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売掛金を飛ばされそうなときのホストの対応

ホストクラブにおける、いわゆる売掛金については多くのホストクラブがホストによる補填としており、ホストはなるべく早く売掛金を回収したいと考え、客とトラブルになることも多いです。

売掛金を回収するためには、回収にあたってやってはいけないことを踏まえた上で、適切な対応がホストに求められます。

 

この記事では、売掛金を飛ばされそうなときのホストがとるべき対応について詳しく紹介します。

 

ホストクラブにおける売掛金と社会問題

ホストクラブにおける売掛金とは、お客の飲食代金をその日に回収せず、後払いにすることをいいます。ホストクラブの場合、月に何度も来店してくれる常連客に対しては、担当ホストの判断で、毎月の締め日までにまとめて精算してもらうことがあります。

こうした売掛金は、ホストクラブにもよりますが、多くの店舗では、締め日(支払い期限)までに客が代金の支払を行わなかった場合には、ホスト個人が店舗に対して客の代金を立て替え払いし、ホスト個人が債権者となって債務者である客から回収を行わなければなりません。そのため、ホストがお客から売掛金を回収できなかった場合は、店舗は、ホストの給与(又は報酬)から天引き相殺し、回収します。

 

悪質ホストクラブによる売掛金の社会問題化

ホストとしては、給料が減ってしまうので、掛け飛び(お客がホストやホストクラブに飲食代金を支払わないままでいること)されないよう、何としてでも売掛金を回収しようとします。

その手段として、女性客に風俗で仕事をさせたり、路上での売春行為を強要するなどがあり、それが社会問題化しています。

 

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掛け飛びされそうなときにやってはいけないこと

法的手続によらずに当事者間での交渉で売掛金の回収を行うことも可能ですが、いきすぎた方法により回収をしようとすると、民事上の不法行為となったり、刑事罰を受ける可能性もあります。

以下では、掛け飛びをされそうなときにやってはいけないことを例として挙げましたので、当事者間による交渉の際は注意をしましょう。もし、交渉で埒が明かない場合は、弁護士に相談することをお勧めします。

 

風俗や売春行為を強要して、女性客がそこで得た賃金による回収

先ほどの社会問題化でも取り上げましたが、何としてでも回収したいがために、女性客を暴行や脅迫をして風俗店勤務へあっせんしたり、路上での売春行為を強要することは、絶対に行うべきではありません。場合によっては、職業安定法63条(有害業務の紹介)で逮捕されるケースも見られます。同法違反の法定刑は1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金です。

 

犯罪行為による回収

窃盗罪(刑法235条)

売掛金を回収するために客の財布や家からお金や貴金属、ブランド品等を盗む行為は窃盗罪にあたります。この場合、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。

 

恐喝罪(刑法249条)

売掛金を支払わない客に対し、暴行または脅迫により支払いを求める行為は恐喝罪にあたります。この場合、10年以下の懲役に処せられます。

 

強盗罪(刑法236条)

売掛金を回収するため、暴行または脅迫により客の反抗を抑圧し、強引にお金を奪う行為は強盗罪にあたります。この場合、5年以上の有期懲役に処せられます。

 

住居侵入罪(刑法130条)

売掛金を支払わない客の住居に無断で侵入すると住居侵入罪、客から住居からの退去を求められたにもかかわらず、支払うまで居座るなどすれば不退去罪にもあたります。この場合、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられます。

 

無資格の回収業者や反社会的勢力に依頼して回収

無資格の回収業者や反社会的勢力による回収は違法です。

最近では、違法なスカウトグループが債権回収を請け負って、客を脅して回収して回収した金額の50%もの金額を報酬で得ている事案も見受けられますが、これは弁護士法72条の非弁行為に当たり、2年以下の懲役または300万円以下の罰金に処される可能性があります(弁護士法77条3号)。

客から売掛金の支払いを拒否されているのであれば、まずは弁護士に相談することをお勧めします。

反社会的勢力は違法な手段を用いて売掛金回収を行いますので、依頼したホストも共犯関係が認められれば、刑事罰を受ける可能性があります。

 

SNSなどで掛け飛びした事実を投稿して、見つけ出す行為

回収手段とは直接的な関係にはありませんが、掛け飛びをしようとするお客は、連絡を絶ち、行方をくらますのがほとんどです。

このような場合であっても、SNSなどで写真などを投稿して見つけ出す行為はやめましょう。場合によっては、プライバシー権や肖像権の侵害にあたり、訴えられる可能性があります

 

客の実家に訪問し、親から回収を図ろうとする行為

客の実家に客本人の同意なく訪問し、実家の親に内容を告げた上で、親から回収を図ろうとするケースもよく見られます。当該行為は名誉毀損やプライバシー権侵害に当たりますし、「実家に行って全てバラす」等と客に告げる行為だけとっても脅迫罪が成立しうるので、絶対に行わないで下さい。

掛け飛びされそうなときは

ホストが客から売掛金を回収したい場合は、弁護士による法的手続が一番です。

ただし、売掛金などの債権は原則として発生から5年間経ったら、消滅しますので、法的手続で回収を図ろうとする場合は、発生から5年経過していないか注意が必要です。

 

支払督促

支払督促は、裁判所が債務者(客)に対して、支払を督促する手続です。書類審査のみで行いますので、比較的迅速です。仮執行宣言付支払督促が発せられると、強制執行を行うことが可能となります。

ただし、制度上、支払督促の発令後、2週間以内に債務者(客)から異議申し立てがあれば、訴訟に移行することになります。

 

実務の感覚としては、基本的に異議申し立てされるケースが多いです。そのため、支払督促の効果は弱く、利用するケースはほとんどありません。

 

 

訴訟(少額訴訟・通常訴訟)

支払督促をしないで訴訟を行うことができます。ホスト側の主張が認められれば、裁判所は、債務者(客)に対して支払いを命ずる判決をします。

この他、60万円以下の金銭の支払いを求める場合に利用できる少額訴訟制度もありますので、詳しくは弁護士に相談してみるとよいでしょう。

 

強制執行

判決などにより債務者(客)が任意に支払ってくれればよいのですが、支払ってくれない場合は、最終手段として、強制執行手続を行い、売掛金の回収を図ることになります。

 

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最後に

売掛金を回収しようと焦る気持ちはあると思いますが、違法な手段による売掛金の回収は結果、ご自身を苦しめる結果となり得ます。

具体的に、どのような手続を踏んで売掛金回収を行ったらよいかはケースバイケースでの判断になりますので、当事務所までお気軽に相談ください。

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