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器物損壊罪で刑事告訴したいとき

器物損壊罪とは

他人の物を、わざと壊したり傷つけたりしたときに成立する犯罪です(刑法261条)。

法定刑は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料です。

 

今回は、器物損壊の被害に遭ったときの刑事告訴の注意点などについて簡単にご紹介します。

 

器物損壊罪の構成要件

器物損壊罪が成立するためには、①他人の物を損壊又は傷害すること、②故意、③他人の物が損壊又は傷害されたこと(結果)、が必要です。

 

① 「他人の物」を「損壊」又は「傷害」すること

まず「他人の」とあるので、自分の物であれば損壊しても問題ないように思われますが、自己の物であっても、差押えを受けた物、賃貸している物、配偶者居住権が設定されている物については損壊することを禁止しています(刑法262条)。これらは、一般的に所有者といえども自由な処分は許されない性質のものです。

「物」とは、動産のほか、不動産も含まれます。

ただし、物であっても、文書と建造物に対する損壊行為は、器物損壊罪からは除外されています。文書については公用文書等毀棄罪(刑法258条)、私用文書等毀棄罪(同259条)、建造物については建造物等損壊罪・同致死傷罪(同260条)の罰則が適用されるためです。

 

法定刑は、公用文書等毀棄罪が3月以上7年以下の懲役、私用文書等毀棄罪が5年以下の懲役、建造物等損壊罪が5年以下の懲役となっていますので、器物損壊罪よりもかなり重い刑罰といえます。

 

「損壊」とは、物理的な破壊のみならず、その物を本来の目的では使えなくする行為も含みます

損壊に似た言葉として破損もありますが、破損には心理的に物を使用することができなくすることも含みます。例えば、食器等に放尿した実際の事例で、心理的にその食器はもう使用できないということで、器物損壊罪の成立が認められた有名な判例があります。

その他にも、窓ガラスを割る、店の看板を壊す、自動車のタイヤをパンクさせる、敷地を掘り起こして作物を植える、塀にスプレーで落書きをする、他人が飼うペットを逃がす行為も損壊行為とされています。

次に「傷害」とは、器物損壊罪における障害は物に対する傷害なので、専ら動物に対する損壊を意味することになります。

つまり、他人の動物を殺傷したり、逃がしたりすれば本罪の傷害行為にあたる可能性があります。他方、自分が飼っている動物、野良犬、野良猫といった所有者が存在しない動物については、動物愛護管理法が適用されます。

 

【参考】動物愛護管理法44条1項

愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する。

 

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② 故意

器物損壊罪は、故意(平たく言いますと、わざと、意図的)が必要とされますので、不注意などの過失で損壊してしまった場合、自分の物だと勘違いして壊した場合などは罪に問われません。

ただし、刑事上の責任を問われなくても、民事上の責任はまた別です。

 

酔った勢いでお店の看板を壊したというように、心神喪失状態にあったときは罰せられませんが(刑法39条1項)、実務上、「酔って覚えていない」だけの理由では心神喪失状態にあったと認められる可能性はかなり低いです。

 

③ 結果の発生(他人の物が損壊したこと)

器物損壊罪には未遂についての規定がありませんので、他人の物を壊そうとしたが、結果壊れなかったときは器物損壊罪には問われません。

 

器物損壊罪以外の犯罪で犯人が逮捕される可能性も

器物損壊罪で刑事告訴をし、警察による捜査が進む過程の中で、器物損壊罪以外の容疑で加害者が逮捕される可能性があります

 

例えば、損壊行為の途中で止めに入った相手にケガを負わせると傷害罪(刑法204条)、落書き目的で施設に侵入すると建造物侵入罪(同130条)、さらに女性の背後から体液をかけたような事案では、器物損壊罪や暴行罪(同208条)の他、場合によっては不同意わいせつ罪(同176条)が適用される可能性があります。

 

器物損壊被害で刑事告訴をするには?

器物損壊罪は親告罪です。そのため、被害者からの告訴がなされない限り加害者が起訴されることはありません。

器物損壊の被害は、あくまで物の損壊ですので、被害金が弁償されれば一応解決する問題でもあります。そのため、被害者が刑事事件として立件してほしいと望まない限りは、被害者の意思を尊重しようという考えに基づくものです。

親告罪の告訴期間は被害者が犯人を知ってから6か月です。犯人についてはある程度特定できるくらいまでの情報は必要ですが、どこの誰という具体的な特定までは必要とされません。

ただし、客観的な証拠に基づいて刑事告訴をした方がより受理されやすくなりますので、例えば犯人が損壊行為をしている様子がわかる防犯カメラの映像や損壊行為によってどのような損壊被害に遭ったのかがわかる写真のほか、目撃者の証言なども有効となるでしょう。

なお、一定期間が経過すると自動的にデータが消去される防犯カメラもありますので、証拠の収集の際には注意が必要です。

 

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