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遺留分の算出方法【弁護士が解説】

Q 父(被相続人)が先月亡くなりました。父は生前、すべての財産を母に相続させるという遺言を書いていました。そのような場合、被相続人の子である私は遺留分侵害額の請求をすることができると聞いたのですが、具体的な計算がわかりません。相続人は、母(配偶者)と長男、次男の3人だけで、相続財産は全部で800万円の評価額で、父に贈与や債務はありませんでした。 

A 民法では、相続人の権利や利益を守るため、相続人が最低限相続できる財産を定めています。これを遺留分といいます。そして、遺留分割合も定められており、相続人にどのような人がいるのか(配偶者のみなのか、子だけなのかなど)によって割合は異なります。 

また生前贈与があった場合の処理についても、民法で定められていますので、注意が必要です。 

 

この記事では、冒頭のQuestionをもとに、遺留分の算出方法についてご紹介したいと思います。なお、これからご紹介するのは、あくまで比較的権利関係がはっきりしている場合の算出方法です。具体的な遺留分侵害額などについてはケースバイケースですので、遺留分についてお困りのことがありましたら、当事務所までお気軽にご相談ください。 

 

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遺留分の基本的な算出方法 

財産の価額を求める。 

具体的な遺留分を計算するためには、まず財産の価額(基礎財産)を算出します。 

財産の価額(基礎財産)については、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とされています(民法1043条1項)。 

冒頭のQuestionでは、相続財産の評価額が800万円で、被相続人に贈与や債務はなかったとのことですので、財産の価額(基礎財産)は800万円となります。 

 

言葉ではわかりにくいので、算定式化すると以下のようになります。 

財産の価額 = 相続財産 + 贈与価額 - 債務 

 

基礎財産の評価基準時は相続開始時を基準に評価され、また評価の方法は固定資産評価証明書記載の評価額など客観的価額に基づいて評価されます。 

さらに、条件付または不確定期限付権利や債務がある場合、家庭裁判所に鑑定人選任の申立てを行うことがあります。 

 

遺留分の割合 

遺留分は、厳密に言いますと、総体的遺留分個別的遺留分があります。具体的な遺留分を求めるにあたっては、まずは総体的遺留分について知っておくことが重要です。 

総体的遺留分(民法1042条1項各号) 

相続財産全体に占める遺留分の割合をいい、相続人の組み合わせによって割合が異なります。被相続人の父母や祖父母など被相続人より前の世代といった直系尊属のみが相続人である場合は3分の1、それ以外(配偶者のみの場合、直系卑属の場合、配偶者と直系卑属の場合、配偶者と直系尊属の場合)は2分の1、が総体的遺留分となります。 

冒頭のQuestionの総体的遺留分は、相続人が配偶者と子2人(長男と次男)ですので、2分の1となります。 

直系尊属とは、被相続人より前の世代をいい、被相続人の父母、祖父母を指します。これに対し、被相続人の子や孫は直系卑属といいます。 

 

個別的遺留分(民法1042条2項) 

個別的遺留分は、総体的遺留分に法定相続分を掛け算して求めます。 

したがいまして、例えば、冒頭のQuestionの場合、相続人は配偶者と子2人(長男と次男)ですので、それぞれの個別的遺留分割合は、以下の通りとなります。 

配偶者  2分の1(総体的遺留分)×2分の1(法定相続分)=4分の1 

子    2分の1(総体的遺留分)×4分の1(法定相続分)=各8分の1 

※子が3人であれば、法定相続分2分の1を3人で割って、子1人あたりの割合は12分の1となります。 

 

個別的遺留分とは、各遺留分権利者が遺留分を侵害されている場合に実際に請求できる割合のことをいいます。

 

個別的遺留分に関するまとめ 

相続人が配偶者のみの場合 →2分の1 

相続人が配偶者と子1人のみの場合 →配偶者は4分の1、子は4分の1 

相続人が配偶者と直系尊属の場合 →配偶者は3分の1、直系尊属は6分の1 

相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合 →配偶者は2分の1 

※兄弟姉妹に遺留分はありません。 

相続人が子1人だけの場合 →子は2分の1 

※先ほど同様に、子が複数いる場合は、上記2分の1を子の人数で割ります。 

相続人が直系尊属の場合 →直系尊属は3分の1 

相続人が兄弟姉妹の場合 →兄弟姉妹に遺留分はありません。 

 

冒頭のQuestionにおいて、仮に長男が被相続人より前に死亡し、長男にお子さん(被相続人から見れば孫)が2人いたような場合は、孫も遺留分権利者となります。 

この場合の遺留分割合は、配偶者が4分の1、次男が8分の1、孫が各16分の1となります。

  

③財産の価額と遺留分割合を掛け算する。 

上記①財産の価額と②遺留分割合を掛け算すると、最終的にその相続人の遺留分が算出できます。 

したがいまして、基礎財産は800万円、子1人あたりの遺留分割合は8分の1ですので、①の算定式にあてはめますと、 

子1人あたりの遺留分侵害額 = 800万円 × 8分の1 

              = 100万円  となります。 

 

遺留分侵害額請求権の行使 

さて、具体的な遺留分が明らかになったら、遺留分侵害額の請求をします。請求方法については、一般的に、内容証明郵便や裁判手続を利用しますが、詳しくは過去のコラムで紹介していますので、ご覧ください。 

 

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当事務所では、ケースバイケースに応じた具体的な遺留分侵害額の算出から、遺留分侵害額請求権の行使、その後の相続手続などを多数扱っております。遺留分を始め相続手続でお困りの方はお気軽に当事務所までご相談ください。 

 

贈与財産について 

基礎財産を求めるところで、「贈与価額」が出てきました。 

贈与については、相続人以外の第三者に対して贈与された場合は「相続開始前の1年間にしたものに限り」その価額を算入し(民法1044条1項)、相続人に対する贈与の場合は「相続開始前10年間にしたものに限り」その価額を算入することになっています(民法1044条3項)。 

したがいまして、上記①の算定式をより細かくすると、 

基礎財産 = 相続財産 + 相続人に対する生前贈与の価額 

            + 第三者に対する生前贈与の価額 

            - 債務 

            となります。 

 

実務上、特に「相続人に対する生前贈与」については争いとなることが非常に多いです。 

相続人に対する生前贈与が、「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与」(民法1044条3項)にあたり、かつ相続開始前10年間にされたものであれば、特別受益と評価される価額に限り、遺留分算定の基礎財産に算入されます。 

贈与にかかる財産の価額を相続財産に算入することを要しない、いわゆる持戻し免除の意思表示をしていた場合でも、遺留分算定の基礎財産に算入されます。 

さらに、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときもその贈与の価額を算入します(民法1044条1項後段)。 

したがいまして、冒頭のQuestionで、被相続人が遺言で、配偶者に400万円、長男に200万円、次男に200万円を相続させるとなっており、相続開始前10年以内に、長男に生計の資本として200万円の贈与がありました。 

この場合の基礎財産は、相続時の財産800万円に、贈与200万円を加えた1000万円となります。 

 

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♦ 特別受益と寄与分

 

遺留分など相続に関するお悩みは弁護士にご相談を 

以上、遺留分の算出方法について簡単にご紹介しました。 

簡単にご紹介しただけでも、生前贈与、特別受益が絡んだりして複雑になるケースもあります。この他にも寄与分が考慮されるケース、相続人同士で感情的になってしまい、遺産分割が進まないケースなどなど、相続トラブルは多岐に及びます。 

相続トラブルでお悩み、お困りの方はお気軽に当事務所までご相談ください。具体的事情をヒアリングの上、適切かつ迅速な手続により相続トラブルが解決できるようサポート致します。 

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