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業務妨害罪で刑事告訴をしたいとき

はじめに

ある人が嫌がらせやいたずら目的で、ある店舗に何度も電話をした場合、他人の業務を妨害したとして逮捕される可能性があります。

ニュースなどで「偽計業務妨害罪で逮捕」というフレーズは聞いたことがある人も多いと思います。

 

今回は、実際に、どのような行為をすると業務妨害罪に問われるのか、また業務妨害の被害に遭ったときにどのような法的手続で加害者に責任を問えるのか、について簡単にご紹介したいと思います。

 

業務妨害罪とは

業務妨害罪といっても、刑法に規定されている犯罪は、次の3つがあります。

 

偽計業務妨害罪(刑法233条後段)
威力業務妨害罪(刑法234条)
電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法234条の2)

 

つまり、業務妨害罪と言えば、これら3つの犯罪の総称とでも理解しておけば問題ありません。

 

さて、「業務」妨害と言いますが、具体的にどのような行為が業務といえるのでしょうか。

業務と言うと、仕事を連想する人も多いかもしれませんが、実は仕事に限られません。

一般的に、業務とは、人が社会生活上の地位に基づいて反復継続して行う行為をいいます。

そのため、娯楽として行う行為や日常の家庭生活は業務に当たりませんが、サークルなどの団体活動、ボランティア活動、セミナーなど社会的に仕事と評価されないものでも、こうした文化的・精神的な活動は法律上の業務として業務妨害罪の保護を受ける可能性があります。

 

業務妨害罪には未遂規定がない

業務妨害罪には未遂規定がありませんので、例えば、ネット上でイベントに対する爆破予告をして、避難のため、イベント業務が妨害されたというようなケースでは、爆破予告という妨害行為をした時点で業務妨害罪が既遂となり、逮捕される可能性があります。

 

偽計業務妨害罪

偽計業務妨害罪は、偽計を用いて、その業務を妨害したときに成立する犯罪です(刑法233条後段)。

偽計」とは、人を欺き、人の錯誤や不知を利用することを意味します。

平たく言いますと、相手を騙す、または虚偽の情報を流すという方法が偽計とされます。

 

例えば、虚偽の電話注文により配達させる行為、行くつもりが全くないのに飲食店に予約を入れる行為、口コミを利用して嘘の情報を流す行為は偽計に当たります。

 

信用毀損罪

少し脱線しますが、偽計業務妨害罪に関連して、信用毀損罪(刑法233条前段)についてもここで簡単にご紹介します。

信用毀損罪は、信用、つまり人の経済的側面における人の評価(商品の品質に対する社会的信頼も含まれます。)を「虚偽の風説の流布」又は「偽計を用いて」毀損するときに成立します。

ここで、「虚偽の風説の流布」という少し難しい言葉がありますが、平たく言えば、客観的事実に反する噂や情報を不特定または多数人に伝えることをいいます。

名誉毀損罪でも虚偽の事実は取り上げられますが、名誉毀損罪とは異なり、公然性や業務を行う相手に向けられる必要がありません。また必ずしも直接に不特定または多数人に告知することも必要ありません。

さらに「毀損する」とあります。これは人の信用を低下させるおそれのある状態を発生させることをいい、現実に低下させたことまでは必要ありません(これを法律用語では抽象的危険犯といいます)。

そのため、一般的には、人の信用を毀損すべき虚偽の風説を流布したり、偽計を用いたりすれば既遂となると考えられています。

 

したがって、例えば、あの会社は倒産寸前だとか、あの店で食中毒が出たといった虚偽の情報を流した時点で、その行為は「虚偽の風説の流布」にあたり、信用毀損罪が成立する可能性があります。

 

威力業務妨害罪

威力業務妨害罪は、威力を用いて人の業務を妨害したときに成立する犯罪です(刑法234条)。

「威力」とは、人の自由意思を制圧するに足る勢力の使用をいいます。暴行、脅迫は勿論、社会的地位や権勢、集団的勢力の利用も含まれます。

実際に威力にあたると判断された判例の中には、総会屋が株主総会の議場で怒号する行為、弁護士を困らせようとして、弁護士が持っていた鞄を奪い取って隠匿する行為、官公庁や施設に爆破予告のメールをする行為、強い口調で何度もクレームを繰り返す行為、があります。

 

偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪の刑罰

こうした偽計または威力業務妨害罪で逮捕されると、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

軽はずみな動機や危害を加えるつもりはなかったとしても、実際に他人の業務を妨害したとされれば偽計業務妨害罪または威力業務妨害罪が成立し、厳しい刑罰を受ける可能性があります。

 

電子計算機損壊等業務妨害罪

これまで見た業務妨害罪は主に人に対する行為ですが、電子計算機損壊等業務妨害罪はコンピューターに対して業務妨害行為が行われるというところに違いがあります。

例えば、勤務先のサーバーにアクセスし、顧客データや取引データを削除する行為、ゲームプログラムを改変して意図しない動作を繰り返させる行為、コンピューターウイルスによって不正なプログラムを実行させる行為などが電子計算機損壊等業務妨害罪に当たる可能性があります。5年以下の懲役または100万円以下の罰金となります。

 

業務妨害の被害を訴えたいとき

被害届と刑事告訴

加害者に刑事責任を問いたいのであれば、被害届刑事告訴がありますが、被害届は被害があった事実を申告するにとどまります。

 

刑事告訴とは、犯罪の事実を警察に申告し、処罰の意思表示を示すことをいいます。

業務妨害罪は親告罪ではありませんので、被害者が刑事告訴をしなくても犯罪が発覚した時点で警察が捜査することになります。

したがいまして、被害を訴えるためには必ずしも刑事告訴をしなければいけないわけではありませんが、刑事告訴をした場合、捜査機関はこれを受理しなければいけませんので(犯罪捜査規範63条)、捜査機関に捜査開始が義務付けられることになり、加害者を罰せられる可能性が高まります。

 

加害者に対する処罰の意思表示を警察にしたいのであれば、刑事告訴の方がより効果的でしょう。

 

民事上の損害賠償請求

刑事告訴をしたことで、加害者に心理的な被害弁償の動機が働くことがあります。

民事と刑事は別手続とはいえ、刑事告訴をすることで被害回復ができる可能性もあります。

勿論、加害者の中にはこうした動機が働かない場合もあります。そのような場合には、やはり民事上の損害賠償請求で被害回復を図ることになります。

 

被害を訴えたいときの注意点

業務妨害の被害を訴える場合には、刑事責任を問いたいのであれば被害届と刑事告訴、民事責任を問いたいのであれば損害賠償請求、がありますが、これら手続を行うにあたって、いくつか注意点があります。

 

証拠集め

まず証拠の収集です。ある程度の証拠がなければ、加害者に法的責任を問うことは難しくなります。具体的には、クレーム電話であれば録音、口コミによる業務妨害であれば投稿画面、この他にも防犯カメラの映像も効果的といえます。

具体的にどの程度の証拠が必要かは、ケースバイケースですので、最寄りの警察または弁護士に相談することをお勧めします。

 

場合によっては発信者情報開示請求を

例えば、口コミによって業務妨害されたというようなケースでは、多くが匿名での投稿です。そのため、加害者を特定するためには発信者情報開示請求から行うケースがあります。

ただし、発信者情報開示請求は、近年法改正により、簡易な手続が創設されましたが、専門的な知識が必要となりますので、弁護士に相談することをお勧めします。

 

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最後に

業務妨害の被害に遭った場合に、刑事告訴をすれば加害者に刑罰を科せる可能性があるとともに、民事上の損害賠償請求で被害金を回収できる場合もあります。

業務妨害の被害に遭った方は、お気軽に当事務所までご相談ください。

当事務所では、これまで業務妨害のみならず、詐欺、窃盗といった犯罪でも刑事告訴を行い、その多くで受理されてきた実績があります。事実関係や実際の被害状況をお聞きしながら、加害者に対して刑事責任を負わせるために、警察とも連携しながらサポート致します。

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