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売掛金・スカウトバック等を規制する風営法改正案の4つの柱

令和7年3月7日、政府は、近年社会問題化する悪質ホストクラブによる女性客に対する売掛金問題、また支払うことができない女性にホストが風俗店を紹介・あっせんし、その紹介料を受け取る、いわゆるスカウトバック問題等を受け、これらを厳しく規制する風営法の改正案を閣議決定した、との報道がありました。

今後、今開かれている国会での審議に進み、速やかな成立と施行を目指しているそうです。

 

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改正案の4つの柱

過去のコラムでもご紹介していますが、今回の風営法の改正には次の4つの柱があります。

  1. ホストクラブなど接待飲食営業への規制追加
  2. スカウトバックの規制
  3. 無許可営業に対する罰則の強化
  4. 営業許可に係る欠格事由の追加

 

①接待飲食営業への規制追加

改正案では、料金に関する虚偽説明や、客の恋愛感情につけこんだ飲食の要求、客が注文していない飲食の提供を「遵守事項」として新たに追加することが想定されています。これら遵守事項に違反すると、行政処分として営業停止や営業許可の取消し、さらには刑事罰を受ける可能性もあります

例えば、料金に関する虚偽説明では、入店時に「3,000円だけ」と説明しておきながら、会計時に高額な飲食代金を請求する行為が当たります。また、客の恋愛感情につけこんだ飲食の要求としては、「今月200万円入れてくれればトップになれる。オレの彼女ならシャンパンを入れて応援してくれるよね? それができないなら彼女とは言えないしオレらの関係はもう終わりだよ。」などという形で、要求に従わねば関係性が破綻することを表明することにより、ホストに対する恋愛感情を利用して困惑させ、飲食を強要するような事例が規制対象となるのではと思いますが、詳細は公布される法律案を待たないとまだ分かりません。

その他にも、売掛金や立替払い、前入金が発生している客との間で、取立てを目的としてホストが威迫行為をしたり、売春を強要したりする行為も刑事罰の対象となる「禁止行為」になるとされています。改正案では、具体的禁止行為としては、売春(海外含む)、性風俗やアダルトビデオの出演等で働かせること対価を受けての性交類似行為などです。

こうした行為は実際に行っていなくても、要求したこと自体が処罰の対象になる予定です。

こうした禁止行為に違反した場合は、6月以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金、若しくはこの両方が科されます。

 

②スカウトバックの規制

売掛金問題と同様に、社会問題化となり、2024年12月の東京地裁の判決において犯罪収益と初めて裁判所で認定されたスカウトバックについても規制されます。

これに違反した場合も、6月以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金、もしくはこの両方が科せられます。

 

③無許可営業に対する罰則の強化

ホストクラブの営業には本来、風営法に基づく許可が必要ですが、近年無許可営業が横行しているのが実情です。

現行法では、無許可営業を行った経営者ら個人に対し「2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金、もしくはその両方」となっていますが、改正案では「5年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金、もしくはその両方」へと引き上げられる見込みです。
また、法人に適用される両罰規定の罰金上限についても、現行法では200万円となっているところを、改正法案では3億円まで大幅に引き上げる案が示されています。これは、多額の売上を上げるホストクラブに対して実効的な抑止力をもたせる趣旨といえます。

 

④営業許可に係る欠格事由の追加

そもそも風営法は、善良の風俗と清浄な風俗環境を保持することなどを目的として成立した法律です。しかしながら、不適格者によって風俗営業がなされることが多く、現行法でも営業許可に係る欠格事由はあるものの、実情に追いつけていない現状がありました。

そこで、改正案では、欠格事由として新たに、①親会社が許可を取り消された法人、②警察による調査後にいわゆる処分逃れをした者(許可取消処分を受ける前に許可証を返納するなど)、③暴力など不法行為を行うおそれがある者が代表者等支配的な影響力を有する者、が加わりました。

これらの欠格事由によって、親会社が営業許可を取り消された法人は新たに事業を行えなくなります。また、許可取消処分を受けた後5年間は営業ができないため、処分逃れとして許可証を返納した者も同様に営業許可を得られなくなります。

 

最後に

風営法改正案が閣議決定されたとのニュースは、風営事業者にとっては敏感なところでしょう。特に、売掛金問題やスカウトバック問題に関して、国が本腰を入れて法律によって取り組むようになったのは大きな出来事です。

まだ正式にこうした改正案の内容で風営法が改正されると決まったわけではありませんが、骨子としてはご紹介した通りになるでしょう。

もっとも、恋愛感情につけこんだ行為をどの範囲で取り締まるかは、線引きが明確ではありません。国会を通過した法案がどのような規制になるのかもそうですし、あくまで事案ごとに判断されるため、今後どのように運用されるかが焦点となるでしょう。

警察がホスト又はホストクラブに対して風当たりを強くしているのは、ここ1年くらいでとても感じています。施行はまだ先ですが、施行された後、売掛金問題やホストに風俗店を紹介されたということがあれば、まずは警察に相談することが優先となるでしょう。

飲食代金を支払義務などに関しては、民事の問題ですが、消費者契約法に基づく取消権の行使などで支払義務を免れることができるケースがありますし、そもそも支払義務が発生しないケースもあります。

一方で、ホストクラブについては、風営法が改正された際には、所属するホストに法令遵守の徹底を教育するとともに、健全な風俗営業がより求められるでしょう。

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