げる行為をしたとする指示処分に従わなかったとき
イ 後掲の刑事処分に当たる違法な行為をしたとき
ウ 詐欺罪など刑法に規定する罪に当たる行為をしたとき など
ぼったくり防止条例違反の刑事処分
違反行為によって、刑事処分の内容に違いがあります。
1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
営業停止処分のうち、禁止行為があったため指示処分をしたにもかかわらず、それに従わなかったり、詐欺罪などの刑法に規定する罪を犯した場合は、上記刑事処分を受ける可能性があります。
6月以下の懲役又は50万円以下の罰金
客引き行為に対する指示処分に従わなかったり、料金が実際よりも著しく低いと誤認させるようなことを告げたり、客に対して粗暴な言動で料金を取り立てたときは、上記刑事処分を受ける可能性があります。
50万円以下の罰金
不当な客引きをした者その他の者から紹介を受けて、客引きを受けた者を客として営業所内に立ち入らせたときは、上記刑事処分を受ける可能性があります。
その他、標章の破壊又は汚損、資料等提出の拒否、虚偽の報告などは20万円以下の罰金となります。
両罰規定
法人の代表者又はその従業員が、刑事処分に当たる行為をしたときは、行為者のみならず、法人も同様の罰金が科せられます。
ぼったくり被害に遭わないために
客引きをされても、相手にしない又は断る
客引きをされても、通り過ぎるなり、断りを入れるなどすることは、被害を未然に防ぐために最も有効です。絶対についていかないことが肝要です。
警察に連絡する
ぼったくりについては、例えば、「事前に料金システムを説明した」と主張する店舗側と、「聞いていない。」と主張する客側で、言った言わないのトラブルになりがちです。暴力を振るわれたり、襟首を掴まれたり大声で恫喝されている場合には、迷わず警察に連絡しましょう。その際には店内の様子ややり取りなどできるだけ証拠を集めておきましょう。
暴力がないにせよ、後日の証拠として残すため、警察へは必ず連絡して被害申告し、後日の訴訟の為の証拠づくりを行って下さい(民事訴訟に発展した場合にも、証拠として裁判所に提出します)。
・弁護士に連絡する
警察を呼んでも警察が民事不介入といって取り合ってくれなかったりする場合も多く見られ、最近では交番の前まで店の従業員が付いてきて、払うまで帰ってくれずにその場で支払うよう求められて埒が明かない状況になってお電話してこられる方も多いです。
時間の都合がつけば、弁護士がすぐに駆け付けます。
ぼったくり被害に遭ったら、支払った料金は取り戻せるのか
ぼったくり被害にあったらまずは警察に相談し、被害届の提出を検討しましょう。
警察が捜査し、条例違反と判断されれば、刑事責任を負わせることはできます。弁護士に依頼して、刑事告訴を行うことも可能です。
しかし、警察は民事不介入ですので、警察に被害届を出したから、あるいは相手が逮捕されたからといって、支払ったお金を回収できるわけではありません。
ぼったくりに関しては、原則として、店舗に対する支払義務はありませんが、カード会社からすると、状況がわかりませんので、暗証番号を自ら入力して決済行為を行っている以上、カード会社からは請求が来るのが通常です。
(クレジットカード会社に連絡して、支払停止の抗弁をとれる場合もありますが、基本的には支払回数などの点で要件を満たさず、抗弁が立たないことが多いです。)。
しかし、まずはカード会社から本人への請求を止めるべく、弁護士や消費者センター経由でカード会社と支払猶予の交渉を行います。
支払を猶予してもらうことができたら、猶予期間内に店舗から支払った料金を回収することになりますが、交渉で返金に応じない場合は、不当な利得であるとして返還請求を行う民事訴訟を提起することになります。
その際には、警察に対して風営法上の届出に関する登録情報の開示請求を行いつつ、カード会社からぼったくり店舗の情報(店舗運営者や法人であれば代表者名など)の開示を行い、どこの誰に訴訟を起こしたらよいかを把握していくことになります。
具体的な手続については、詳細な状況を踏まえて、弁護士に相談することをお勧めします。
客引きに関連して逮捕された場合
ぼったくり防止条例の中に、客引きが取り上げられています。つまり、ぼったくりと客引きは連動しているといえます。
もしご自身や従業員が客引きをしたとして逮捕された場合には、直ちに弁護士に相談し、理由が、風営法違反なのか、都道府県の迷惑防止条例なのか、東京都のぼったくり防止条例なのか、新宿区の客引き等防止条例なのか、速やかに把握しましょう。
早期に把握することで、釈放を目指す弁護活動を行うことができます。
まとめ
客引きと関連したぼったくり条例についてご紹介しました。
ぼったくり被害に遭わない対応をすることはもちろん大事ですが、被害に遭った場合は、警察や弁護士、消費者センターに相談するなどの対応をしましょう。
刑事告訴や被害金の回収について希望される場合は、当事務所までご相談ください。適切なアドバイスを行い、被害回復を図れるようサポートします。
他方、条例違反で逮捕された場合は、速やかな弁護活動を行うことができますので、当事務所までご相談ください。