COLUMN

コラム

遺産分割をするにあたってよく起こる前提問題

遺産分割をするにあたって、相続人の範囲遺産の範囲遺言書の効力について争いになることがあります。

これらの問題は、いわゆる遺産分割の「前提問題」とされ、遺産分割をする際には事前にクリアにしておかなければなりません。

しかし、これらの問題は相続人同士の対立に発展することが少なくないため、結果として遺産分割協議がなかなか進まず、遺産分割手続全体が長期化してしまうこともあります。

ここでは、遺産分割の前提問題を解決するために想定される対応や手続について、主な例を挙げながらご紹介します。

 

遺産分割の基本的な進め方

遺産分割は、基本的に次のような流れで、遺産分割協議の成立を目指します。

  1. 相続人は誰か
  2. 相続財産はどれくらいあるのか
  3. 遺言書又は遺産分割協議書に従って、遺産を分配する

もっとも、それぞれの段階で様々な問題が生じる可能性があるため、下記では代表的な争点とその解決策を見ていきます。

相続人の範囲の問題(相続人は誰か)

相続人を確定するためには、被相続人の出生から死亡までが連続している戸籍謄本(除籍・改製原戸籍を含む)を取得すれば、基本的に誰が法定相続人であるかはわかります。

相続人が誰であるかという相続人の範囲でよく実務上問題となるのは、以下のケースです。

  • 行方不明の相続人がいる
  • 生前の被相続人に対して虐待をしていた相続人がいる
  • 認知されていない人物が現れて相続を主張してきた

 

このような場合には、家庭裁判所または地方裁判所などの裁判手続を利用して、法的に相続人を確定させる必要があります。

例えば、

  • 行方不明の相続人がいる場合:家庭裁判所に対し、失踪宣告の申立を行うことが考えられます。失踪宣告が認められれば、その不明者は相続人から除外されることになります。
  • 虐待をしていた相続人がいる場合:被相続人が生前に遺言書で廃除意思を示していた場合などは、推定相続人廃除の審判を家庭裁判所に申し立てることができます。
  • 認知されていない人物が現れた場合:地方裁判所で認知請求訴訟や親子関係不存在確認訴訟を提起し、親子関係を確定する必要があります。

 

 【関連記事】 👇こちらもあわせて読みたい
♦ 相続人の一人と連絡がとれないときの遺産分割の進め方

 

遺産の範囲の問題

相続人が確定したら、次に被相続人の相続財産がどれだけあるかを調査します。

遺言書があれば相続財産が記載されていることが多いので、それをもって特定することができます。後から相続財産(債務も含む)が判明することもあり得ますが、可能な限りリストアップしておきましょう。

遺産の範囲でよく問題とされるのが、

  • 特別受益や寄与分の主張
  • 相続人等による被相続人名義の預貯金の使い込み(不当利得返還請求が絡むケース)

 

こうした問題に対しては、基本的にこれらを考慮した内容での遺産分割協議(話し合い)で解決することが望ましいですが、当事者の対立が激しく、遺産分割協議がなかなか進まない場合は弁護士に依頼して間に入ってもらったり、ケースによっては、寄与分を定める処分を求める調停申立特別の寄与に関する処分を求める調停申立不当利得返還請求訴訟を提起することもあります。

また、「まだ他に遺産があるはずだ」と一部の相続人が主張して協議が進まない場合は、家庭裁判所に「遺産の範囲に関する調停」を申し立て、まず遺産の範囲を確定してから遺産分割協議(または分割調停)に進む方法もあります。

 

 【関連記事】 👇こちらもあわせて読みたい
♦ 【相続は争続?】よくある相続トラブルと予防策

♦ 特別受益と寄与分

 

遺言の効力の問題

遺言書

遺言書が存在する場合、まず公正証書遺言か自筆証書遺言かを確認することが大切です。公正証書遺言は公証役場で厳格な手続を踏んで作成されるため、形式面で争われる可能性は比較的低いです。一方で自筆証書遺言の場合、次のようなトラブルがしばしば問題になります。

  • 遺言書を作成した当時、被相続人が認知症などで遺言能力を欠いていたのではないか
  • 遺言書が変造・偽造された可能性があるのではないか
  • 自筆証書遺言が民法上の要件を満たしていないのではないか

前提として、遺言書に不備があったり、効力や解釈について問題があったとしても、遺言書とは別の内容での遺産分割協議をすることは可能です。

もちろんこの場合は相続人全員が遺産分割協議をすることに納得して、全員が合意する内容にしなければならないというハードルがあります。

例えば、相続人が子Aと子Bの2名だけで、「全財産をAに相続させる」という遺言書があった場合、Bにとっては遺留分侵害額請求を検討するだけでなく、不公平感を訴えたい場面も多いでしょう。

つまり、ここでは遺言書記載通りに遺産を受け取るべきだと考えるAと、遺言書は無効であるから公平に2分の1ずつ分けるべきだと考えるBが対立することがあります。そうすると、この場合はABが合意する内容どころか、遺産分割協議をすること自体納得できないでしょう。

Bとしては、あくまで遺言の効力について争う姿勢であれば、遺言無効確認の調停をした上で訴訟まで持ち込むことになると思います(訴訟で決着がつくまでは1年以上はかかるでしょう。)

 

 【関連記事】 👇こちらもあわせて読みたい
♦ 遺言書の有無が不明な場合の、遺言書の探し方

♦ 遺言などで遺留分を侵害された相続人がとるべき対応

 

最後に

前提問題がある場合でも、相続人全員が合意できれば遺産分割自体は行えます。しかし、相続人の範囲や遺産の範囲、遺言の効力といった前提問題について対立が顕在化しているケースでは、家庭裁判所の調停・審判だけではなく、地方裁判所への訴訟提起を視野に入れる必要があることも事実です。特に以下の点を押さえておくと、手続選択の指針になるでしょう。

まず、家庭裁判所の調停や審判は、紛争を話し合いによって解決することを重視しており、調停委員が中立的な立場から助言や提案を行うことで、合意に至る可能性を模索するいわば「話し合いの場」です。

一方、調停が不成立に終わった場合や、そもそも問題の争点が調停での話し合いによる解決に不向きと考えられる場合は、地方裁判所での訴訟を検討することになります(実際に調停委員から、調停での解決は困難であることを理由に、地裁での不当利得返還請求訴訟等を勧められることもあります。)。訴訟は法律上の主張と証拠に基づいて裁判所が最終的な判断を下すため、当事者同士の話し合いが難しい高度な対立や、事実関係の争いが激しい事案に向いているといえます。

ただし、家庭裁判所の審判と地方裁判所の訴訟で判断が競合した場合、通常は訴訟の判断が優先されるのが実務的な扱いです。そのため、家庭裁判所でいったん審判が下されたとしても、同じ問題を訴訟で改めて争うことはあり得ます。結果的に解決までに多大なる時間と費用がかかる可能性も否定できません。

結論としては、前提問題に争いがあるときは、できるだけ早期に弁護士などの専門家へ相談し、事案の見通しや最適な手段(調停・審判・訴訟など)を検討することが重要です。

調停で解決できる場合には迅速かつ費用を抑えられる一方、複雑な事案や強い争いがある場合には最初から訴訟を念頭に置く必要もあり、事前の方針決定が手続運営を大きく左右するからです。結果的にどのような手続を取るかは相続人の判断にもよりますが、紛争を長引かせないためにも、トラブルが現実化している場合には、速やかな解決のために弁護士に相談することをお勧めします。

コラム一覧