刑事告訴の必要な犯罪とは?親告罪について
はじめに
ほとんどの犯罪は、被害者等による告訴がなくても検察官が公訴(検察官が裁判所に事件の被疑者、俗にいう容疑者を刑事裁判にかけて有罪か無罪かを裁判所に判断してもらうこと)を提起することができます。
ただし、例外として、告訴がなければ公訴ができないとする犯罪があります。
このような犯罪を親告罪といいます。親告罪が存在する理由は、犯罪の性質上、被害者の名誉、信用等の保護、被害が軽微であることが多いこと、「法は家庭に入らず」の考えがあるとされています。
今回は、親告罪について、刑事告訴との関連を含め簡単にご紹介したいと思います。 |
親告罪とは
告訴がなければ公訴提起(検察官が刑事裁判を請求すること)のできない犯罪のことをいいます。もっとも、公訴提起はできないものの、警察などの捜査機関が事件の捜査を行うこと自体は、告訴が捜査条件とされているわけではないので、可能です。
判例でも告訴前の親告罪に関する捜査を認めています(最決昭和36・12・23刑集第14巻14号2213頁)。ただし、告訴がないと起訴はできませんから、警察が捜査をしても犯人を処罰することはできず、単に犯人の間で親告罪にあたる犯罪行為自体があったというだけで終わります。
刑法(特別法など含む)で規定されている犯罪の多くは非親告罪です。しかし、被害者のプライバシー保護などの理由から一部の犯罪については親告罪としています。
そして、親告罪には絶対的親告罪と相対的親告罪があります。
絶対的親告罪
告訴があることが公訴する条件となっている犯罪のことを絶対的親告罪といいます。
絶対的親告罪とされている犯罪は、主に以下のものがあります。
・過失傷害罪
・私用文書等毀棄罪
・器物損壊罪及び信書隠匿罪
・信書開封罪及び秘密漏示罪
・未成年者略取罪及び未成年者誘拐罪
・名誉毀損罪
・侮辱罪 など
刑法以外にも、著作権法における著作権侵害(著作者人格権、出版権など。一部を除く。)の罪なども親告罪とされています。 その他、強制わいせつ罪や強制性交等罪は絶対的親告罪とされていましたが、法改正により、非親告罪となりました。 |
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相対的親告罪
窃盗罪、横領罪、詐欺罪など通常は親告罪ではありませんが、犯人が被害者の親族関係者であるなど、犯人と被害者との間に一定の身分関係がある場合は、親告罪として扱われる罪をいいます。
・窃盗罪
・不動産侵奪罪
・恐喝罪
・背任罪
・横領罪
・業務上横領罪
・遺失物横領罪
・詐欺罪
・準詐欺罪
・電気計算機使用詐欺罪
告訴期間
告訴期間は、「犯人を知ってから6か月以内」とされています。告訴期間を過ぎてしまっている場合、告訴を行おうとしても、警察は受理してくれません。
→犯人については、氏名住所、顔、連絡先まで把握している必要はありませんが、「誰なのか」が分かる程度に犯人であると明確に特定できる程度の情報を得た日を基準とします。
刑事告訴が受理された後の手続
刑事告訴を提出し、警察によってそれが受理されると捜査が始まります。
事件の内容や被疑者の属性にもよりますが、重大犯罪であったり被疑者が住居不定で逃亡するおそれが高かったりなど一定の条件が整っていて警察が必要だと判断した場合は、被疑者を逮捕します。
他方、軽微な犯罪や慎重に捜査を進める場合には、まずは警察で証拠を収集した上で、被疑者を任意の取調べとして警察署に呼び出し、取調べを行います。ここで、被疑者が何度も呼び出しをドタキャンしたり、あるいはそもそも呼び出しに応じないなどであれば、逮捕した上で取調べを行うことが多いです。
刑事告訴が受理された後は、基本的にあとは警察の判断でどのように捜査を進めていくかになりますが、ケースによってはさらに被害者に対しても事情を聞かれたりすることもあります。また、逮捕後にも、被疑者からの取調べ内容を元にして、更に被害者からも事情を聴く必要があれば警察署に出向いて調書を作成することがありますが、被害者の方の呼び出しの日時については警察は柔軟に対応してくれます。
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親告罪で刑事告訴するときの3つの注意点
1 告訴不可分の原則
親告罪の告訴の効力として、告訴不可分の原則があり、客観的不可分の原則と主観的不可分の原則があります。告訴不可分の原則は、親告罪のみに適用されますので、非親告罪には適用されません。
客観的不可分の原則
一つの犯罪事実の一部について、告訴または告訴の取下げがあった場合は、その犯罪事実の全てに効力が及ぶとする原則です。
例えば、被害者が親告罪である過失傷害罪と非親告罪である住居侵入罪の被害に遭った場合において、被害者が過失傷害罪についてだけを刑事告訴をしたときは、刑事告訴の効力は住居侵入罪にも及びます。他方、住居侵入罪だけを刑事告訴したときは、住居侵入罪のみに刑事告訴の効力が及び、過失傷害罪は及びません。
主観的不可分の原則
親告罪について、共犯者の一人または数人に対して告訴または告訴の取下げがあった場合は、他の共犯者に対してもその効力が生ずる原則です(刑事訴訟法238条1項)。
例えば、2人が共同して器物損壊罪を犯したケースにおいて、被害者が犯人2人のうちの1人に対して告訴をすれば、自動的に、もう一人にもその告訴の効力が及ぶということです。複数犯のうち、「この人だけ告訴して、あの人は許してあげたい。」ということは出来ないということです。
つまり、主観的不可分の原則は、犯人単位で告訴が不可分であるということを意味します。
ただし、例外として、共犯者の一人が親族である場合は、その親族に告訴不可分の原則は適用されません。 |
2 刑事告訴を取り下げたら、再度の刑事告訴はできない
親告罪の刑事告訴は、告訴してから公訴提起があるまではいつでも刑事告訴を取り下げることができます。また一度刑事告訴を取り下げた場合、再度刑事告訴をすることはできません。
非親告罪の場合は、刑事告訴を取り下げたとしても、そもそも公訴に告訴は必要とされませんので、再度刑事告訴することができると考えられています。ただし、実際のところ、一度告訴を取り下げたものを再度告訴しようとしたりすると、警察は相当な拒否反応を示します。
3 告訴期間を経過してしまうと刑事告訴ができなくなる
先ほどご紹介したとおり、親告罪の告訴期間は犯人を知ってから6か月以内と定められていますので、それを過ぎると刑事告訴をすることができません。
期間が経過する前に、刑事告訴するためにも速やかに弁護士に相談しましょう。 |
犯罪被害にあったら弁護士にご相談を
ここまで刑事告訴にあたって必要条件である親告罪について簡単にご紹介しました。
刑事告訴は、犯罪の種類に応じて記載する構成要件など内容が異なっていたり、専門的な知識を要する手続です。
被害者が自ら刑事告訴をすることもできますが、警察が色々と理由をつけて告訴を受理してくれないなど、対応してくれないケースも多々あります。
しかし、そのような場合であっても泣き寝入りする必要はありません。
警察には、本来、告訴を受理しなければならない義務があるからです(犯罪捜査規範63条)。一人では難しいと思われる刑事告訴でも、弁護士であれば刑事告訴の受理から犯人からの被害金回収まで一括で行うことができますので、精神的負担は軽減されます。
犯罪被害に遭われた方、刑事告訴で警察の対応に不満をお持ちの方は、お気軽に当事務所までご相談ください。より早期に被害回復できるようサポート致します。