COLUMN

コラム

【不動産シリーズ③】不動産の明渡執行~賃貸人の立場から

Q 私は不動産の賃貸オーナーをしておりますが、賃借人が賃料を支払わないので、賃貸借契約を解除し、賃借人に対して、建物明渡訴訟を提起しました。訴訟の判決は、「賃借人は明け渡せ。」という内容でしたが、賃借人に退去する気配を感じません。

このまま居座り続けられると賃料収入にも影響が出ます。何とかして退去してもらう方法はありますか?

A 判決文があるのであれば、必要書類を揃えて、裁判所に明渡執行の申立てを行うのが一般的です。

ただし、費用対効果を考えると、明渡執行は訴訟以上に費用がかかる場合がありますので、この手続を採るのは最終手段という位置付けになります。

交渉で任意に退去してもらえそうなのであれば、積極的に交渉を進めましょう。またその際、当事者同士では感情的になってしまうこともありますので、執行手続を行うかどうかも含めて、弁護士に相談することをお勧めします。

 

この記事では、任意での交渉による退去は叶わなかった場合の、建物明渡執行における債権者(賃貸人)が行う手続を中心に、簡単にご紹介します。

 

大まかな流れ

明渡執行手続に至った場合の大まかな流れは、以下の通りです。順に簡単にご紹介します。

債務名義等取得 → 申立て → 事前打合せ → 明渡催告 → 明渡しの断行

 

債務名義等取得から申立てまで

不動産明渡執行を申し立てるにあたって、一般的に必要とされる書類は概ね以下の通りです。事案によって、さらに追加の資料を求められることがあります。

執行力のある債務名義の正本
債務名義正本又は謄本の送達証明書
目的地までの地図
(確定しなければ効力を生じない債務名義の場合)確定証明書
(当事者が法人である場合)資格証明書
(代理人がいる場合)委任状

 

 【関連記事】 こちらもあわせて読みたい
♦ 強制執行に必要な執行文付与とは?

 

申立てから執行予納金納付まで

裁判所は基本的に費用を納付しなければ手続を進めません

費用(執行予納金)については、不動産明渡執行の場合、現金で納めることになります(電子納付も可能)。各裁判所によって金額が異なりますので、注意してください。

 

ちなみに、東京地裁の場合は、基本6万5000円で、債務者や物件が1つ増すごとに4万円加算されます。例えば、債権者1名、債務者1名、対象物件が2つの場合は、10万5000円となります。

 

執行予納金納付~事前打合せ

執行予納金納付後、執行官から強制執行をスムーズに行うための事前打合せの機会があります。

執行官は書面でしか不動産の情報について知り得ませんので、ここでは、催告の期日を決めるほか、執行手続をスムーズに行えるよう主に以下の点について執行官から聞かれます。

 

内容によっては、代理人弁護士では把握していないこともありますので、債権者(賃貸人)が同席を求められることもあります。

 

債務者の占有状況と態度

債務者の占有が明渡事件にとっては前提として大事になります。なので、明渡対象物件を占有している者が債務者本人なのか、第三者なのか、聞かれます。債務者本人以外であれば、執行することはできません

また債務者が現在も占有しているのか、すでに退去しているのかも聞かれることがあります。この後行う催告は、あくまで債務者の任意による退去を目指しますので、居住の有無は確認する必要があります。

さらに、債務者が明渡しに抵抗した場合に、スムーズな執行はできません。その場合、警察官の臨場を求めるか否かについて打ち合わせを行います。

 

執行業者・開錠技術者の手配の要否

債務者の態度にも関連しますが、債務者が明渡しに抵抗した場合、鍵をかけて立てこもることがあります。そうなると、スムーズに執行手続はできません。

このような場合に備えて、鍵の開錠技術者を手配することもあります

また債務者が物件内に家財道具や荷物を置いて退去した場合、これら残置物は債権者で搬出しなければいけません。

このような事態が予想される場合は、これら作業を行う専門業者に依頼するべきです。開錠技術者や専門業者は執行官が紹介してくれるのがほとんどです。

 

ちなみに、専門業者などを手配した場合、費用はケースバイケースですが、30万円から100万円、規模によってはそれ以上かかることがあります。

できるだけ任意で退去してもらうよう努めましょう。

 

事前打合せから明渡催告まで

執行官との打合せが終わったら、まずは占有者(債務者本人)に自発的に退去するよう催告をします。

この手続では、基本的に債権者(賃貸人)が行うことはありません。

 

明渡催告から明渡しの執行の終了まで

執行官による催告を受けた債務者は、断行日までには出ていくことがほとんどです。家財道具などを残して・・・。

残置物は、売却してもほとんど無価値の物もあれば、価値ある物もあったりします。なので、勝手に処分することはできません。

明渡しとともに、債権者が買い取って処分するか、一度倉庫に保管して後日売却手続を経ます。

実際に残置物が価値ある物かどうかの判断は、執行官が行います。

執行官によって価値ある残置物とされた場合、債権者(賃貸人)が明渡訴訟(債務名義を得るに至った訴訟)で未払賃料や賃料相当損害金を請求している場合には、その場で債権者に売却して債権者が処分をするという手続を採ることがあります。

 

このような場合に備えて、明渡訴訟では未払賃料等を請求しておいた方がよいでしょう。

残置物(動産)の処理が終わったら、新しい鍵と交換して、明渡執行は終了となります。

 

 【関連記事】 こちらもあわせて読みたい
♦ 動産執行の一般的な手続の流れ

 

まとめ

今回は、賃貸借契約解除から始まる不動産明渡執行について、債権者(賃貸人)が行うべき手続を簡単にご紹介しました。

不動産明渡執行は、費用が少なくとも数十万円以上はかかります。

費用対効果を考慮して、賃借人が任意に退去してくれそうなのであれば、積極的に任意で交渉を進めた方がよいでしょう。

当事者同士ではなかなか上手く事が進まないこともありますので、賃貸借契約解除に伴い賃借人が退去してくれないなどお困りの方は当事務所までご相談ください。

コラム一覧