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ハラスメント行為に関する犯罪~被害者の立場から

はじめに

働き方の多様化など働きやすい職場作りにしようと社会全体で高まっている中、セクシャルハラスメント、パワーハラスメント、アルコールハラスメントなどの嫌がらせ、いわゆるハラスメントについては厳しい目が向けられています。

ハラスメントに関連した近年の法改正でいいますと、令和2年にパワハラ防止法が改正・施行され、令和4年からはすべての企業に対しハラスメントを防止するための適切な措置を講じるよう義務付けられています

しかし、実際に行為者の行為がハラスメントに該当するかどうかの判断は個人に委ねられているところもあり、かつケースバイケースです。

ご自身が受けた行為がハラスメントにあたるかどうかは、労働基準監督署内にある総合労働相談コーナーや最寄りの警察署、弁護士に相談することをお勧めします。

 

この記事では、ハラスメント被害に遭われた方がどのような法的手続を行うことができるのかについて簡単にご紹介します。

 

ハラスメント行為によって成立し得る犯罪

ハラスメント行為によって成立する可能性がある犯罪は、多くあります。例えば、暴行を受け、傷害を負った場合は傷害罪(刑法204条)、傷害に至らなかった場合は暴行罪(刑法208条)、脅迫を受けた場合は脅迫罪(刑法222条)が挙げられます。

その他にも、ハラスメントをした行為者による暴行又は脅迫行為によって、性交等の被害を受けた場合は不同意性交等罪(刑法177条)、性交等に至らない場合は不同意わいせつ罪(刑法176条)、公然と事実を摘示して名誉を毀損された場合には名誉毀損罪(刑法230条)、事実を摘示せずに侮辱した場合は侮辱罪(刑法231条)も成立する余地があります。

 

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刑事責任の追及

これまでご紹介したハラスメント行為の態様や程度、行為者のその後の対応次第では、被害届の提出刑事告訴により、行為者に対する刑事責任を追及できる可能性があります。

 

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被害者保護制度

ハラスメントなど密室で行われることが多い犯罪の場合、刑事責任を追及するためには、被害者にも裁判で証人として証言してもらう場面が出てきます。勿論強制ではありませんし、証言するにあたっては不安や負担を和らげるための制度や裁判に被害者自ら参加する制度が設けられています。これを被害者保護制度といいます。

被害者保護制度は、刑事訴訟法と犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(犯罪被害者保護法)に基づきそれぞれ措置を講ずるよう求めることができます。以下では採り得る主な措置の概要についてご紹介します。

 

被害者参加制度

殺人、傷害、不同意性交など一定の刑事事件の被害者等もしくはその法定代理人またはこれらの者の代理人弁護士は、裁判所の許可を得て、被害者参加人として刑事裁判に参加することができます(刑事訴訟法316条の33)。

 

裁判の優先的傍聴

被害者やその親族等が事前に傍聴を裁判所に申し出ることで、優先的に傍聴席が確保されるよう配慮されています(犯罪被害者保護法2条)。

 

被害者の特定事項を明らかにしない措置

事前に検察官に申し出た上で、被害者が自身の氏名や住所等を明らかにしないよう求めることができます(刑事訴訟法290条の2)。

 

不安等緩和の措置

被害者が法廷で証言する際の措置として、証人への付添い、遮へいといった措置を講ずることができます(刑事訴訟法316条の39)。

 

刑事和解

被害者と行為者との間で、刑事事件に関連する民事上の争いについて合意が成立した場合、裁判所に対し、共同して合意の公判調書への記載を求める申立てをすることができます(犯罪被害者保護法19条)。

記載されたときは、裁判上の和解と同一の効力を有することになり、被害者は、行為者に対し、民事上の損害賠償請求を行うことなく、行為者から債務の履行がなかったときは公判調書に基づき強制執行の手続を採ることができます。

 

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損害賠償命令

一定の犯罪類型について、刑事裁判において審理の対象となった犯罪事実に基づき被害者が損害賠償請求にするにあたって、刑事裁判を担当した裁判所が民事の審理も行い、行為者にその賠償を命ずる手続を求めることができます(犯罪被害者保護法23条)。

つまり、刑事裁判の結果を民事にも利用することで、被害者の負担を減らすことができます

裁判所は有罪判決の言い渡し後、刑事事件記録を証拠として取調べ、損害賠償命令申立てについて決定をします。この決定に対して、当事者のいずれもから異議がなかった場合は、民事訴訟の確定判決と同一の効力を有することになり、強制執行の手続を採ることができます。

 

まとめ

ハラスメント行為に関する犯罪について、特に刑事責任の追及は、ハラスメント行為に該当するかどうかも含めて、当該行為の態様や程度、被害者の処罰感情、被害届の提出または刑事告訴により刑事処分が下されるのか(起訴か不起訴か)を考慮して慎重に検討する必要があります。

ハラスメント行為についてお悩みの方は一度当事務所までご相談ください。

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