窃盗被害に遭ったときの刑事手続
身近な犯罪の中に、ひったくり、万引き、空き巣などがあります。
これらは窃盗罪に当たり得ますが、具体的にどのような行為をすれば窃盗罪にあたるのか、窃盗被害に遭ったときはどのような対応ができるのかを解説します。
今回は、窃盗罪について、被害に遭ったときの対応などについて、簡単にご紹介したいと思います。 |
窃盗罪とは
窃盗罪は、他人の財物を窃取したときに成立する犯罪です(刑法235条)。未遂でも犯罪となります(刑法243条)。
窃盗罪が成立するためには、後述の要件を満たす必要があります。
窃盗罪が成立するための構成要件
窃盗罪が成立するためには、①他人の占有する財物を②窃取することの他に、主観面での要件として③窃盗の故意、④不法領得の意思が必要となります。
他人の財物
一般的に、「財物」とは、現金、時計、宝石、自動車など形ある物(これを法律上は「有体物」という。)のことを指します。これらは財産的価値を有しているものがほとんどですが、判例は財産的価値の有無を問わないとしています。
例えば、ゴルフ場におけるロストボール、失効した運転免許証や他人名義で預金口座を開設し、銀行から詐取した預金通帳といった物についても財物性を肯定していますが、メモ1枚やはずれ馬券については財物性を否定している判例もあります。
これらの他、有体物ではないものの、例外として電気(刑法245条)も「財物」にあたります。
ただし、不動産については、不動産侵奪罪(刑法235条の2)が存在しますので、窃盗罪における財物からは除外されています。
また「他人の占有する」という要件ですので、自然水や野生動物といった誰の所有にも属していない物を盗んでも窃盗罪は成立しません。
なお、死体、遺骨などについては納棺物領得罪(刑法190条後段)が成立し得ます。
他人の占有
窃盗罪が成立するためには、財物が「他人の占有」の下にあり、その占有を移転させ、取得することが必要です。
ここにいう占有とは、財物に対する事実的支配・管理を意味します(なので、例えば被害者が財布をベンチに忘れて去ってしまった場合に置き忘れた財布を犯人が盗んだようなケースでは、被害者の事実的支配が財布に及んでいたか否かによって窃盗罪と占有離脱物横領罪のいずれが成立するか、微妙な事案になります。その判断に際しては、被害者と財布との距離や財布の置かれた状況、財布を忘れて去ってからどのくらい時間が経過していたかなどを考慮して、事実的支配が及んでいたか否かを決します。)
財物の事実上の占有があるかどうかは、占有の事実(客観面)と占有の意思(主観面)を総合的に考慮して、ケースバイケースで判断されるため、多くの裁判例で論点となっているところです。 |
占有の事実
財物を事実上支配している状態を意味します。簡単に言いますと、その財物をどのようにも自由に処分できる状態にあることをいいます。
例えば、通行人が持っている手提げ鞄を目がけて、後ろからバイクで近寄り、手提げ鞄を奪い去ったケースでいえば、被害者は手提げ鞄を実際に持っていたので占有の事実が認められます。さらに、主観的にも被害者はその鞄を占有しているという意識がありますので、占有の事実も認められます。したがいまして、このひったくり犯の行為は窃盗罪にあたるということになります。
占有の意思
占有の意思は、占有の事実を補充すると考えられていますので、占有の事実が存在すれば、それに伴って占有する意思があったと解されます。
なお、占有の意思が認められない場合は、占有離脱物横領罪(刑法254条)となります。
窃取
「窃取」とは、他人の占有する財物を、占有者の意思に反して財物に対する占有者の占有を排除・侵害して、自己または第三者の占有に移転させることをいいます。
言葉にすると難しいですが、例えば、コンビニでお菓子を万引きしたような事案では、犯人がお菓子を自分のバッグやポケットに入れてしまえば、外見から見ても占有者であるお店の占有が完全に排除され、犯人の占有に移転したと言えますので、その時点で「窃取した」と認められて窃盗罪が成立します。
故意
故意とは犯罪事実の認識・認容をいいますので、窃盗罪における故意とは、他人の財物を窃取することの認識・認容をいいます。
要するに、犯人が主観面として、「人の物だと知りながら、盗むつもりで盗んだ。」と言えるかどうかという問題になります。
したがって、例えば、他人の傘を自分の傘だと思って持ち帰ったとしても、他人の傘を窃取する認識・認容がないので、故意が認められません。 |
不法領得の意思
不法領得の意思は、条文に明記がありませんが、判例によって窃盗罪が成立するための要件とされています。
不法領得の意思とは、権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思をいいます。
簡単に言いますと、自分の物にしようとする意思があることです。
窃盗罪の法定刑
以上の構成要件すべてが成立したとき、窃盗罪として10年以下の懲役または50万円以下の罰金となります。
窃盗罪の公訴時効期間
窃盗罪は、7年の公訴時効期間があります(刑事訴訟法250条2項4号)。
7年が経過すると、犯人に刑事責任を問うことはできません。窃盗被害に遭ったら、客観的な証拠の関係上、速やかに弁護士にご相談ください。
なお、窃盗罪が親告罪となるようなケースにおける告訴時効期間は、「犯人を知ってから6か月」とされています(刑事訴訟法235条)。
窃盗被害に遭ったら・・・?
窃盗被害に遭ったときは、被害届や刑事告訴の提出、また金銭の賠償を求めることになるでしょう。どのような手続をとるのかは、ケースバイケースによるので、まずは弁護士に相談することをお勧め致します。
窃盗罪で刑事告訴できる?窃盗罪は親告罪?
検察官が公訴を提起するためには、告訴が必要となる犯罪があります。これを親告罪といいます。
窃盗罪で刑事告訴はできるかどうかについて、まずは窃盗罪が公訴の条件となるかどうか(つまり親告罪であるかどうか)ですが、結論から言いますと、窃盗罪は基本的に親告罪ではありませんので、必ずしも刑事告訴をしなければいけないわけではありません。ただし、告訴が不要だから出来ないわけではなく、告訴をすることもできます。
ただし、窃盗罪は親族相盗例の規定が適用されるケースでは親告罪となりますので、注意が必要です。 |
窃盗罪と親族相盗例
親族間における窃盗は、窃盗をした犯人からみて、被害者が配偶者、直系血族または同居の親族のときは、刑が免除されます(刑法244条)。
つまり、裁判をしても刑が免除されますので、検察官は公訴を提起しません。
親族相盗例は、「法は家庭に入らず」の考えから、親族間の財産上の紛争については親族間に委ねるのが相当であるという政策的な理由に基づくものです。 |
そして、より重要なのは、配偶者、直系血族または同居の親族以外の場合です。
この場合、窃盗罪は親告罪となります。
つまり、犯人と被害者の間に、親族関係など一定の関係がある場合に限っては親告罪となり、被害者からの告訴がなければ犯人に刑事責任を問うことはできません。
例えば、同居していない姉の財物を妹が盗んだとしても、その姉が告訴をしない限り、窃盗罪で逮捕・起訴されることはありません。
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少し応用的な話ですが、もし犯人と知人が共犯で、犯人の親族から窃盗をした場合、共犯者(知人)と被害者との関係が親族でない場合は、通常の窃盗犯人として扱われます(刑法244条3項)。そのため、刑が免除されたり、刑事告訴を受ける可能性があります。
また、窃盗の被害者に親族以外がいる場合も親告罪とはなりません。例えば、同居していない兄が所有していると思っていた自動車を弟が盗んだが、実はその自動車は第三者が所有していたという場合、窃盗事件に関係するすべての人物に親族関係があるといえず、弟は告訴等関係なく、捜査の対象として逮捕される可能性があります。つまり、親族間の特例が認められるためには、窃盗をした人物と財物の所有者または占有者に親族関係があることが必要です。
窃盗被害に遭ったら弁護士にご相談を
以上は窃盗被害に遭ったときの刑事手続の一つである刑事告訴を中心にご紹介しました。
刑事告訴以外にも警察に被害届を提出することができますが、被害届は被害があったことを申告するだけですので、犯人に対する処罰の意思表示も含まれる刑事告訴の方が、犯人に対する刑事責任を問いたい場合にはより強力といえ、刑事責任を負わせる可能性はより高まるでしょう。
しかし、刑事告訴、被害届を提出するにあたっては、警察が何かと理由をつけて受理しない、動きが悪いなどのケースもあります。そのような場合は、被害届を提出前に、弁護士や警察に相談することをお勧めします。
そもそも前提として、警察は、告訴が行われたときは、これを受理しなければならない義務を負っているため(犯罪捜査規範63条)、受理しないという選択はできません。
それにもかかわらず、何かと理由をつけて受理しようとしない警察がいるのも事実です。
だからといって、決して諦める必要はありません。
窃盗罪は未遂であっても、犯人が不明でも(ただし、特定のためのある程度の情報は必要です。)、刑事告訴することができます。
泣き寝入りすることなく、窃盗被害にあった場合は、当事務所までご相談ください。
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