強制執行に必要な執行文付与とは?
はじめに
強制執行は、債権者の権利を強制的に実現する手続で、債務名義によってその権利を証明し、執行を行います。
債務名義(勝訴判決など)を得られたからすぐに債権回収を実現できるわけではありません。事案によって取りそろえる資料は異なりますが、共通して必要な書類は、債務名義正本、執行文、送達証明書です。
今回は、このうちの「執行文」についてご紹介したいと思います。 |
執行文とは
執行文とは、債務名義の執行力の存在と範囲を公証する文書です。平たく言えば、判決などの債務名義に基づいて執行が可能である旨を記載した文書で、誰が誰に対し強制執行ができるかが記載されています。
執行文付与を申請すると、裁判所書記官または公証人が執行可能かどうか審査をし、執行可能であればその旨の、いわばお墨付きをくれます。
執行文の種類
執行文には3つの種類があります。
単純執行文
最も基本的な執行文で、執行文付与を求めるとなれば、単純執行文の付与を求めると理解して差し支えありません。
条件成就執行文(事実到来執行文)
執行文の付与が一定の事実の到来または条件の成就にかかっており、その事実の到来があったこと、又は条件が成就したことを、債権者が証明したときに付与される執行文です。
例えば、不動産の明渡請求訴訟の判決において、「原告が被告に対し立退料を支払った後、1か月以内に、被告は原告に対し、本件建物を明け渡す。」と記載されている場合、原告は立退料を支払ってから1か月を経過しないと被告に明け渡せということはできません。
そして、原告が立退料を支払って1か月が経過したことを証明すれば、執行文が付与されます。
ここで注意が必要なのが、懈怠約款がある場合です。
例えば、債務名義が和解条項で「被告が分割金の支払いを2回以上怠ったときは、期限の利益を失い、被告は原告に対して、直ちに残額を一括して支払う。」という懈怠約款がある場合、債権者(原告)が、債務者(被告)が2回以上支払っていないことを証明すれば、執行文が付与されます。
しかし、2回以上支払っていないことを証明するのは容易ではありません。今まで振り込みによる場合であっても、直近は手渡しであったかもしれません。そうすると、客観的に2回以上支払っていないことを証明することは不可能です。
そのため、このような場合は、単純執行文の付与を求めます。もし、被告が支払いを続けていたのであれば、強制執行に対しての執行異議又は請求異議などの不服申立てを行うことになります。
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さらに懈怠約款に伴う解除についても注意が必要です。
「被告が2か月以上の賃料の支払いを怠ったときは、当然に賃貸借契約は解除され、被告は原告に対し、本件建物を明け渡す。」
「被告が2か月以上の賃料の支払いを怠ったときは、原告は催告することなく、賃貸借契約を解除することができる。この場合、被告は原告に対して、本件建物を明け渡す。」
上記2つの違いはなんでしょうか。
どちらも被告が2か月以上の賃料の支払いを怠ったときは賃貸借契約は解除されます。
解除にあたって、当然解除か無催告解除で違いがあります。
そして、執行文付与も当然解除の場合は単純執行文の付与となります。
無催告解除の場合は、2か月以上の賃料未払いがあったとしても、原告が解除権を行使するかどうか決めることできます。この間、賃貸借契約は、解除され得る状況にありながら、存続しているのです。
そのため、原告が本件建物を明け渡すことを求めるのであれば、被告に対して、賃貸借契約を解除する意思表示をしたことを証明しなければならないため、条件成就執行文の付与となります。
承継執行文
判決が出た後、当事者である原告と被告の地位に変動が生じることがあります。相続、会社の吸収合併、債権譲渡などがその例です。
強制執行をしようにも債務名義に記載されている人がもういない場合は、強制執行できません。
このような場合は、当事者の地位を承継した人を当事者として、その承継した人に強制執行できるよう執行文の付与を求めます。これが承継執行文です。
承継執行文の付与申請にあたり、承継を立証しなければいけません。
相続であれば戸籍謄本、会社の吸収合併であれば商業登記簿謄本、債権譲渡であれば契約書などです。 |
執行文を付与されなかった~執行文付与に関する不服申立て
債権者による不服申立手続
執行文付与の拒絶に対する異議
債権者(原告)が執行文付与を裁判所に申請したが、付与されなかったら強制執行することはできません。
この場合、執行文付与の拒絶をした裁判所書記官が所属する裁判所または公証役場の所在地を管轄する地方裁判所に異議の申立てをすることができます。
異議が認められれば執行文が付与されますが、異議が認められなかった場合、執行文付与の訴えをすることができます。
執行文付与の訴え
債権者が、条件成就執行文や承継執行文の付与申請にあたり、証明文書を提出することができないとき、債権者は債務者を被告として執行文付与の訴えを提起することができます。勝訴すれば、勝訴判決に基づいて執行文の付与を得られます。
債務者による不服申立手続
以上は債権者に対する執行文付与に関する不服申立てですが、債務者にも救済手続があります。執行文付与に対する異議の申立てと訴え、請求異議の訴えです。
執行文付与に対する異議の訴え
条件成就執行文や承継執行文が付与された場合において、債務者の方で条件が成就していないことや、自分は承継人ではないことを主張して、訴えを提起することができます。
申立てと訴えの違いは、対象となる執行文の種類が異なります。異議の申立ては種類を問いませんが、異議の訴えは条件成就執行文と承継執行文のみに限られます。
請求異議の訴え
請求異議の訴えとは、債務名義に表示されている請求権の存在や内容に異議がある場合に、債務者が執行力の排除を求める不服申立てです。
つまり、請求権は消滅した、または請求権は発生していないのに執行を申し立てる不当な執行に対して、請求異議の訴えを提起することになります。
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最後に
今回は執行文付与に関する種類から、債権者と債務者双方の不服申立て手続についてご紹介しました。
執行文付与は一見単純な手続かと思われるかもしれませんが、強制執行を行うための第一歩となりますので、とても重要です。
債権回収は時間との戦いですので、執行文付与で時間をとられるわけにはいきません。
債務名義を得たが、執行文付与はこれからの方、また債権回収にお困りの方は、まずは当事務所までご相談ください。具体的事情をお伺いして、適切な対応をアドバイスいたします。