債権に対する強制執行の特殊な申立て~転付命令
債権差押命令事件で、債務者の預貯金債権を差し押さえたが、他の債権者も差押えをして、結局、自分の取り分が減ってしまう可能性はあります。
こうしたリスクを回避するために、転付命令があります。転付命令を利用すると、差し押さえた預貯金債権を独占することができます。
この記事では、債権に対する強制執行の特殊な申立てである転付命令について、簡単にご紹介します。 |
債権執行手続の概要
これまでご紹介しました通り、債権執行手続は、申立てに始まり、裁判所による差押命令発令後、債権者、債務者、第三債務者への各送達が完了し、債権回収にあたって、取立権の行使、供託に伴う配当等があります。
転付命令とは
債権回収にあたっては、取立権の行使、配当等の他に、転付命令の手続を採ることができます。
転付命令とは、差し押さえた債権の債権者の地位を差押債権者に移転させることにより差押債権者の債権の回収を図るものです(民事執行法159条および160条)。
つまり、簡単に言えば、転付命令とは裁判所の命令で強制的に債権譲渡がなされるということです。
例えば、債権者Aの債務者Bに対する債権差押事件において、債務者Bが第三債務者Cに対して債権を有している場合、BC間では、Bが債権者、Cが債務者となります。そして、債権者Aは、BのCに対する債権を差し押さえることになりますが、差押えの段階では差し押さえた債権はBC間にあります。
そのため、転付命令が確定すると、Aが差し押さえた債権はBC間からAC間に移転し、Aは差し押さえた債権の券面額で弁済を受けたことになります。
券面額とは、債権の額面金額ではなく、その債権が給付すべき金額をいいます。 |
メリット
差押えと転付命令の違いについてはいまいちわからない方もいらっしゃると思います。
差押えは、差押命令正本が債務者に送達されてから原則1週間が経過しないと取立てができません。そのため、差し押さえても取立ての段階で他の債権者も差し押さえた場合には、差押えの競合が発生します。
競合が発生すると、裁判所は債権者平等の原則に従って、各債権者に配当することになります。そのため、自分の債権額全額を回収することができなくなる可能性があります。
さらに、差押命令正本が債務者に送達されない(債務者が受け取らない)場合は、取立権を行使できませんので、債権回収までの期間が伸びてしまうことがあります。
しかし、転付命令が発令されて確定すると、転付命令正本が第三債務者に送達された時点から効力が発生します。送達後に他の債権者が差し押さえたとしても、無効となるので、弁済を独占することができます。
ただし、送達前に他の債権者が差し押さえた場合には、転付命令の効果はありません。
そのため、実務上は差押命令と転付命令は同時に申し立てることが多いです。 |
デメリット
転付命令正本が第三債務者に送達された後は、第三債務者に対して請求をして債権回収を行います。
転付命令は、裁判所の命令で強制的に債権譲渡がなされるので、債権者から見れば第三債務者ですが、転付命令正本が送達された以降は、第三債務者は債務者に変わります。先ほどの例で言えば、送達により、Aが債権者、Cが債務者となり、Bとの関係は切れます。
もし第三債務者が無資力になった場合は、債権者は債権を回収することができなくなります。それどころか、元債務者(B)にも請求することはできません。
そのため、転付命令を利用する場合には、ほとんどが第三債務者が銀行などの金融機関の場合に限られます。 |
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元債務者の口座内に残高がない場合はどうなる?
転付命令を利用するのは、第三債務者(C)が銀行などの金融機関の場合がほとんどと紹介しましたが、もし元債務者(B)名義の預貯金口座の残高が自分の債権額よりも少ない額しかなかった場合は、その分しか回収できません。つまり、自分の債権額が100万円で、口座残高が10万円であれば、10万円しか回収できません。
では、元債務者Bとは関係が切れたので、BがCにお金を入金するまで待たないといけないのかというとそうではありません。関係が切れて元債務者に請求ができないのは、転付命令によって回収した債権額までです。そのため、残額90万円については、元債務者に請求することができます。
転付命令を利用して債権回収を図りたい場合は当事務所に相談を
転付命令は弁済を独占できるため、早く債権回収を行うことができます。
とはいえ、転付命令を発令してもらうためには、差押えをするなど準備が必要です。
差押命令と転付命令の両手続を同時に行うことは専門的な知識と技術を要するため、転付命令を利用して債権回収を図りたい場合は弁護士に相談することをお勧めします。
当事務所では、転付命令を利用した債権回収を多く扱っております。
転付命令をするかどうかは、相談者や債務者の状況を踏まえて判断することになります。相談者の他にも債権差押をしようとしている債権者がいるという見込みがある場合は、積極的に転付命令を検討します。最終的にはケースバイケースなので、債権回収で悩まれている方は、まずは一度当事務所までご相談ください。