刑事訴訟法改正に伴い、告訴状・告発状はオンラインでの提出が可能へ

刑事手続のIT化
これまでの刑事手続は、逮捕状、公判調書などの公判記録(証拠)、起訴状など基本的に紙ベースによるものでした。
しかし、コロナ禍の影響もあり、非対面で手続がスムーズに進められるよう法の整備が議論され続け、令和7年5月23日、「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が成立し、一部の規定を除き、令和9年(2027年)3月31日までに全面的に施行される予定です。
今回の改正により、これまでは紙ベースで行われていたものがオンラインによって取得することが可能となり、刑事手続のIT化が進んでいきます。
中でも今回は、犯罪被害者にとって密接な関係である刑事告訴・刑事告発について、刑事手続のIT化によってどのように変わっていくのか、注意するべき点などについてご紹介したいと思います。
【関連記事】 👇こちらもあわせて読みたい |
♦ 刑事手続がIT化へ~電子令状などを盛り込んだ改正刑事訴訟法が成立 |
告訴状・告発状もオンライン提出が可能となる
改正前、刑事告訴又は刑事告発に関しては、「書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない。」とされ(改正前刑事訴訟法241条1項)、実務的には紙ベースの告訴状又は告発状を警察署に提出するのが一般的でした。
しかし、今回の改正により、「書面若しくは口頭で、又は主務省令で定めるところにより電磁的記録(電子情報処理組織(検察官又は司法警察員の使用に係る電子計算機と告訴又は告発をする者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。)を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって主務省令で定めるものをいう。)により、検察官又は司法警察員にしなければならない。」と改正されます(改正刑事訴訟法241条1項)。
簡単に言えば、刑事告訴又は告発をする方法として、改正前の書面又は口頭のみならず、オンラインによるデータでの提出も可能となりました。
オンラインによる具体的な提出方法は、これから整備されることになりますが、改正刑事訴訟法が全面的に施行される2026年度末までには仕様が明らかになるでしょう。
告訴状・告発状に記載しなければならない項目が明記される
今回の改正刑事訴訟法によって、告訴状又は告発状に明記しなければならない項目に関する規定が新設されました(改正刑事訴訟法241条2項)。
法律上、明記しなければならないのは、次の通りです。
- 犯罪事実
- その犯人の処罰を求める旨
- 告訴又は告発をする者の氏名及び住所又はこれに代わる連絡先(法人にあっては、その名称又は商号、代表者の氏名及び主たる事務所又は本店の所在地)
記載事項が明記されたとしても・・・。
これらはあくまで形式面であって、告訴状に、犯罪事実、犯人の処罰を求める旨、告訴人又は告発人の氏名及び住所又はこれに代わる連絡先、がすべて記載されているからと言って、すぐに受理されるわけではなく、受理までのハードルが下がるわけではありません。
大事なのは、「犯罪事実」がきちんと法的に整理されたうえで記載されているかという点です。
もっとも、告訴又は告発に対しては捜査機関に受理義務があることはこれまでの記事でもお伝えしている通りですが、形式的に備えていたとしても、捜査機関から証拠が足りないなどと言って受理を拒まれたりするケースは今後も十分あり得るでしょう。
【関連記事】 👇こちらもあわせて読みたい |
♦ 刑事告訴は難しい?受理される確率は? |
告訴又は告発が乱発する可能性も?
告訴又は告発がオンラインでも提出できるようになり、犯罪被害者において利便性が高まったといえる反面、提出が容易になるということは、告訴又は告発が乱発又は濫用されるという事態が想定されます。
捜査機関において、虚偽の事実に基づく刑事告訴と判断された場合には、捜査機関によって又は被告訴人の申告によって、虚偽告訴罪(刑法172条)に問われ、3月以上10年以下の懲役に処せられることもありますので、ご注意ください。