刑事告訴の重要性と実務上の留意点

刑事告訴は、被害者又はその親権者等被害者と一定の関係性にある親族が、捜査機関に対して犯罪事実を申告して犯人の訴追を求めることをいいます。
告訴を行うことで、捜査機関が捜査を開始し、検察官が起訴するか不起訴にするかの判断まで行い、犯人が刑事責任を問われることになります。
こうした刑事告訴の被害者にとっての重要性、および告訴をするにあたっての実務上の留意点についてご紹介します。
刑事告訴の重要性
1 被害者の権利保護
刑事告訴は、被害者が自らの権利を守るために最も重要な手段です。被害者が告訴することで、加害者に対して刑事責任を追及し、刑事処罰を求めることができます。
これは、加害者の犯罪行為に対する社会的な責任を問う手段でもあります。
例えば、名誉毀損罪などの親告罪は、被害者が告訴をしない限り、検察官が独断で起訴することのできない犯罪です。このような親告罪の制度が存在する趣旨は、被害者意思を尊重するという点にありますが、逆に言えば被害者が告訴を行い、きちんと処罰を求めた際には、捜査機関は捜査を尽くした上で起訴にするか否かの終局処分まで行わなければなりません。
2 犯罪の予防と抑止
刑事告訴をし、加害者に対する法的制裁が科されることで、再度の犯罪行為を抑止することが期待できます。
仮に加害者が不起訴処分となった場合でも、捜査機関は少なくとも加害者を警察署に呼び出して取調べを行い、加害者としても自身が捜査対象(被疑者)になっていることは認識しますので、加害者に前歴はつきます(前歴とは、犯罪の嫌疑をかけられて捜査機関の捜査の対象となった履歴をいいます)。
こうした事実は、加害者に対し一定の精神的負荷を与えることになり、犯罪抑止の一因となり得ます。
また、ニュースなどで取り上げられるほどの大々的な事件であれば社会全体にも犯罪行為に対する厳しい姿勢を示すことになるでしょう。
3 公平性の確保
刑事告訴によって、加害者に対する司法の公正な判断が下されることになります。
捜査の結果、立証に要する証拠との関係で、加害者が不起訴処分となる可能性ももちろんありますが、告訴をすることで、社会秩序や公正が保たれることにもつながり、社会全体の法秩序を守る役割を果たすこともあります。
被害者の視点からしても、被害に遭わされておきながら泣き寝入りするのではなく、警察等の捜査機関がきちんと捜査を尽くしてくれ、加害者に対して公平な処分が下されたという事実は、被害感情や溜飲が下がることにつながります。
実務上の留意点
1 告訴状の内容と精度
刑事告訴をするにあたっては、告訴状の内容は非常に重要です。
受理する側、つまり捜査機関が告訴状を読んだ際に、いつ、どこで、誰が、何を、どうしたのか(どのような犯罪行為をしたのか)がわかるよう、詳細かつ正確に記載しなければなりません。さらに、記載するにあたっては、各犯罪が規定する構成要件にあてはめながら記載することが求められます。
こうした情報が曖昧であったり、不十分だと、受理されないことがあります。
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2 証拠の収集
捜査機関は証拠に基づいて捜査を行うことになりますので、告訴を行う際には、証拠を可能な限り収集し、提出することが重要です。どのような証拠が必要なのかはケースバイケースですので、警察や弁護士と相談しながら集めましょう。
また、警察から「証拠が足りない。」と言われて告訴が受理されなかったという相談が多く寄せられます。
本来的には証拠の収集は捜査機関の行うべき義務であり、被害者が負担すべきものではありません。
証拠の内容や種類にもよりますが、防犯カメラの映像などは警察だからこそより入手しやすいものであって、こうした被害者が容易に収集できない証拠については捜査機関に動いてもらう他ありません。
もっとも、証拠が明確であればあるほど受理されやすく捜査も進展しやすいため、証拠の収集にあたっては被害者と捜査機関が協力して行っていくべきですから、被害者の立場からも出来る限り協力しましょう。
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3 公訴時効に注意
刑事告訴には時効が存在します。犯罪によって期間は異なりますが、例えば、詐欺罪であれば時効が7年、殺人や強盗殺人などの重大な犯罪は時効がありません。時効を経過してしまうと、加害者に対する刑事責任を問うことができなくなりますので、犯罪被害にあった場合は迅速に刑事告訴をすることが重要です。
また、公訴時効とは別に、告訴期間の制限もあります。告訴期間とは、刑事事件の被害者が犯罪事実を捜査機関に申告して犯人の処罰を求める意思表示をできる期間をいいます。
非親告罪では告訴期間の制限はありませんが、親告罪においては「犯人を知った日から6ヶ月を経過したときは、これをすることができない」とされています。
4 取下げのリスク
刑事告訴が受理された後、告訴を取り下げることは手続上可能です。ただし、取下げは公訴の提起があるまでに行う必要があります(刑事訴訟法237条1項)。
告訴を取り下げた以上、公益重視の観点から、再度告訴することはできません。加害者が複数いて、そのうちの一人を対象として告訴を取り下げることもできません。
一度取下げを行ってしまうと再告訴出来ないという取下げのリスクをきちんと理解した上で、告訴取下げは慎重に行うべきです。
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【まとめ】刑事告訴は弁護士にご相談を
刑事告訴は、被害者が加害者に対して法的責任を追及するための重要な手続であり、時に社会全体の法秩序を守る役割を果たすこともあり、非常に重要な手段です。しかし一方で、告訴をする際には、告訴状の作成、証拠の収集などを慎重に対応する必要があります。
告訴が難しいと感じられた方、告訴しに警察に行ったものの警察が受理してくれなかったなど、刑事告訴でお悩み・お困りの方はお気軽に当事務所までご相談ください。