強制執行の妨害に関する罪
強制執行手続は、いわば債権者が債務者から金銭的な満足を得るための最終手段です。
こうした債務者またはその関係者からの強制執行を妨害する行為について刑事罰を科しています。
適正な手続により強制執行まで行った債権者の権利実現を保障し、強制執行手続の適正な運用を確保しています。
今回は、債務者またはその関係者が強制執行を妨害するとどのような罪に問われるのか、簡単にご紹介します。 |
強制執行妨害目的財産損壊等の罪
強制執行を妨害する目的で、以下の妨害行為をした場合、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金、またはこの両方に処せられます(刑法96条の2)。
財産の隠匿
隠匿とは、強制執行の対象となる、もしくはなり得る財産の発見を不能または困難にすることをいいます。
物理的な隠匿のほか、財産の所有関係や発見を不明ないし困難にするような場合も含まれます。なので、例えば、自己の銀行預金を払い戻した時点で隠匿行為に当たるとみなされます(広島高裁令和2年1月21日判決)。一度払い戻されてしまうと現金となって事実上差押えが非常に困難になるため、隠匿したものとみなす扱いがされています。
その他には、払戻しを受けた金銭を他人名義の口座に入金する行為、債務者の所有物件を仮装の競落人の所有にさせた行為なども隠匿行為とされます。
財産の損壊
損壊とは、財産を破壊し、またはその価値を滅失・減少させる行為をいいます。
財産の仮装譲渡
実際には譲渡する意思がないのに、第三者と通謀して、形式上財産が第三者の所有になっているような外観を作出することをいいます。
外観を作出するという表現は少し難しい表現になりますが、平たく言うと、客観的に債務者ではない第三者の名義になっている状況にすることをいいます。
仮装にあたるか否かの判断は利用実態で判断されることが多く、例えば、名義人は第三者だが、実際に利用している者はこれまでと変わらず債務者であるような場合は、仮装といえます。
この他、第三者が債務者との通謀なしに、強制執行の目的財産を譲り受けたと主張して強制執行を妨害した場合も仮装譲渡に含まれます。
債務負担の仮装
例えば、架空の公正証書により債務を負担する行為、第三者と通謀して抵当権を設定する行為など、実際には債務の負担がないのに、債務があるかのように仮装することは本罪が適用されます。
財産の現状改変など
例えば、建物に不必要な増改築をして区分所有権を設定して財産の現状を改変させたり、土地に大量の廃棄物を搬入したりして強制執行費用を増大させるなどの行為は強制執行妨害目的となることがあります。
無償譲渡・権利の設定
仮装でなくても、無償で譲渡したり、相場よりも著しく低い金額で財産を譲渡した場合は、処罰の対象となります。
強制執行行為妨害の罪
偽計又は威力を用いるなど強制執行の行為を妨害した場合、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金、またはこの両方に処せられます(刑法96条の3第1項)。
本罪は、執行場所における執行官に対しての行為について罰するものなので、例えば、敷地内に猛犬を放し飼いにするとか、占有者を日に日に入れ替えるなど強制執行行為を妨害した場合は処罰されます。
また債権者やその代理人に対して、強制執行の申立てをさせないよう暴行または脅迫する行為も適用となります(刑法96条の3第2項)。 |
強制執行関係売却妨害の罪
偽計又は威力を用いて、強制執行において行われ、又は行われるべき売却の公正を害する行為をした場合、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金、またはこの両方に処せられます(刑法96条の4)。
例えば、執行官に対して競売物件の占有者が虚偽の賃借権を主張し、現況調査報告書にその旨記載させる行為、不動産競売開始決定前に短期の賃貸借契約を締結した旨の虚偽の契約書を裁判所に提出する行為などです。
また「公正を害すべき行為」とは、一般的に、強制執行における売却が参加者の公正かつ自由な競争によって行われることを阻害する行為をいいますので、裁判所に備え付けの物件明細書に暴力団の名刺を挟み込む行為なども売却妨害とされます。
まとめ
今回は、強制執行に関する刑事罰についてご紹介しました。
強制執行は国家作用のため、妨害行為をすると刑事罰を受ける可能性があります。
債権者からすれば、強制執行にあたり執行官と打合せを行う機会がありますので、そこで債務者の態度や人柄などを話し、場合によっては警察官に臨場してもらうことも検討する必要があります。
他方、債務者からすれば、債権者が申し立てているとはいえ、実際の手続は執行官(国家作用)によるものですので、それを妨害すれば重い罪となります。強制執行手続に至ってしまった場合には、上記行為に及ぶようなことはせず、適切な対応が求められるところです。