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民事執行の救済手続~執行抗告、執行異議、請求異議の訴え、第三者異議の訴え

民事執行の救済手続の概要

民事執行法では、民事執行の救済手続として、執行文付与、執行申立、決定・命令など各段階で不服申立ての手続が規定されています。具体的には、執行抗告、執行異議、請求異議の訴え、第三者異議の訴えなどです。

これら不服申立手続に関しては、まず違法執行に対するものと不当執行に対するものに分けられます。

違法執行には、執行文付与に関する異議、執行抗告執行異議、配当異議があり、不当執行には、請求異議の訴え第三者異議の訴え、執行文付与の訴え、執行文付与に対する異議の訴え、配当異議の訴え、があります。

 

この記事では、債務者の権利保護としての民事執行の救済手続のうち、執行抗告、執行異議、請求異議の訴え、第三者異議の訴えについて簡単にご紹介します。

 

違法執行と不当執行

強制執行手続に関して不服を申し立てる場合、違法執行(強制執行の手続が違法である場合)なのか、不当執行(強制執行手続自体は適法であっても、債権の内容や存在に疑いがある場合)なのかで、採るべき手続は変わります。

 

違法執行に対する不服申立て

執行抗告と執行異議

執行抗告も執行異議も違法な執行(手続に違反している執行)に対する不服申立ての方法ですが、法律に定めがある場合は執行抗告、ない場合は執行異議となります。

 

執行抗告(民執法10条)

執行抗告は、すべての強制執行に対して執行抗告することができるわけではありません。「特別の定めがある場合に限り、執行抗告をすることができる。」とありますので(民執法10条1項)、特別の定めが必要です。

では、特別の定めについては、民事執行法上でいくつか規定されています。

民事執行の手続を取り消す決定(民執法12条1項)

民事執行の手続を取り消す執行官の処分に対する執行異議の申立てを却下する裁判(民執法12条1項)

執行官に民事執行の手続の取消しを命ずる決定(民執法12条1項)

申立人が費用を予納しないときに民事執行の申立てを却下する決定又は民事執行手続を取り消す決定(民執法14条5項)

執行異議の申立てを却下する裁判(民執法42条7項)

強制競売の申立てを却下する裁判(民執法45条3項)

配当要求を却下する裁判(民執法51条2項) など

 

敗訴した債務者は、決定等の告知を受けてから1週間以内に抗告状を裁判所に提出しなければならず、急を要するため、抗告状に抗告理由を記載しないで提出した場合は、提出した日から1週間以内に抗告理由書を提出しなければなりません。

注意が必要なのは、抗告をしても、強制執行の手続は停止しません。そのため、裁判所は、執行抗告について裁判が効力を生ずるまでの間、担保を立てさせて、もしくは立てさせないで、執行の停止もしくは執行手続の全部もしくは一部の停止を命じ、また担保を立てさせてこれらの続行を命ずることができます(民執法10条6項)。

 

執行異議(民執法11条)

執行異議は、執行抗告することができないもの、もしくは執行官の執行処分又はその遅怠に対して申し立てることができます。

申立期間の定めはなく、執行手続が完了するまでは執行異議の申立てをすることができます。

執行異議をしても執行の手続が停止しないことや裁判所によって停止が命じられることなどは執行抗告と同じです。

 

ちなみに、違法執行によって損害を受けた債務者は、執行手続外で、差押差権者に故意過失があったときは不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)、または国に対する国家賠償請求訴訟を提起することも考えられます。

 

不当執行に対する不服申立て

不当執行とは、執行手続は適法ですが、執行を認める根拠を欠いている執行をいい、請求異議の訴え、第三者異議の訴えなどがあります。

 

請求異議の訴え(民執法35条)

請求異議の訴えとは、債務名義に表示されている請求権の存在や内容に異議がある場合に、債務者が執行力の排除を求める不服申立てです。

例えば、100万円の貸金返還訴訟の原告勝訴判決が出た後に、被告(債務者)が原告(債権者)に任意に全額支払い、債権が消滅したとします。任意の支払いなので、判決上は債権が残っている状態になっています。

したがいまして、原告(債権者)は、すでに被告(債務者)から全額支払いを受けて債権が消滅しているにもかかわらず、判決をもって、差押や強制競売などの強制執行を申し立てることができます。そうなると、債務者からすれば、「すでに全額支払ったのに、冗談じゃない。」と思うでしょう。

このように請求権の消滅した、あるいは請求権が発生していないのに、民事執行の申立てをするような不当な執行に対して、請求異議の訴えを提起することになります。

請求異議の訴えは、債権回収が全額完了するまで訴えを提起することができます。そして、請求異議の訴えが認められた場合、強制執行を許さない旨の判決主文を得ることができ、執行文を付与する機関(裁判所など)は執行文を付与することができなくなります。

ところで、請求異議の訴えを提起したからといって、原則強制執行の手続は止まりません。なぜなら、訴えを出せば強制執行が止まるとなってしまうと、強制執行を妨害する目的だけで訴えを提起する可能性もあります。とはいえ、絶対止まらないとするわけにもいきません。そこで、法律上の理由があり、かつ事実上の点について疎明があったときは、裁判所は、強制執行の停止や取消しを命ずることができますので、別途強制執行停止の申立て(民執法36条1項)をする必要があります。

 

第三者異議の訴え(民執法38条)

強制執行された物が債務者の物ではなく、第三者の物である場合、第三者は第三者異議の訴えを提起することができます。

例えば、債権者が債務者名義の不動産に対し強制競売の申立てをしたところ、実際は第三者(他人)の不動産である場合などです。第三者からすれば、「強制執行しようとしている物は債務者の物ではなく、自分の物だから、やめて。」と思うでしょう。

このように執行対象財産について所有権等権利を主張する第三者は、債権者に対して執行の不許を求めます。これを第三者異議の訴えといいます。

第三者異議の訴えが認められた場合、強制執行を許さない旨の判決を得ることができますが、請求異議の訴えと同様、第三者異議の訴えを提起したからといって、強制執行の手続は停止せず、別途強制執行停止の申立て(民執法36条1項及び38条4項)をする必要です。

 

最後に

民事執行も裁判の一つですので、債務者が違法な執行、または不当な執行を申し立てて強制執行をしようとしていると思ったら不服申立てができます。

とはいえ、どんな状況でも絶対に強制執行を停止させるウルトラCはありません。強制執行の手続がされているということは、債務名義がそこにはあるので、まずはその債務名義の成立前後の事情から対応を検討することになると思います。一般的に、裁判所による手続ミスは考えにくいです。

なおかつ、救済手続は手続上複雑で専門的な知識と技術が必要ですので、一度弁護士に相談することをお勧めします。

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