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債権回収率を高めるため契約条項の重要性

Q この度、新たな会社と新規取引を行うことになり、契約書を作成しようと思います。

新規取引なので、万が一に備えた契約内容にしたいのですが、具体的にどのような契約文言があれば大丈夫でしょうか。

 

A 今後も反復継続して取引を行うことも視野に入れて、個々の取引に対し共通して適用される基本契約書を作成したほうがよいでしょう。一般的に、基本契約書には、自分の債権の保全や回収を行う上で、期限の利益喪失解除といった条項が重要となります。

企業間取引の場合は、後日の紛争防止の観点から、トラブルが生じた場合の対応を明確にしておくのが望ましいです。

 

契約条項の重要性

契約書はインターネット上で様々な契約形態に対応したひな形が多くありますが、これらを安易に利用すると、実際の取引内容と齟齬が生じたり、条項によっては自分に不利なものがあり、債権を回収することができないといった不都合が生じるケースがあります。

不動産賃貸借、売買契約、金銭貸借、業務委託、雇用、工事請負などの契約書と言っても、数多くの契約形態や取引内容があるように、万が一に備えて、債権回収を高めるために契約内容もそれに応じたものにする必要があります

 

この記事では担保の取消しから返還までについて、東京地裁での手続を参考に、簡単にご紹介いたします。

 

この記事では、債権回収率を高めるための一般的な契約条項を概括的にご紹介します。

 

期限の利益喪失条項

期限の利益とは、支払期限がくるまでは支払わなくてよいとする債務者の利益をいいます。

支払方法が分割の場合、債務者が支払いを怠ったとき、すでに支払期限が到来している金額分しか請求できないのが原則です。

例えば、「債務者が1回でも支払いを怠ったときは、期限の利益を失い、直ちに債務の残額を一括払いしなければいけない」という条項を定めておけば、債権者は、債務者の支払遅延が一度でも生じた場合には、直ちに債権全額の回収に着手することができます。

実務上、期限の利益喪失条項は、一定の事実が発生した場合に当然に期限の利益を喪失する条項(当然喪失条項)と、債権者が請求したことにより期限の利益を喪失する条項(請求喪失条項)があります。

一定の事実については、典型例として、

・債務者が個別契約に基づく商品の代金の支払いを遅滞したとき

・債務者に対して、競売、差押え、仮差押え、又は仮処分の申立てがなされたとき

・破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始申立又は特別清算開始申立があったとき

・債務者の信用及び資力が悪化したと認められるとき などがあります。

 

 条項例
「次の各号の一に該当する事由が生じた場合には、相手方からの催告等がなくても、相手方に対する一切の債務について当然期限の利益を失い、直ちに債務を弁済しなければならない。(以下、略)」

「次の各号一に該当する事由が生じた場合には、相手方の請求により、相手方に対する一切の債務について期限の利益を失い、直ちに債務を弁済しなければならない。(以下、略)」

 

解除条項

債務者に契約違反となるような行為があったとき、原則として、催告をした後でないと契約を解除することはできません。

ただ、催告がなくても、例えば、「債務者に契約違反があったときは、催告なく直ちに契約を解除できる。」という条項があれば、スムーズな契約解除、債権回収が可能になり、すぐに債務者との契約を解消できます。

 

 条項例
「本契約のいずれか一方当事者は、本契約の他方当事者に以下のいずれかに該当する事由が発生した場合、何ら催告なくして、本契約を解除することができる。

・支払停止若しくは支払不能に陥ったとき、又は手形若しくは小切手が不渡りとなったとき

・破産、民事再生、会社更生手続又は特別清算の申立てがあったとき

・第三者より差押え、仮差押え、仮処分若しくは競売の申立てを受けたとき

・資産又は信用状態に重大な変化があったとき など」

 

債権譲渡の禁止条項

債権譲渡禁止とは、相手方の承諾を得ずに、契約上の地位(権利義務)を第三者への譲渡を禁止することをいいます。この条項により、意図せず相手方が変更されることはなくなります。お金を借りた相手が、暴力団や反社会的勢力の人間などにいつの間にか債権譲渡を行っていて、怖い人が債権者として債権回収に来るといったことが一昔前には良く見られました。

 

 条項例
「甲及び乙は、相手方の事前の書面による承諾なしに、本契約及び本契約に関して取得した権利又は義務の全部もしくは一部を第三者に譲渡し、又は第三者の担保の目的に供してはならない。」

 

相殺予約条項

相殺とは、当事者同士が互いに債権を有する場合に、差引計算して債権を消滅させることをいいます。

相殺をすれば、自分が負っていた債務が消滅した範囲内において、実質的に債権を回収することができます。

相殺は、自分の有する債権の支払時期が到来していないと、相殺できないのが原則ですが、例えば、契約条項に「債権者の債務者に対する債権の支払期限前であっても、相殺することができる。」を設けていれば、いつでも相殺をして、債権を回収することができます。

 

 条項例
「乙が期限の利益を喪失した場合において、乙が甲に対し、反対債権を有するときには、双方の債権は対当額において当然に相殺により消滅する。」

 

連帯保証条項

主債務者(相手)に債務不履行が生じた場合に、主債務者に代わって連帯保証人が債務を支払う旨の条項です。不動産の賃貸借契約や金銭消費貸借契約など幅広い契約に組まれています。

 

 条項例
「〇〇(連帯保証人となる者)は、●●(契約の一方当事者)と連帯して、本契約から生じる一切の債務を負担する。」

 

所有権留保条項

所有権留保とは、売買契約で売主が代金を担保するため、完済されるまで引き渡した目的物の所有権を留保することをいいます。例えば、自動車ローンで支払中は、自動車の所有権はローン会社となり、ローンを支払い終えたら、自分名義になります。

その他、不動産に抵当権をつけておくことは、債権回収において絶対的に有利となります。契約書の中で、抵当権設定義務を負わせる条項があれば、債務者が条項に違反した場合に契約を解除し、債権回収手続を行うことができます。

 

 条項例
「商品の所有権は、乙(債務者)が甲(債権者)に対し、売買代金の全額を支払うまでの間、甲に留保されるものとする。」

「乙(債務者)は、土地の所有者〇〇の承諾を得て、同土地に本契約上の債務担保のために債権額●●円の抵当権設定義務を負う。」

 

遅延損害金条項

債務不履行発生後の期間について、債務額元本に加えて、それまで遅延損害金の支払いを課す条項です。遅延損害金の規定がなくても、法定利率で請求することはできますが、法定利率を超える規定があることで、他の債権者よりも優先して弁済してもらえるなどのメリットがあります。

利率は、利息制限法や消費者契約法などで上限が決まっています。

 

 条項例
「金銭債務の弁済を遅延したときは、弁済期の翌日から支払い済みまで年14.6%の割合による遅延損害金を支払うものとする。」

 

追加担保請求条項

相手の債務不履行が生じた場合や、相手の財務状況が悪化して、既になされている担保の価値が減少した場合に備えて、担保設定の追加を請求することができます。この条項は、追加の担保権を強制的に取得できるわけではありませんが、相手に請求した際に、相手が協議に応じる義務を発生させることはできます。

 

情報提供条項

債権回収は、いわば情報戦です。どれだけの情報をいかに早く掴めるかが債権回収の肝です。そのためにも、商品が転売されたとしても、転売先に関する情報を得ておくことが必要です。

 

合意管轄条項

契約当事者間で、契約に関するトラブルが生じ、裁判所に訴えを提起する場合に備えて、第一審の裁判所を合意により定める条項です。

 

 条項例
「本契約に関する紛争は、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」

 

契約書がないときの債権回収トラブル

例えば、商品に欠陥品があった場合など契約にまつわるトラブルが発生した場合、基本的には契約書に基づいて判断されることが多いです。

しかし、実際の取引社会では、契約書が作成されないことも多く、契約書がない状態でトラブルに発展するケースも多々見られます。

このような場合は、注文書や念書、メール、交渉メモなど契約書以外の書面でも、証明力が強いとは言えませんが、契約成立の証拠となり得ます。

注文書やメールすらない場合には、内容証明郵便によって相手に請求をして、返答内容を根拠に債権回収が認められたケースもありますが、こうしたケースは極めてレアです。

したがいまして、契約書の作成を習慣づけ、取引関係の書類は保管しておくことが望ましいです。

 

公正証書による契約書

一般的な契約書を作成し、その後トラブルが発生し、債権回収を行おうとする場合、基本的には民事訴訟を提起して、判決を得て、強制執行の手続を行います。しかし、これでは、時間と費用の面から、費用倒れになるリスクもあります。

こうした事態を少しでも避けるために、契約書を公正証書で作成することも債権回収をより実現するためには選択の一つです。

公正証書で作成し、強制執行認諾の文言(債務を履行しなかった場合には、直ちに強制執行を受けても文句を言わない)を付け加えれば、強制執行の債務名義として、民事訴訟手続を経ずに、公正証書をもとに強制執行手続を行うことができます。養育費に関する公正証書では、強制執行認諾文言(約款)が付けられることがあります。

 

弁護士によるアドバイスを受ける

契約を締結する際に、内容に不安があれば、一度弁護士に相談することをお勧めします。弁護士は、法的立場から契約書の記載内容の説明やアドバイスをすることができます。

 

最後に

以上のような条項は一般的かつ概括的のため、実際の契約条項はより詳細になるのが通常です。ただ、こうした条項があれば、債権回収率は高くなる可能性があります。一般的に、期限の喪失利益や解除、連帯保証といったあたりは、比較的多くの契約書のひな形にも記載されている条項です。

それ以外の条項も、盛り込むことは可能ですが、多すぎるとかえってややこしくなることもしばしばです。

そのような時やどれを条項に入れたらよいか迷われたときは、躊躇うことなくお気軽に当事務所までご相談ください。

契約形態から、債権回収を高めるための条項などについてアドバイスを致します。

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