遺産の使い込みと親族相盗例
Q 生前父から父名義の預貯金口座の管理を任されていた長女が、自分の夫、母親と共謀して、複数回に亘って、父親に無断で口座から合計数千万円を引き出していることが判明しました。
こうした場合、私は、遺産の使い込みは犯罪になると考えていますので、長女とその夫、それから自分の母親に対し、長男として、刑事告訴したいのですが、可能でしょうか。詳しく教えてください。
A 遺産の使い込みは、使途不明金問題として、相続トラブルではよく見られるケースです。
民事責任を問いたいのであれば、使い込んだ相手を問い質したり、場合によっては訴訟を行ったりして、使い込んだお金を取り戻すことになりますが、刑事責任では、親族相盗例という特例が規定されています。それによれば、結論から言いますと、長女と母親は刑が免除されますので、後見人などではない限り、刑事責任を問うことは困難です。長女の夫については、同居していなければ刑事告訴できる可能性があります。以下、詳しく解説します。
この記事では、遺産の使い込みと親族相盗例について、ご紹介します。 |
遺産の使い込みとは
相続人が、被相続人の財産管理を勝手に使い込んでしまうことです。いわゆる使途不明金の問題です。使途が治療費、介護費であった場合は使い込みではありません。
遺産の使い込みは、被相続人が高齢で認知症になっているなどのケースで最も発生しやすいです。 特に被相続人名義の預貯金口座が最も多いです。
そして、使い込みが発覚した場合、使途不明金として相続人同士でトラブルに発展する可能性が高いです。
遺産の使い込みと認められる事例
冒頭の預貯金口座の使い込み他に、以下のケースが使い込みと認められる可能性があります。
・被相続人所有の不動産を子が勝手に売却して、売却金を遊興費に充てた。
・被相続人名義の生命保険を子が勝手に解約して、解約金を自動車の購入資金に充てた。
・被相続人の家賃収入口座を、自分名義の口座に変更して、賃料を着服した。
・被相続人死亡後、ある相続人がお金をまとめて引き出していた。 など
遺産の使い込みと認められない事例
あくまでケースバイケースですので、認められない事例だとしても、認められる可能性はあります。
・被相続人名義の口座から引き出したが、治療費や介護費を支払ったとき
・不動産が被相続人名義から他の相続人名義に変更されているが、他の相続人は贈与を主張しているとき など
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親族相盗例について
被相続人から財差管理の委託を受けていた場合には横領罪、委託なく勝手に使った場合は窃盗罪となります。しかし、横領または窃盗が配偶者などの親族によって行われた場合は、刑が免除されます。これを親族相盗例といいます。
親族相盗例は、ある一定の親族間以外の者が横領等した場合は、告訴がなければ刑事事件として立件しない(親告罪)ことも規定しています。親族相盗例の背景には、犯罪であったとしても、親族間の問題に国家が介入することを控え、親族間に委ねた方が望ましいという考えがあります。
つまり、親族相盗例は、横領罪、窃盗罪、詐欺罪、恐喝罪、背任罪に適用され、これら犯罪行為を、配偶者(内縁は除く。)、直系血族(養子縁組をした子も含む)、同居の親族(配偶者側の血族も含む)が行った場合は、刑が免除されます(刑法244条及び255条)。
配偶者、直系血族、同居の親族以外が、例えば横領した場合、告訴をしなければ刑事責任を問うことはできません(刑法244条2項)。
したがいまして、冒頭のQuestionは、母親(配偶者)と長女(直系血族)が横領(または窃盗)したとしても、親族相盗例により刑が免除されます(長男が刑事告訴しても、母親らに刑罰を科することができません。)。
長女の配偶者(夫)については、同居していれば同居の親族として長女同様、刑が免除されますが、同居していない場合は刑事告訴できる可能性があります。
親族相盗例が適用されない場合
以上のとおり、配偶者、直系血族、同居の親族については親族相盗例が適用されますが、それ以外の、例えば、親族であっても法定後見人や任意後見人、介護スタッフなどについては適用されません。この場合は、業務上横領罪(刑法253条)が成立する可能性があります。
使い込みによる刑事告訴をはじめ相続トラブルは弁護士に相談を
相続では、相続人が被相続人の遺産を使い込んでいたとして、トラブルになるケースはよくあります。
また、そもそも横領を証明することは難しく、証明できたとしても、使い込んでいた人に親族相盗例を適用できる人であった場合は、警察が受理しないことも十分考えられます。
横領を証明するにはどのような資料が必要か、刑事告訴を受理してもらうためにはどうすればよいのか、民事でお金を取り戻すにはどうすればよいのか、などお悩みの方は弁護士に相談することをお勧めします。
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まとめ
遺産の使い込みが発覚して刑事告訴をしたとしても、警察は親族相盗例を盾に消極的で、刑事手続では泣き寝入りになる可能性があります。
しかし、刑事がダメでも、民事で取り戻すことができることもあります。
預貯金の使い込みや使途不明金の対応方法についてお困りの方は、刑事告訴や相続で多くの実績を残す当事務所までご相談ください。