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生成AIコンテンツが名誉毀損または著作権侵害に当たる場合、誰に対して刑事告訴をするべきか

はじめに

AI技術が発展・普及したことで、AIで生成したコンテンツが気軽に作成でき、それをネットに容易に公開することができるようになりました。

しかし、AI技術が社会の役に立つ便利な意味で利用されれば問題ないのですが、中には、AI技術を悪用して、他人の名誉を毀損する、または著作権を侵害するコンテンツが生成されることがあります。

これらはもちろん、犯罪行為に当たり、刑法または著作権法で刑事罰が規定されていますが、実際に生成AIコンテンツを対象に、刑事告訴をする場合、被告訴人(犯人)の氏名などを特定した上で刑事告訴しなければならないのかについて、名誉毀損と著作権侵害、それぞれで解説します。

 

名誉毀損に当たるケース

AIを使ったコンテンツで、よく名誉毀損が問題となり得るのは、ディープフェイクです。

ディープフェイクとは、特定の人物の顔や声を、他の映像や音声に合成する技術を言います。特に、わいせつな画像又は動画が問題となりやすく、実際に、過去の裁判例では、アダルトビデオの動画に、ある芸能人の顔画像をはめこんで、ネット上に公開した行為について、芸能人としての名誉を毀損し、精神的苦痛を及ぼすと同時に、芸能活動に支障を及ぼすなど多大な経済的損害を及ぼしかねない非常に悪質な行為であるとして名誉毀損罪(刑法230条1項)の成立を認めたものがあります(東京地判令和2年12月18日)。

 

そもそも名誉毀損罪(刑法230条1項)とは、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合に成立する犯罪で、その法定刑は3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金となります。

名誉毀損罪で特に問題となる要件が、名誉を毀損した、つまりその人の社会的評価を低下させたかどうかです。実際に、社会的評価を低下させたといえるかはケースバイケースですが、東京地裁が「芸能人として」の名誉について言及しているとおり、ディープフェイク画像または動画の公開等によって社会的に注目を浴びやすい人であれば社会的評価を低下させたと判断されやすいでしょう。もちろん、芸能人以外の一般人に対しても名誉を毀損したと判断される可能性は十分にあります。

 

 

現行法上、生成AI、とりわけディープフェイクそのものを直接的に規制する法律はありませんので、刑法等既存の法律で処罰されていくことになります。ただし、欧米や韓国では、ディープフェイクに関する法律が施行されており、日本でも令和7年4月1日から鳥取県で性的ディープフェイクを禁止する改正青少年健全育成条例が施行されています。これらを契機に、各自治体による条例制定や政府による法整備が進む可能性は十分にあります。

 

名誉毀損に当たるとして刑事告訴をするとき

こうしたディープフェイク画像など生成AIによって、自身の名誉を毀損されたと思われた場合、基本的に民事・刑事のいずれか又はいずれも、手続することができますが、本記事は刑事に限った解説をしていきます。

刑事手続をする場合、被害者としては被害届または(及び)刑事告訴をすることができます。捜査の実効性を高めるのであれば、被害届よりも刑事告訴の方が、捜査機関側において受理義務のみならず、受理後の捜査義務が生じますので、ずっと効果的です。

その際、問題となるのが、この場合の被告訴人は誰を書けばよいのかということです。

結論から申し上げますと、刑事告訴は、刑事告訴は犯人に対する処罰を求める意思表示であり、犯人の特定が告訴の成立要件ではないため、氏名や住所を特定できていなくても刑事告訴は成り立ちます。

したがいまして、犯人が誰かわからない場合は氏名不詳者として告訴することができます。

ただし、例えば、ディープフェイク画像がネットに公開されているというような場合であれば、全くの氏名不詳者ということではないでしょうから、ある程度特定するためには、アカウント名など、犯人をある程度特定できる情報は記載しておいた方が、捜査を進める上でより効果的です。

 

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著作権侵害に当たるケース

先ほどご紹介した東京地裁判例では、名誉毀損罪のほかに、既存のアダルトビデオを改変したとしてアダルトビデオ制作会社に対する著作権侵害も認めています。

このように、生成AIの元データには著作権法上の著作物であるものが多く、これをディープフェイクのように改変されれば、判例のように、著作権侵害に問うこともできます。

著作権の細かい権利については、参考記事をご覧くださればと思いますが、東京地裁の場合は、著作権のうち、公衆送信権(著作権法23条)、翻訳権等(著作権法27条)、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(著作権法28条)をそれぞれ侵害するものとしました。

 

生成AIコンテンツが自身が有する著作物(著作権法10条各号)を侵害するものである場合、名誉毀損と同様に、刑事告訴をすることができます。

ただし、著作権侵害の多くは親告罪であるため、刑事責任を問うためには告訴が必要です。その場合、犯人を知った日から6か月以内に告訴をしなければなりません(著作権法123条1項及び刑事訴訟法235条)。

ここで、「犯人を知った」とは、氏名や住所など詳細まで知る必要はありませんが、他者と区別できる程度の認識は必要と一般的に解されています。

特許権や意匠権などと違い、著作権侵害が親告罪とされているのは、著作権自体が私権であり、被害法益が小さいと一般に解され、そのため、その侵害については被害者であり告訴権者でもある著作権者の判断に委ねるのが適当と言われています。

 

著作権侵害に当たるとして刑事告訴をするとき

著作権侵害に当たるとして刑事告訴をする際には、被告訴人として記載するケースは、主に2つ(ただし、事実上1つ)と思われます。

まずは、AIに特定の指示を与え、著作権侵害に当たるコンテンツを作成した者です。被告訴人としてまず最初に思い浮かぶでしょう。

次に、AIの開発者です。開発者については、直接的な著作権侵害というよりも、コンテンツ作成者がそのAIを使わなければ著作権侵害にあたるコンテンツを作らなかったという間接的な侵害に過ぎません。開発者が侵害コンテンツが作られることを認識・認容していたという『故意(幇助の故意)』の立証が極めて困難であるため、AI開発者の刑事責任を問うのは難しいと思います。

なお、被告訴人に関しては、名誉毀損と同様に、氏名住所まで特定する必要はありません。氏名不詳者であっても告訴することはできますし、具体的な特定は受理後の捜査機関による捜査で明らかになります。

 

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最後に

AIを悪用した犯罪は、今後も増えてくると思います。

名誉毀損罪または著作権侵害による捜査の実効性を高めるためには、刑事告訴の方が捜査機関の捜査義務も生じますので、効果的です。ただし、実務上、立証が困難であったり、証拠が乏しい場合には、捜査機関が告訴受理に慎重になることもゼロではありません。

当事務所は、さまざまな犯罪について、かつあらゆるケースでの刑事告訴について、ご依頼いただいた案件全てを受理させてきた実績がございます。生成AI関連のみならず、広く犯罪被害に対する刑事告訴でお悩みの方は、お早めに当事務所までご相談ください。

 

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