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【不動産シリーズ④】建物収去土地明渡しの強制執行~代替執行

はじめに

例えば、土地所有者は、借地契約を締結して、土地を貸していました。借地人は、その土地上に建物を所有しています。その後、土地所有者は、借地人が契約に基づく債務を履行しなかったため、借地契約を解除して、建物を取り壊して、土地を明け渡してほしいと考えていたとします。

この場合、土地所有者は、借地人に対して、建物を取り壊して(収去して)、土地を明け渡せ、との訴え(建物収去土地明渡訴訟)を起こします。

裁判所での審理の結果、判決で、借地人は、建物を取り壊して、土地を明け渡せと土地所有者の訴え通りの内容となりました。

 

さて、本来であれば、債務者(借地人)が費用を出して、解体業者に依頼し、建物を解体します。しかし、債務者は費用の支出を惜しんでなのか、建物を解体しようとせず放置することがあります。

土地所有者としては、いつまでもこの状態を放っておくわけにもいきません。取り壊すべき建物がいつまでも自分の土地上にあっては有効利用することができないからです。

とはいえ、判決はあくまで債務者(借地人)が建物を取り壊せとしているので、勝手に土地所有者が取り壊すわけにもいきません。

そこで、採り得る手続が今回ご紹介する代替執行です。

 

建物収去命令(代替執行)申立てをするためには、建物収去と土地明渡両方の債務名義が必要となりますので、注意が必要です。

 

代替執行とは

文字通り、債務者が債務の履行を行わない場合に、債務者の費用をもって、第三者に代わりに履行してもらう手続をいいます。

つまり、債務者(借地人)が建物を取り壊さないのであれば、債権者(土地所有者)が代替執行により、自分で解体業者に依頼し、建物の解体を行うことができます。

上記具体例の他にも、他人の敷地内に物を置いて通行を妨害しており、その物の除去をしない場合(妨害物除去命令申立)、騒音を出す債務者が防音壁を設置しない場合(工作物除去命令申立)などでも代替執行が行われることがあります。

 

申立てから授権決定まで

建物収去命令申立書等を裁判所に申し立てた後、裁判所は、債務者を審尋します。

審尋をした結果、債務者の言い分に理由がない、または債務者が審尋に応じないなど裁判所が申立てを認容した場合、授権決定をします。

この授権決定によって、土地所有者は、自身または第三者が債務者に代わって建物を取り壊すことができるようになります(実務上、解体業者などに依頼することがほとんどです。)。

また、本来、費用は債務者が負担するものなので、あらかじめ債務者に支払わせる必要があります。そのため、実務上、建物収去命令申立てと同時に、代替執行費用前払決定申立てをします。その決定があれば、これを債務名義として、債権回収を行うことができます。

 

  債務者は、この授権決定に対して、執行抗告することができます。

 

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授権決定後から執行完了まで

授権決定がされると、執行力のある債務名義となり、執行文は不要となります。

この時、代替執行申立時に提出した債務名義を還付する手続をします。還付請求しないと、裁判所は預かったまま、当初の最終目的である土地を明け渡してもらうことができません(還付は良いのですか?と裁判所から言ってくれることもありますが、あまり期待しない方がいいです。)。

なぜなら、この代替執行は、あくまで建物を取り壊してもらうことに関する申立てだからです。ここに土地の明渡しは含まれていません

 

さて、建物を取り壊してよいと裁判所からお墨付きが出ました。

なので、建物を取り壊して、いよいよ当初の最終目的である土地明渡執行の申立てです。

一般的にですが、建物収去土地明渡執行の申立てに必要な書類は、以下の通りです。

代替執行に至った基本事件の債務名義(建物収去土地明渡請求事件であれば、その判決)

②①の送達証明書

授権決定正本

④③の送達証明書 など

上記①②が先ほど述べた還付請求で戻ってくる書類です。

建物収去土地明渡執行の場合、申立ては、建物収去だけではなく、土地明渡も含めることを忘れないようにします。

建物収去のみを執行申立てした場合、土地の占有は債務者に残ったままになってしまうことがあるので、改めて土地明渡の執行を申し立てなければなりません。

 

建物収去土地明渡の執行申立後、債権者と執行官は事前打合せを行い、執行当日の段取りを話し合います。場合によっては、警察官の立会いを求めることもあります。

執行当日、解体業者によって建物が収去された結果、収去後に出た動産類は、代替執行費用を請求債権として動産執行の手続に基づき債権者に売却するか、処分するという方法を採るのが一般的です。

 

これで、土地所有者は、建物を取り壊してもらい、土地を明け渡してもらうことができ、執行は完了です。

 

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最後に

以上、執行において少し特殊な代替執行について簡単にご紹介しました。

ご覧いただいた通り、かなり手続が複雑で、一つひとつの手続を丁寧、正確、迅速に行わなければなりません。

代替執行含め執行手続は、専門的な知識が必要となりますので、お悩みの方は当事務所までお気軽にご相談ください。

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