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訴訟による嫌がらせを受けた場合~スラップ訴訟

企業などが民事訴訟を利用して、企業自身に不都合な言論を封じることがあります。これをスラップ訴訟といいます。

例えば、マスコミ記事への名誉毀損訴訟、法律上の権利行使への報復的な損害賠償請求訴訟がその例です。訴訟以外にも、これと同じ目的で行われる刑事告訴や代理人弁護士への懲戒請求などについても同じく問題となっています。

また近年では、SNSの発達による個人の言論活動が活発になったこともあり、企業と個人との間だけでなく、個人間でも報復や嫌がらせの目的で不当な訴訟が提起されるケースも多くあります。

 

この記事では、訴訟による嫌がらせを受けた場合の対応などについてご紹介します。

 

スラップ訴訟とは

自己に不都合な言論を抑圧するために、勝訴の見込みがないにもかかわらず、原告が威圧等、または相手に対して苦痛を与える目的でする訴訟のことをいいます。威圧訴訟、恫喝訴訟、嫌がらせ訴訟とも呼ばれることもあります。

スラップ訴訟は、もともとアメリカで生まれた概念であり、「Strategic Lawsuit Against Public Participation」(市民による参加を妨害するための戦略的訴訟)の頭文字をとっています。

アメリカではこうしたスラップ訴訟を防止するための法律を制定している州が多くあります。原告が正当性を立証できなければ訴訟審理が打ち切られるほか、州政府が被告を支援する制度をもうけている州もあります。

しかし、日本では、スラップ訴訟に関連する法律は存在せず、かつ、憲法で裁判を受ける権利(憲法32条)が保障されているため、最大限尊重されなければなりません。

そのため、裁判所は訴えが提起されたら、訴訟を進めるのが原則です。訴えの提起が正当か違法かの判断はかなり難しいといえます。

スラップ訴訟と認められたケースもあれば、認められなかったケースもあり、その判断はケースバイケースによります。

 

スラップ訴訟は違法ではないのか

訴えを提起することは、憲法で保障されてはいます。

一方で、訴えを提起された被告は、原告からの訴えに対して応訴するのが基本であり、弁護士費用などの経済的負担や応訴に関する精神的負担を強いられます。

そのため、不当な目的であるスラップ訴訟は、違法ではないのかと従来から議論されています。

 

この点につき、リーディングケースである最高裁昭和63年1月26日判決は、「法的紛争の当事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求めうることは、法治国家の根幹にかかわる重要な事柄であるから、裁判を受ける権利は最大限尊重されなければならず、不法行為の成否を判断するにあたっては、いやしくも裁判制度の利用を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要とされることは当然のことである。したがって、法的紛争の解決を求めて訴えを提起することは、原則として正当な行為であり、提訴者が敗訴の確定判決を受けたことのみによって、直ちに当該訴えの提起をもって違法ということはできないというべきである。一方、訴えを提起された者にとっては、応訴を強いられ、そのために、弁護士に訴訟追行を委任しその費用を支払うなど、経済的、精神的負担を余儀なくされるのであるから、応訴者に不当な負担を強いる結果を招くような訴えの提起は、違法とされることのあるのもやむをえないところである。」としています。

そして、訴えの提起が違法な行為となる基準について、同判決は、「当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。」としています。

 

つまり、最高裁は、訴訟提起行為は、裁判を受ける権利に基づき、原則として正当な行為であるものの、訴訟提起行為が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合には、違法であって不法行為が成立する、としています。

具体的には、以下の場合に訴訟提起が違法であり、不法行為が成立すると考えられます。

①訴えを提起した者が主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであって、

②訴えを提起した者において、自身が主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであることを知りながら、又は通常の人であれば容易にそのことを知り得たといえるのに、あえて訴えを提起した場合

 

スラップ訴訟は弁護士に相談を

スラップ訴訟は、嫌がらせや苦痛などの目的だけでなく、理不尽な要求目的でなされることもあります。他にも、莫大な金額の請求をされることもあります。

このようなスラップ訴訟などの不当な訴訟は弁護士に相談することをお勧めします

ただし、日本の過去の裁判例でスラップ訴訟と裁判上認定された事件はわずか数件しかなく、認容された金額も高くても100万円強ほどですので、経済的な利益を求めて提起すべき訴訟とは言えません。提訴には慎重になるべきです。

参考までに、スラップ訴訟を起こされた場合の対抗手段として、被告から原告に、原告による訴え提起自体が違法な不法行為であるとして反訴(スラップ訴訟であれば、その訴訟と同一手続で訴え返すこと)を提起することも可能です。

スラップ訴訟が終わってから別手続として訴訟を起こすことも可能ですが、時間を要するうえ、裁判所の担当する部や係がスラップ訴訟とは違う部や係になり、スラップ訴訟の判決内容とは矛盾した判断をされる可能性もあります。

そのため、スラップ訴訟を提起された場合は、反訴を検討するためにもまずは弁護士に相談したほうがよいでしょう。

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