【不動産シリーズ①】賃貸物件をめぐるトラブル~賃借人の権利
Q 私は、賃貸マンションの一室を借りていますが、ある日突然、お風呂の床が壊れてしまいました。このままでは、お風呂を使うことができません。
大家さんに話そうにも連絡がつかず、やむを得ず自分で探した業者に見積もりを依頼したところ、10万円かかるとのことでした。
この後、大家さんにどのような対応を求めればよいでしょうか。
A お風呂は入居前から部屋に備え付けられていることがほとんどです。こうした備え付けられている設備は大家さんの所有物となりますので、大家さんに修繕義務があります。
なので、大家さんに修理してもらい、修理費用は大家さんが負担するのが一般的です。
大家さんまたは管理会社に連絡がつかず、ご自身で業者に見積もりを依頼した場合は、一度大家さんなどに見積書をもって対応をお願いするか、工事の許可を得た方がよいでしょう。
借りている側が工事を行うことになった場合は、工事後、修理費用の償還を請求するのが一般的です(有益費償還請求)。
ただし、修理費用は、原則大家さんが勝手に負担しますが、賃借人が勝手に修理をしてしまったなどの場合は、賃借人が負担しなければならない可能性があります。
この記事では、賃貸物件における賃借人の権利と注意点について、簡単にですが、解説します。 |
使用収益権
賃貸借契約は、賃貸人が賃貸物件を賃借人に使用収益させる契約です。
したがいまして、賃借人は、賃貸人に対して、使用収益できるよう求めることができます。
賃貸人の立場からみると、使用収益させる義務があるということになります。
使用収益でよくトラブルになるのは、同じ建物の賃借人による騒音・悪臭です。騒音または悪臭が受忍限度を超えるものであった場合は、賃借人の使用収益権を侵害した、つまり賃貸人の義務違反となる可能性があります。
受忍限度を超えるかどうかについてはケースバイケースになります。 |
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修繕請求権
まず、賃貸人は、原則として、建物の屋根、壁などの躯体部分、設備など、契約により提供しているものについて修繕する義務を負っています(民法606条1項本文)。
なので、借りている物件に修繕の必要が生じた場合、賃借人は賃貸人に対し、修繕を求めることができるのが原則です。
ただし、例外として、修繕の原因が賃借人の責めに帰すべき事由によるものであったときは、修繕を求めることができません(同項ただし書)。
実務上よく争いになりますが、例えば、電気ガス水道といったライフラインが使えなくなったというような場合には、修繕義務が生じるとされることが多いです。
一方で、物理的・技術的に修繕が不可能である場合、修繕が可能であっても費用が不相当に高額であるといった社会経済的に著しく修繕が困難な場合は、修繕義務が生じないとされることがあります。
賃貸人が修繕しないときは・・・?
賃借人は、借りている物件に修繕が必要な場合は、その旨を賃貸人に通知する義務があります(民法615条)。
修繕が必要となった場合、まずは、賃貸人または管理会社にその旨を書面で通知しましょう。
そのうえで、賃貸人などが相当の期間内(具体的な期間はケースバイケースです。)に必要な修繕を行わない場合は、賃借人が修繕を行い、修繕後に賃貸人に修理費用の償還を請求します(民法608条1項)。
その他、賃借人は、賃貸人による修繕義務の不履行として、裁判所の手続による履行の強制、債務不履行に基づく損害賠償請求、賃料の減額請求などを行える可能性がありますが、償還請求を行うのが一般的です。
また特約で「修理とその費用は賃借人とする。」などと付されていることがありますので、契約書をよく確認しましょう。
賃貸人による修繕を拒否できないことがある?
賃貸人が賃貸物を保存するために必要な修繕をしようとするときは、賃借人はこれを拒否することができません(民法606条2項)。これを受忍義務(または認容義務)といいます。
したがいまして、冒頭のケースで言えば、賃貸人に対する通知後、賃貸人または工事業者がお風呂の修繕のため、賃借人の部屋に立ち入ることになります。これに対して、賃借人は、拒否することができません。実際の工事の際は、工事日時など打合せをしておく方が望ましいです。
修繕義務をめぐるトラブルは、本来であれば当事者同士による解決が最も望ましいです。 しかし、何かしらの事情で、裁判手続に至ってしまうような場合、または当事者同士での話し合いでは解決しそうにないという場合には、当事務所までご相談ください。 当事務所では、これまで賃貸人からのみならず、賃借人の減額交渉、修理費用の償還交渉などを扱った実績があります。具体的には、ケースバイケース(不具合の程度や内容)の判断となりますが、賃借人が置かれている状況をもとに今後の対応などについても適切なアドバイスを致します。 |
必要費・有益費償還請求権
必要費償還請求権
必要費とは、建物の原状を維持保存し、または賃借人が約定の目的に従った使用収益をするために必要な費用をいいます。必要費は、いわばマイナスを補填するための費用といえます。
こうした必要費は、賃貸人の負担であり、賃借人が負担したときは、直ちに賃貸人に請求することができます(民法608条1項)。
賃貸人が必要費の償還を拒んだ場合は、賃借人は家賃と相殺することができる可能性があります。
有益費償還請求権
有益費とは、建物の価値を客観的に高めるために支出した費用をいいます。必要費が建物のマイナスを補填する費用であるのに対し、有益費は建物にプラスアルファの費用というイメージです。
こうした有益費は、賃借人は賃貸人に対し、賃貸借契約終了時に請求することができます(民法608条2項)。必要費は「直ちに」償還請求することができますが、有益費は「賃貸借契約終了時」でなければ償還請求できません。
有益費償還請求権の対象となり得るものとしては、台所の改良、外壁のタイル張替えなどが例として挙げられます。
造作買取請求権
賃借人が、建物に設置した物で取り外しが可能なものを造作といいます。
例えば、雨戸、エアコン、シャワー設備、ウォシュレットなどです。造作物は、基本的に賃借人の所有となり、大家さんにこれら造作物を時価で買い取るよう請求することができます(借地借家法33条1項および2項)。
ただし、造作買取請求権が認められるためには、借りている人が大家さんの同意を得て建物に付加した造作である必要があります(なので大家さんの同意なく勝手にエアコンを取り付けたような場合は造作買取請求はできません)。
造作買取請求権が発生するのは、建物賃貸借契約が期間満了、または解約の申入れによって終了した場合に限られます。なので、賃借人の債務不履行を理由に賃貸借契約が解除された場合は、造作買取請求権は発生しません。
大家さんが造作買取請求に応じない場合は、法的手続をとらなければなりませんので、弁護士への相談をお勧めします。 なお、建物の場合は造作買取請求権ですが、土地の場合は建物買取請求権です。 |
有益費との違い
造作は、有益費に似たような概念ですが、有益費の場合、改良工事等によって建物の価値が高められた場合、その所有権は賃貸人に帰属する一方で、造作は賃借人の所有となります。
賃料減額請求権
修繕請求権の箇所でも少し話が出ましたが、賃借人の権利として、賃料の減額を請求することができます。
賃料減額請求権(借地借家法32条)の要件
賃料減額の請求を行うためには、一定の場合が必要です。
一定の場合については、借地借家法32条で規定されています。なお、条文上、「増減」となっていますので、賃貸人からの増額請求も同様に解します。
土地若しくは建物に対する租税その他の負担が増減した場合
→以下2及び3にも言えることですが、家賃と相関関係にある一切の経済事情の変動を考慮して、家賃減額請求が妥当かを判断します。
土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情が変動した場合
→裁判例においては、経済事情の変動に関して、土地建物の価額変動の他、物価や所得水準の変動、経済活動の制限等、一般的に賃料と関連する事情は全て考慮されるべきとされています。この他、消費者物価指数、家賃指数が客観的指標として用いられることがあります。
近傍同種の建物の借賃に比較した場合
→対象物件の近隣にある同種の建物(間取りや最寄りまでの所要時間なども考慮されることがあります。)の家賃と比較して、対象物件が高いような場合は、家賃の減額がされるケースがあります。ただし、近隣の家賃相場のみを理由とする減額が認められるとは限りません。近隣の家賃相場を含め諸々の事情を考慮して判断します。
賃料減額請求は、客観的な指標などを基に適正に交渉していくことが重要です。賃借人の都合だけでいきなり「来月から家賃を〇〇円減額してください。応じてくれないなら出ていきます。」などと強気で賃料減額の交渉したところで、賃貸人が応じることはほぼありません。それどころか、賃貸人の信頼関係を破壊し、賃貸人から退去を求められる結果となりかねません。家賃減額交渉は慎重かつ適切に行いましょう。 |
まとめ
以上、今回は賃貸物件における賃借人の権利について、簡単にですが、ご紹介しました。
トラブルになった際には、当事者同士で解決することが望ましいですが、交渉が難航しそうな場合、または裁判手続以外に解決の見込みがない場合は、当事務所までお気軽にご相談ください。
当事務所では、家賃減額交渉、賃貸人からの建物明渡請求訴訟の代理人などを行ってきた実績があり、賃借人にとって最善の解決に向けて力を尽くしてきました。具体的事情をヒアリングのうえ、適切なアドバイスを行います。