恐喝罪・恐喝未遂罪で刑事告訴したいとき
はじめに
Xは、遊ぶ金欲しさに、Aに「金を出せ。出さなかったら車でさらってボコボコにするぞ。」と脅した。Aは、自分の身に危害を加えられるかもしれないという恐怖心から、Xに1万円を渡し、Xはこれを受け取った。
このようなケースでは、Xは恐喝罪に問われることはなんとなくお分かりになると思います。
今回は恐喝罪の概要から、恐喝被害に遭ったときの刑事手続について簡単にご紹介します。 |
恐喝罪とは
人を恐喝して財物を交付させること(刑法249条1項)、及び、財産上不法の利益を得または他人に得させること(同条2項)によって成立する犯罪です。
つまり、暴行または脅迫によって相手を畏怖させ、それに基づく交付行為によって財産を取得する罪です。
この場合、10年以下の懲役に処せられます。
暴行罪・脅迫罪との関係
恐喝罪が成立する過程の中に、暴行または脅迫とありますが、恐喝の手段として暴行または脅迫を用いて恐喝罪が成立した場合、暴行罪と脅迫罪は成立しません。
暴行罪と脅迫罪が成立しないというより、恐喝罪が成立するのであれば暴行罪や脅迫罪は恐喝罪に吸収されるという考えになります。
脅迫罪の法定刑は2年以下の懲役又は30万円以下の罰金、暴行罪の法定刑は2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料ですので、恐喝罪のそれより軽いです。平たく言えば、より重い罪が成立するのであれば、そちらで処理するということです。
勿論、恐喝罪が成立しなければ、暴行罪または脅迫罪が成立する余地があります。 |
強盗罪との違い
強盗罪は、暴行または脅迫を手段とする点で恐喝罪と共通ですが、強盗罪は、相手の反抗を抑圧して、その意思に反して財産を取得する点で恐喝罪と異なります(恐喝罪の場合には、相手方の犯行を抑圧するに至らない程度の暴行または脅迫の場合に成立します)。
恐喝罪の構成要件
恐喝罪は、①人を恐喝する、②恐喝により人に財物を交付させたときに成立します。
①恐喝行為
恐喝とは、人を畏怖させるに足りる脅迫または暴行であり、相手の反抗を抑圧するに至らない程度のものをいいますが、困惑させる程度では足りないとされます。そして、恐喝行為が行われれば、未遂とされます(刑法250条)。
脅迫とは、害悪を告知することです。脅迫罪におけるのと異なり、加害する対象には限定がなく、相手またはその親族の生命、身体、自由、名誉、財産に対するものに限られません。
つまり、「車でさらってボコボコにするぞ」、「痛い目に遭わすぞ」というように、何らかの法益侵害の危険があることを示す行為は恐喝にあたります。
勿論、暴行も恐喝に含まれます。暴行を加えられ、それが反復されると相手に思わせることにより、相手を畏怖させられるからです。暴行は、直接に相手の身体に加える必要はなく、物や第三者に加えても暴行となり得ます。
したがって、冒頭のケースで言いますと、Xが Aに「金を出せ。出さなかったら車でさらってボコボコにするぞ。」と申し向けた行為は、恐喝となります。
②交付行為
恐喝罪における交付行為は、相手の畏怖に基づいて行われることが必要です。
つまり、①の恐喝行為を行い、相手を畏怖させた結果、相手の意思に基づいて財物の占有を移転させる交付行為により、財物が行為者または第三者に移転するということです。
したがって、事例では、XのAに対する恐喝行為によりAは恐怖を感じ、これに基づいて1万円を渡し(交付行為)、財物である1万円がXからAに移転した、ということになります。
権利行使と恐喝罪
さて、恐喝罪が成立するか度々問題となるケースがあります。それは、権利行使の手段として恐喝行為を行った場合です。
例えば、Aは、Bに高価な時計を貸したが、なかなか返却しないBに対して、脅して返却を求めた場合はどうでしょうか。
時計はBにとって他人の財物とみなされ、Aが恐喝行為によりBを畏怖させ、Bの占有する時計を交付させた以上、恐喝罪の構成要件該当性は否定されませんが、社会通念上、占有者(B)に受忍を求める限度を超えない場合は違法性が阻却されます。
つまり、自己所有の特定物を恐喝によって取り戻すような権利行使をした場合、占有者に受忍を求める限度を超えるものでなければ、違法性があったとは認められないということになります。
受忍限度を超えるかどうかについては、交付させた行為に必要性や緊急性があったか、手段は相当であったか、権利行使に対して占有者(B)はどのような対応をしたのか、などから判断されます。 したがって、占有者Bに返却する意思がないときや返却期限があってそれが守られていなかったというような事情があった場合などは違法性があったとはいえないでしょう。 |
恐喝被害に遭った場合は弁護士または警察に相談を
恐喝の被害を受け、警察に被害届の提出や刑事告訴の受理がなされると、それが捜査の端緒となり、警察が捜査を開始するきっかけとなります。警察の捜査が恐喝犯に及ぶことにより、恐喝被害が止まる可能性があります。
さらに、捜査の過程の中で、ケースバイケースですが、加害者から示談の申し入れがなされることもあり、そこで被害回復を図ることもできます。
ここまでご紹介しましたとおり、恐喝はその行為のみで未遂で加害者を処罰できる可能性があります。
相手から受けた行為が暴行なのか、脅迫なのか、恐喝なのか、概念だけではなかなか判断がつきにくいかもしれません。そのような場合は、最寄りの警察や弁護士に相談することをお勧めします。
当事務所では、これまで窃盗、詐欺の被害に遭われた方に代理して刑事告訴手続を数多く行ってきました。刑事告訴は特に専門的な知識や捜査機関に内容を理解してもらうための主張展開が求められます。
恐喝を始め刑事被害に遭われた方はお気軽に当事務所までご相談ください。
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