痴漢で後日、逮捕される可能性はあるか?
目次
痴漢行為は被害者や目撃者に取り押さえられれば現行犯逮捕になる
ニュースでも度々報道されますが、痴漢行為は電車内や路上で行われるケースが多く、電車内であれば被害者や目撃者によって取り押さえられた場合は現行犯逮捕になります(刑事訴訟法第213条)。
しかし、取り逃がしてしまったり、犯人がその場から立ち去ったような場合は必ずしも現行犯逮捕に至らないことがあります。
痴漢行為をしてその場から逃げてしまったが、後日逮捕されることはあるのか不安である、という相談が寄せられることがあります。
「痴漢は現行犯以外では捕まらない」は本当?
結論から申し上げると、嘘です。実際に後日捕まったケースはいくらでもあります。
よくネットでは「痴漢は現行犯以外は捕まらない」という情報がありますが、事実ではありません。
痴漢行為をしてその場から逃げたとしても、後日、逮捕状をもった警察官が訪ねてきて逮捕されるケースはあります(交通違反も同様で、現行犯でないと捕まらないと信じ込んでいる方がいますが、同様に嘘であり、後日捕まることはあります)。
後日逮捕されるケースは?
では、痴漢行為で後日逮捕(通常逮捕)されるケースはどのようなものがあるのでしょうか。
後日逮捕(通常逮捕)の要件を踏まえて解説します。
まず捜査機関が被疑者を通常逮捕するためには、①被疑者が犯人であるといえる相当な理由があること、②逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがあること、が必要です。
① 被疑者が犯人であるといえる相当な理由があること
相当な理由付け(犯人特定)として重要なのが証拠です。痴漢行為の場合、犯人特定につながる証拠としては、防犯カメラや交通系ICカード、またケースとしては少ないですがDNA情報が挙げられます。
電車内での痴漢であれば、駅構内や電車内(都心の電車では天井にカメラが設置されている車両も多いです)に設置された防犯カメラから痴漢行為の態様や犯人の足取りを追います。路上であれば、近隣の家屋や施設に設置された防犯カメラから特定を数珠つなぎのようにつなげて特定に至るケースもあります。
また交通系ICカードの情報から鉄道会社に照合をかけ、個人情報を特定することもあります。
さらに、女性の下着や膣内からDNAが採取され、かつ前科前歴があれば捜査機関に登録されているDNA情報と照らし合わせて特定に至るケースもあります。
こうした客観的情報又は資料などから被疑者を特定し、犯人であるといえる相当な理由付けを積み上げていくのです。
② 逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがあること
例えば、被害者に取り押さえられそうになったため、逃亡したというような場合は、捜査機関から逃亡のおそれがあると判断され、通常逮捕の要件を満たすことになります。
痴漢で逮捕されると問われる罪は?
痴漢をした場合、刑法上の不同意わいせつ罪(刑法176条。法定刑は6月以上10年以下の拘禁刑)、不同意性交等罪(刑法177条。法定刑は5年以上の有期拘禁刑)の他、都道府県の迷惑防止条例違反に問われる可能性があります。
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痴漢で後日逮捕される不安はなくならない?
以上の通り、痴漢行為は現行犯以外であれば、いつ逮捕されてもおかしくないといえます。
では一生涯逮捕される不安に駆られながら過ごさないといけないかというとそうではありません。
犯罪が終わった時から一定期間を過ぎると犯人を処罰することができなくなります。これを公訴時効(又は公訴期間)といいます。
痴漢行為の場合、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪に問われることになりますが、公訴時効は、不同意わいせつ罪が12年、不同意性交等罪が15年、東京都の迷惑防止条例違反が3年間、軽犯罪法違反が1年間、とされています(痴漢行為で軽犯罪法違反に問われるケースは少ないです。)。
不安なときは自首のご相談を弁護士へ
痴漢行為をしてしまい、後日逮捕されることに不安を抱えているのであれば、自首することによって後日逮捕を回避できる場合があります。
自首とは、犯罪又は犯人、あるいはその両方が捜査機関に発覚する前に、自発的に捜査機関に対して自らの罪を申告し、その処分を委ねることをいいます。
自首するということは、捜査機関に対して、自ら罪を申告して身元を明かし、刑事処分を委ねる行為ですから、逃亡のおそれは低いと判断されやすくなります。
痴漢行為で後日逮捕されるのではないかと不安な場合は、むしろ自ら行動した方がスッキリすることもありますし、何より逮捕を回避することもできます。
自首することで、被害届が出されていたとしても、ご自身が被疑者であることが特定されていない場合には自首は成立します(ただし、処分するにあたっては犯行内容の悪質性や被害者の処罰感情、示談成立の有無などさまざまな事情を考慮して判断されますので、自首という事情だけで不起訴処分となることはありません。)。
他方、被害届が提出されていない(正確には、被害届が提出されているかどうか分からない)のに自首する場合には、本当であればそのまま何事もなく済んでいたかもしれないのに、自首を契機として捜査機関が捜査を開始して前科がついてしまうのではないかということを心配される相談者が非常に多いです。
このような場合には、事件の内容に照らして、被害者が被害届を提出する可能性があるか、被害者が被害届を提出する可能性がある場合、自分が犯人だと特定できる可能性がどの程度あるかを事例に即して検討した上で判断を行うべきです。
ただし、被害届が実際には捜査機関に提出されていなかったとしても、いつバレて逮捕されるのかという日々の不安からは解放されますし、自首を契機に捜査が開始されたとしても、被害者の特定に至らなかった場合には厳重注意で事件自体は終わりますから、真に反省し後悔して不安な日々を過ごしているくらいであれば、自首すべきだと思います。被害者感情としても、自首は間違いなく示談交渉の際にも有利に働きます。
自首することに不安であれば弁護士に同行してもらうことも可能ですので検討してみてください。
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