略式手続~略式起訴から略式命令まで~
日本では、刑事裁判の迅速化のため、一定の条件を満たした場合、正式な裁判手続によらない略式手続で審理する方法が認められています。
正式な裁判手続では審理が長引けば長引くほど、被告人やその家族は精神的負担を強いることになります。他方、略式手続は、早期釈放や精神的負担は軽減されますが、検察官から略式起訴について同意を求められたときに、これに応じた方がよいのでしょうか。
この記事では、略式手続の概要から略式起訴に応じるメリットとデメリットをお伝えしたいと思います。 |
略式起訴とは
通常の起訴手続を簡略化し、略式手続のみで裁判を終わらせる方法をいいます(なので、正式裁判にはなりません)。
通常刑事裁判は、検察官が裁判所に判決を求める起訴をして、裁判所が最終的に判決を下しますが、略式手続では、裁判は開かれず、捜査機関の捜査結果によって罰金もしくは科料を決定します。そのため、被告人が自分の主張をする場はありません。
略式命令によって、納める金額、時期、場所を指定されるため、指定通りに納めれば刑の執行は終了します。
東京地検の場合は略式命令が届いてから約1週間後に納付用紙が届き、約2週間後の支払期限です。 |
略式起訴の要件
警察からの送検後、検察官は取調べの結果、以下の要件にあてはまると判断した場合は、被疑者に略式起訴について説明のうえ、被疑者から同意書をもらい、簡易裁判所に略式起訴をします。
1 管轄が簡易裁判所であること
通常の正式な裁判では、地方裁判所で行われます。他方、罰金や科料に相当する犯罪については簡易裁判所が管轄となります。
2 100万円以下の罰金・科料の事件であること
略式手続は、専ら軽微な犯罪である場合のみしか利用されませんので、殺人罪や強盗罪が略式手続にはなじまないことは想像できると思います。
また被害が大きく懲役刑が相当と判断された場合も略式手続を採ることはできません。
一般的に、略式起訴の対象となることが多い犯罪は、道路交通法違反や被害の軽い傷害罪、軽微な迷惑防止条例違反などです。
3 略式起訴について被疑者の異議がないこと
通常の正式な裁判では、被疑者に同意の有無は聞かれませんが、略式起訴については被疑者に説明し、同意を得て、被疑者が同意書に署名押印しなければなりません。
もし、略式起訴について説明をしていなかった、同意書が添付されていなかったなどの場合は、職権により通常の正式な裁判に移行することになります。
略式起訴によって前科がつく?
略式起訴によって、罰金刑が確定した場合は、前科がつきます。
指示通り罰金を納めなかったら
略式命令に背いて、支払わなかった場合、刑事施設内の労役場で強制的に労働に服することになります(刑法18条)。
支払えなかった場合の労役期間は、略式命令と同時に伝えられます。
例えば、主文が「被告人を罰金50万円に処する。この罰金を完納できないときは、金5000円を1日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。」の場合、労役場での労働日数は、罰金50万円を1日当たり5000円で計算した100日の労役が必要です。
ちなみに、100日に土日は含まれませんので、この場合、4か月以上労役場に収容されることになります。 |
略式命令に不服があったら
略式命令によって納める金額が言い渡されたものの、不服である場合、略式命令を受けた日から14日以内に正式な裁判を受けることを請求することができます(刑事訴訟法465条)。
略式起訴に応じるメリットとデメリット
メリット
略式起訴の場合、起訴した時点で身柄拘束から解放されます。家族に多くの心配をかけることはなく、もちろん会社にも行けますので、懲戒解雇などの不安も減ります。
また、略式手続は、捜査機関の捜査結果資料のみで審理が行われるので、正式裁判への労力や精神的負担が軽減されます。
デメリット
略式起訴に同意するということは、罪を認めることになりますので、前科がつきます。
またメリットと捉えるかは人それぞれですが、略式手続は非公開の審理で進められますので、公開の場で審理してもらいたいと考えているのであれば、非公開の審理はデメリットといえます。
略式起訴に応じるかは弁護士に相談を
略式起訴は、早期の身柄解放が大きなメリットではありますが、それを考えるのは罪を認めており、早く手続を終わらせたいときだけです。
もし罪を認めず、争いたいのであれば、略式起訴には同意しないようにしなければいけません。略式命令が出された後に、正式裁判の請求を行うことはできますが、期間内に申し立てなければいけないことを考えると、初めから同意しない方が賢明でしょう。
今後の刑事手続が略式手続になるのか、略式起訴に応じるべきかは、ケースバイケースになりますので、まずは逮捕された場合は、速やかに弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談することで、取調べへの対応や今後の見込みなどその時の状況に応じた適切なアドバイスを行うことができます。
また略式命令によって前科がつくことを避けるためには、早めに示談を成立させ、不起訴処分を目指すことが重要です。そのためにも、早めの弁護活動がカギとなりますので、当事務所までお早めにご相談ください。